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君がいたから  作者: HRK
2.
120/152

side 杉田 満




 「あれから、どうしてんの?」

 「まぁ、ぼちぼちかな」



 生徒は俺を熱血教師だとか、いいヤツだと言う。正直自覚はないし媚を売っているつもりもない。そのときの気持ちで動く、ひたすらに人間らしいというだけ。それが生徒の目には熱血に見えるのだろう。

 やりたくないこと、面倒なことはやらない。他よりワガママなだけなんだよ。


 「プロジェクトは?ぼちぼち?…っていうより全く進捗なさそうだな」

 「やめてくれよ。ひとより洞察力が優れてるからって心読むの。要は暇なわけ。じゃなきゃ母校の文化祭にふらっと行こうとはならないよ」

 「全盛期だったら、校長にアポ取って特設ステージ用意して、だもんな」

 「実家から変装して来たただの近所のおっさんだよ」


 "おっさん"はやめてほしい。同級生の俺までおっさん認定じゃないか。


 「実際、引退発表してから半年。そこらの人となんら変わりない」

 「なになに?ナイーブな時期なの?やめてよ。文化祭だよ?青春の貴重な一ページに不穏な空気漂わせないでくれる?」

 「お前からそんな言葉聞くと超胡散臭い」


 文化祭が開幕し、各々役割をこなしている合間に休憩と称して旧友と駄弁る。表では一生懸命仕事してる風に装っても、あくまで"風"。蓋を開けるとサボり癖しかない。


 「満は来年受験生を受け持つわけじゃん」

 「あぁ」

 「受験生の空気に押されてナイーブになったりしないの?」


 VIP契約ってことで優秀な俺は三年間S組を受け持つことが決定している。受験生ってだけでも十分大変な仕事。その中のS組となるとベテラン教師にした務まらない。俺はまだベテランの域には達していない。ならどうして俺がVIP対応を受けているかというと…。

 テキトーだから病まない。これに尽きる。


 「仕事は仕事。切り替えてるからね」

 「さっすが〜」

 「思ってないだろ」

 「へへっ。バレた?」

 

 学生の頃から変わらない。どことなく冷めた俺に温度をくれるのが、去年末に引退発表をした大人気アーティスト『RAIT』。

 突然なんの相談もなく、ニュースで知った。歌うことが好きで、ストイックで、俺にはない情熱とやらでたくさんの人を虜にしてきた。

 俺自身、本人には絶対に言わないけれど、ファンだった。それも大が付くほどリスペクトしていた。

 RAITの人間性は昔からよく知っている。仕事に対する意識の高さや人を想う心とか。こいつが持つ全てが俺には無いもので。大ファンだった。隠れてライブに行ったりもしていた。

 隣にいるときと変わらないようで、でも大きく違っていた。ステージに立つRAITはキラキラして、ずっと、"そこ"に立っている存在なのだと思っていた。

 画面越しに見るRAIT、ステージ上で輝くRAIT。これらは旧友ではなかった。紛れもないプロで、何にもハマらない俺を魅了し続けた。


 終わりを告げるまで。


 年末の多忙な教諭職が落ち着いた頃、タイムリーに報道画面を覆い尽くした。まるで俺の仕事が終わるのを待っていたかのように。

 仕事中に知っていたら、教師を辞めてもおかしくなかった。それくらいRAITは俺の中で大きな存在となり、日常生活に欠かせないものとなっていた。

 

 「美咲ちゃんと別れたんだって?」

 

 そんなことは露知らず。RAITは変わらぬ旧友の姿で話を進める。


 「あー!もうその話はいい!生徒に散々いじられてお腹いっぱいだよ」

 「はははっ。いい感じだったのにね」


 いい感じも何も、プロポーズまでした。プロポーズ自体は成功した。

 両家顔合わせも済んで、挙式をどうしようか、新居は、子どもは…と話すうちに、フラれた。


 「親友がついに結婚かーって感極まってたのに、婚約破綻って何したの」

 「何かしたわけじゃない。あの子は、…美咲は…」

 「…………」

 「教師の俺を好きだったってだけ」

 「…………」

 「熱血で、いいヤツで、話の分かるヤツで、…物分かりのいいヤツじゃなくなって、魔法が解けた。それだけ」

 「まぁ辛気臭い話はいいからさ、なんかイイ子、いないの?」


 そっちから始めた話を強引に切り上げられ、睨む。


 「お前、昔からそーゆーとこあるよな」

 「ん?分かんない。なんでもいいけど、こっちも切羽詰まってんだよね。新人育成プロジェクトしますって言ったはいいものの、全然ピンとくる子がいないの。良くも悪くも普通で、育てたところで普通にしかならない。俺が育てたいのはもっと、こう、ダイヤの原石ってありふれた言葉になっちゃうけど、そういう…」

 「はいはい、頑張ってくださいRAITさん」

 「お前みたいな人は絶対俺の音楽じゃ響かないんだよな。普段なに聴くの?参考にさせて」


 お前は俺に洞察力があるとか言うけど、特別お前に皆無なだけだと思うよ。

 こちとら大ファンだっつーの。



 

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