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君がいたから  作者: HRK
2.
124/152

side 小鳥遊 雷人



 

 「気に掛けたいってそういうことねぇ」


 先走ったことを責められるかと思ったが、それについては触れられなかった。


 「ほっとけないんだ?」


 旧友と二人、応接室で頬杖を付く。

 何もかもを諦め、絶望したかのように俯く彼を見て満の気持ちが分かった。高校生の彼に、一体どんな出来事があって、何も見ないように視線を落とすのか。少なくとも満は彼の事情を知っているのだろう。


 「俺、諦め悪いんだよねー」

 「丹羽はさ」


 一方通行なキャッチボールが会話になった。

 一点を見つめて、満の虚無を感じる。


 「臆病になっちゃってるだけで、新しいことを始めれば真面目にやり遂げるよ」

 「教師の審美眼ってやつ?」

 「そんなんじゃないけど。なんとなくね」


 いろんな生徒を見ているから、少し話せばおおよそどんな性格なのかが分かるという。

 歌を聴いただけの俺は、性格までは分からないけれど、スター性・アーティストとしての魅力を十分に感じた。伏目がちな表情さえ、使いようによっては大きな財産になるだろう。


 活動を辞めてからすっかり疎かになっていた曲作り。あの子に歌ってもらいたいメロディーがどんどん浮かぶ。おとなしめの雰囲気を、ロック調でぶち破るのも楽しそうだ。

 他人を見て曲が浮かぶのは初めてで、絶対に逃すわけにはいかないと強く感じた。


 「歌手の生歌って聞いたことないからどんなもんか分からないけど、雷人が丹羽に可能性を感じているなら、俺はお前にあいつを預けたいと思ってる」


 満の固い決意だった。聞けば、担任生徒というわけではないらしい。教科担任でもなければなんの接点もない。きっと何かの巡り合わせで出逢わせてくれたのだろう。それが彼のためになるのかもしれない。出逢いはタイミング。今日ここで出逢ったことに、必ず意味がある。


 「うん。じゃあどうしたらいいかな。もう、振られちゃってるんだけど」

 「だから待てって言ったのに。お前の悪いところだぞ。誰にも相談せずになんでも勝手に決める」

 「ははは。引退発表のときもマネージャーに怒られたよ」

 「マネージャーにすら言わないってどんな問題児だよ」

 「それはもう、しょうがない。歌えないんだから、やめます!って言うしかないじゃない」


 右手を挙げて元気に主張すると、満は何か言いたげに口を噤んだ。


 

 丹羽くんを誘い込む作戦会議は日を改めることにして解散した。満はここの教師で、今は文化祭の真っ最中なのだ。いつまでも応接室に閉じ込めておくわけにはいかない。


 「じゃ、また連絡するから。勝手に行動するなよ」

 

 勝手にできることがあればするけど、今回は名字しか知らない、しかも高校生相手の事案だから何もしないよ。と心の中で言い返す。


 「分かってるよ。毎日暇だからできるだけ早くね」


 早く行動を起こさないと干からびてしまうよ。


 

 今日は喋りすぎてしまった。少しだけ喉がチクチク痛む。

 喉元をさすりながら帽子をグッと深く被り直した。

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