side 小鳥遊 雷人
部屋の電気を付けながら、スマホを操作する。
引退前に交流があったアーティストに連絡を取るためだ。アルバムを共同制作したり、互いのライブに呼び合った戦友。
彼の名前は大地。何をするにもとにかく派手でよく目立つ。ほんの数日前にもSNSで炎上していた。
悪い奴じゃないんだけど…、モノの伝え方がストレートすぎて毎度、周囲を驚かせている。
今度の火種はどうやらサングラスらしい。
グループに属しているアイドルやその他歌手に対してだろうか。『わざわざサングラスで個性を潰すアーティスト風の群れを見る度、疑問に思う。お前らは売れたくないのか?』
この言い方なら炎上しても仕方がない。庇いようがない。でもきっと、真意は違うはず。大地は口下手だから、一つのことを説明しようとするととんでもない量を喋らなければいけない。それをまとめたのがこの文章なのだろう。
大地には申し訳ないけれど、哀れな奴だと思ってしまうね。
「やぁやぁ、また派手に燃えてるね」
『言いたい奴らにゃ言わせときゃいい。で?何。本番前だから手短に』
「実はさ」
度々炎上するのは有名な証。これでも大地は世界的なトップアーティストとして世界中を飛び回っている。国内での人気はもちろんのこと、各国に大勢のファンを抱えて大忙しだ。
たまたま本番前に数分間の猶予があったのか、はたまた、監督の本番五秒前コールを制止したのかは分からない。
大地の発言一つで天と地がひっくり返るほどの影響力があり、常に他人の目が光っている。歌手としてのセンスや人柄、実力でトップに立ち続ける彼を、心の底から尊敬している。
『へぇ、楽しそうじゃん。いいよ。乗った』
簡単に要件を伝え、咳払いをした。
『今度、加湿器持ってく。どうせ無職だろ。待ってろよ』
「相変わらずストレートに言うね。加湿器はありがとうだけど、来る前に連絡してよね。無職だけど外出はするから。勝手に来て、居ないって怒られるの嫌だし」
『いなかったら家の前に置いといてやるよ。じゃーな』
こっちの返答を待たずにガチャ切り。本当、ストレートだよなぁ。思わずため息を吐くが、イヤな感情ではない。
スマホを上着ポケットに入れてリビング横の洋室へ足を踏み入れる。引退を覚悟した日から、閉め切っていた部屋だ。
一年も経っていないから想像より埃は溜まっていない。
もう、関わることができないと諦めていた音楽にまた触れてみたい。育成したいと思える人材を探すというご立派な建前でしがみついていた音楽に、真正面から向き合ってみたい。
黒く大きなグランドピアノに手を這わせ、そっと鍵盤蓋を開けた。
一つ鍵盤を抑えれば重厚な存在感とは裏腹に繊細な音を奏でる。
できるだろうか。
全てに絶望した高校生をトップアーティストに、できるだろうか。
自分の人生すら棒に振った俺が、一人の高校生の人生を預かってもいいのだろうか。
振り向いてくれるだろうか。
…いや。やるからには本気で、全力で。なんとしても振り向かせる。




