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君がいたから  作者: HRK
2.
123/152

side 鏡堂 広太




 「初めまして」



 当てもなく走り続け、一旦冷静に考えた。有名人が来ているなら、人目につくところにはいないだろう、と。


 応接室に使用中の札がかかっているのを確認し、ノックした。杉田はいなかったがどうやら探していた人物らしい。


 「えぇ!?本物!?やば、え、やばい」


 ひたすら走り続けた村尾が挙動不審になっている。


 「本物なんだけど!?」


 行こうと言った本人が発狂している。

 俺は芸能人には疎いからよく分からない。


 「超輝いてるっすね」


 翔也も、緊張している。遠慮気味に話しかけていた。


 「あぁ、アンコールの」


 俺は一人冷静に、ライブ中の記憶を巡らせた。

 黒いキャップを目深に被ってマスクをしていたから、素顔は見えなかった。服装と声で合致した。


 「急に叫んじゃってごめんね、びっくりしたでしょ」

 「あーいや」


 空は、いつもRAITの曲を歌う。RAITのことが好きなんだろうと思っていた。でも、反応がイマイチ。


 「君だよね。すごく、良かった」

 「…はぁ」

 「勝手に言ったら満に怒られちゃうんだけど…」


 目を伏せ、視線を合わせようとしない空は側から見ればかなり態度が悪い。


 「…歌手になる気はない?」 

 「ありません」


 一秒も考えず、切り捨てた。


 「ははは、そっか。ないかぁ」


 RAITの切ない声と、応接室のドアが開いたのは同時だった。


 「あーこらこら、部外者立ち入り禁止ー」

 「振られちゃったよ」

 「はーい鏡堂と丹羽だけ残って他は出ろー」


 なぜか俺も残され、四者面談。

 話、終わったっぽくね。


 追い出された組は外でやいやい言っている。



 「丹羽は進路どうするか決まった?」


 杉田は教師の顔で空と会話しようとしている。


 「就職」

 「やっぱり、大学進学はしないんだな?」


 「こいつは小鳥遊たかなし雷人らいと。高校の同級生なんだ」


 目線を落として頷くこともしない問題児と真摯に向き合おうとしてくれる教師は数少ない。


 「最近までアーティストだったんだけど、喉を壊して引退したらしくてね。丹羽に投資したいって話なんだけど」


 話を聞いているのか、微動だにしない。


 「就活って面倒でさ。書類選考、面接、面接、面接。努力しても報われないことなんてザラにあるんだよ」


 「やっと受かっても、今を生きるのに精一杯な安月給がほとんど。高卒じゃ、尚更ね」


 「お金が全てではないけど、こいつ、雷人とやっていけばしばらく働かなくてもいいくらい出すと言ってる」


 「お前には、才能がある。持っているものを生かして、安定した生活を手に入れたいとは思わない?」

 

 教師だったら、回避ルートを教えるより、改善策を提示するのが主だろうに、杉田はめんどくさいことはやめて楽に稼げと言っているようだった。

 相手が空だからなんだろう。誰にでもこうは言わないはず。


 「芸能人ってリスクばかりの職業だけど、君は絶対に成功する。俺が成功させる。なんて、初対面で言われてもピンと来ないよね。考えてみてほしい。俺は本気だよ」


 「今時、顔を出さずに活動できる時代だしさ。考えてみようよ、丹羽」


 

 終始無言を貫いた空の気持ちが分からない。憧れの人じゃないのか。ニコリともせず、俯いて。せっかくのチャンスを…。




 

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