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君がいたから  作者: HRK
2.
122/152

side 鏡堂 広太




 「まじで歌いたくない。本当に嫌だ」


 本番直前になって空がウダウダ言い始めたのには訳があった。

 予想より観客が多いから目立つ、と。


 「一曲しか歌わねぇんだからいいだろ別に。五分もねーじゃん」


 後で聞いたことだが、軽音部のライブは文化祭の目玉なんだとか。そりゃあ納得の集客数だ。

 夏木や村尾も最前列でカメラを構えている。今更出ないわけにはいかない。

 俺らの前のバンドはそれはそれは盛り上がり、根暗な空にはハードルが高いのも分かる。けど、空は人前で歌った方がいいと思うんだ。歌の完成度が素人じゃねぇから俺らの前でしか披露しないなんてもったいない。


 「はあ、まじで一生出ない。無理すぎる」


 もう一人の根暗モンスターは意外と乗り気でそれもまた空の気を沈ませていた。


 俺らは一曲ずつ歌い手を変えて演奏することになっている。演奏できるのが二人しかいないということでキーボードとギターのみ使用することになり、バンドというより弾き語りに近かった。


 観客ウケが良いとして、有名な「糸」を演奏した。本家とはメロディーや歌い方が違ったが、空の指定した通りにできた。

 空の歌も絶好調で注目を浴びる快感を覚えた。


 ボーカルチェンジのために優がマイクを握ろうした時、後ろの方から大きな声が響いた。


 「アンコール!!」


 隣には俺のクラスの担任がいる。柄にもなく慌てて黒ずくめの叫び主を止めているが、一向に主張をやめなかった。


 さすがの俺も困惑した。超賢くて天才な俺だけど、曲順とか、そもそもこれ以外演奏できるっけ?と考えを巡らせた。

 どうしようかと舞台袖の裏方に目を遣ると、軽音部顧問がスッと出てきて、言った。


 「あの人、多分歌手なんだよね。杉田先生いるでしょ。うーん間違いない。歌っちゃおう!」


 歌手!?歌手にアンコールもらったのかよ。やべえな、空。


 「え、出番五分…」

 「んなこと言ってらんねえ。アレ歌えよアレ」

 「アレじゃわかんねーだろ」

 「優なら弾けんだろ」

 「あーあれね」


 軽音部視察で披露したRAITのバラード曲をさらっと歌い上げ、歓声が沸き起こった。



 

 感動したとはしゃぐメイド服姿の夏木と変態カメラマンの村尾が、空と夏木のツーショットチェキを一生撮り続けている。

 

 「アンコールって!!コンサートみたいだったね!」

 「あーーれは、空の単独コンサートだった!空きゅんったらエロスなんだから…」


 エロス要素なんかどこにもないのに、村尾はいつでも意味不明だ。


 「アコち、感動して泣いてたのウケる」

 「なんで笑うの!?めっちゃ良かったじゃん」


 メイド喫茶を営業しているA組の教室が騒がしい。営業妨害と言われてもおかしくないくらいだ。


 「空きゅんスカウトされちゃったりしてー」

 

 肝心の本人は蚊帳の外。まるで無関心。それもどうかと思うけどなぁ。



 「アカリちゃんかわいいーー!私ともチェキ撮ってー!」

 「きゃーありがとう!撮る撮るー!!」


 クラスの女子だろうか、夏木を見つけて飛びついてきた。


 「あ、ねえねえ、丹羽くんだっけ?杉田先生が探してたよ〜」

 「杉田先生?S組の?」


 離れたところから聞こえる女子の会話に反応してしまう。進路のことか?今?


 「そーお!言いふらしちゃダメらしいんだけどアカリちゃんならいいかなぁ」

 「んー?」


 まさか空の家庭環境をベラベラと…?

 止めに入ろうか躊躇った。


 「なんかね、RAITが来てたらしくって」

 「RAIT?」

 「うん!めちゃくちゃ有名人!その、RAITが丹羽くんに話があるとかなんとかで…」

 「へっ?」


 言いふらしてはいけないと、声を顰めて言った。


 カメラマンとして二人の近くに行っていた村尾が無言で、真顔で俺に迫ってきた。


 「なんだよ。近い」

 「俺、冗談だったんだけど」

 「は?何が」

 「空がスカウトされるかもって」

 「あ?だから?」

 「っああ!鈍い!空!行こう!」


 翔也とその他で盛り上がっていた空の手を引いて、村尾が走り出した。キモオタ風コスプレをしたカメラマン役の村尾が、ぼんやりしている空を連れて、廊下を全力疾走。

 楽しそうだから、と翔也に肩を掴まれ、俺まで全力疾走。


 まじで勘弁。


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