side 小鳥遊 雷人
「気に掛けたいってそういうことねぇ」
先走ったことを責められるかと思ったが、それについては触れられなかった。
「ほっとけないんだ?」
旧友と二人、応接室で頬杖を付く。
何もかもを諦め、絶望したかのように俯く彼を見て満の気持ちが分かった。高校生の彼に、一体どんな出来事があって、何も見ないように視線を落とすのか。少なくとも満は彼の事情を知っているのだろう。
「俺、諦め悪いんだよねー」
「丹羽はさ」
一方通行なキャッチボールが会話になった。
一点を見つめて、満の虚無を感じる。
「臆病になっちゃってるだけで、新しいことを始めれば真面目にやり遂げるよ」
「教師の審美眼ってやつ?」
「そんなんじゃないけど。なんとなくね」
いろんな生徒を見ているから、少し話せばおおよそどんな性格なのかが分かるという。
歌を聴いただけの俺は、性格までは分からないけれど、スター性・アーティストとしての魅力を十分に感じた。伏目がちな表情さえ、使いようによっては大きな財産になるだろう。
活動を辞めてからすっかり疎かになっていた曲作り。あの子に歌ってもらいたいメロディーがどんどん浮かぶ。おとなしめの雰囲気を、ロック調でぶち破るのも楽しそうだ。
他人を見て曲が浮かぶのは初めてで、絶対に逃すわけにはいかないと強く感じた。
「歌手の生歌って聞いたことないからどんなもんか分からないけど、雷人が丹羽に可能性を感じているなら、俺はお前にあいつを預けたいと思ってる」
満の固い決意だった。聞けば、担任生徒というわけではないらしい。教科担任でもなければなんの接点もない。きっと何かの巡り合わせで出逢わせてくれたのだろう。それが彼のためになるのかもしれない。出逢いはタイミング。今日ここで出逢ったことに、必ず意味がある。
「うん。じゃあどうしたらいいかな。もう、振られちゃってるんだけど」
「だから待てって言ったのに。お前の悪いところだぞ。誰にも相談せずになんでも勝手に決める」
「ははは。引退発表のときもマネージャーに怒られたよ」
「マネージャーにすら言わないってどんな問題児だよ」
「それはもう、しょうがない。歌えないんだから、やめます!って言うしかないじゃない」
右手を挙げて元気に主張すると、満は何か言いたげに口を噤んだ。
丹羽くんを誘い込む作戦会議は日を改めることにして解散した。満はここの教師で、今は文化祭の真っ最中なのだ。いつまでも応接室に閉じ込めておくわけにはいかない。
「じゃ、また連絡するから。勝手に行動するなよ」
勝手にできることがあればするけど、今回は名字しか知らない、しかも高校生相手の事案だから何もしないよ。と心の中で言い返す。
「分かってるよ。毎日暇だからできるだけ早くね」
早く行動を起こさないと干からびてしまうよ。
今日は喋りすぎてしまった。少しだけ喉がチクチク痛む。
喉元をさすりながら帽子をグッと深く被り直した。




