side 杉田 満
「あれから、どうしてんの?」
「まぁ、ぼちぼちかな」
生徒は俺を熱血教師だとか、いいヤツだと言う。正直自覚はないし媚を売っているつもりもない。そのときの気持ちで動く、ひたすらに人間らしいというだけ。それが生徒の目には熱血に見えるのだろう。
やりたくないこと、面倒なことはやらない。他よりワガママなだけなんだよ。
「プロジェクトは?ぼちぼち?…っていうより全く進捗なさそうだな」
「やめてくれよ。ひとより洞察力が優れてるからって心読むの。要は暇なわけ。じゃなきゃ母校の文化祭にふらっと行こうとはならないよ」
「全盛期だったら、校長にアポ取って特設ステージ用意して、だもんな」
「実家から変装して来たただの近所のおっさんだよ」
"おっさん"はやめてほしい。同級生の俺までおっさん認定じゃないか。
「実際、引退発表してから半年。そこらの人となんら変わりない」
「なになに?ナイーブな時期なの?やめてよ。文化祭だよ?青春の貴重な一ページに不穏な空気漂わせないでくれる?」
「お前からそんな言葉聞くと超胡散臭い」
文化祭が開幕し、各々役割をこなしている合間に休憩と称して旧友と駄弁る。表では一生懸命仕事してる風に装っても、あくまで"風"。蓋を開けるとサボり癖しかない。
「満は来年受験生を受け持つわけじゃん」
「あぁ」
「受験生の空気に押されてナイーブになったりしないの?」
VIP契約ってことで優秀な俺は三年間S組を受け持つことが決定している。受験生ってだけでも十分大変な仕事。その中のS組となるとベテラン教師にした務まらない。俺はまだベテランの域には達していない。ならどうして俺がVIP対応を受けているかというと…。
テキトーだから病まない。これに尽きる。
「仕事は仕事。切り替えてるからね」
「さっすが〜」
「思ってないだろ」
「へへっ。バレた?」
学生の頃から変わらない。どことなく冷めた俺に温度をくれるのが、去年末に引退発表をした大人気アーティスト『RAIT』。
突然なんの相談もなく、ニュースで知った。歌うことが好きで、ストイックで、俺にはない情熱とやらでたくさんの人を虜にしてきた。
俺自身、本人には絶対に言わないけれど、ファンだった。それも大が付くほどリスペクトしていた。
RAITの人間性は昔からよく知っている。仕事に対する意識の高さや人を想う心とか。こいつが持つ全てが俺には無いもので。大ファンだった。隠れてライブに行ったりもしていた。
隣にいるときと変わらないようで、でも大きく違っていた。ステージに立つRAITはキラキラして、ずっと、"そこ"に立っている存在なのだと思っていた。
画面越しに見るRAIT、ステージ上で輝くRAIT。これらは旧友ではなかった。紛れもないプロで、何にもハマらない俺を魅了し続けた。
終わりを告げるまで。
年末の多忙な教諭職が落ち着いた頃、タイムリーに報道画面を覆い尽くした。まるで俺の仕事が終わるのを待っていたかのように。
仕事中に知っていたら、教師を辞めてもおかしくなかった。それくらいRAITは俺の中で大きな存在となり、日常生活に欠かせないものとなっていた。
「美咲ちゃんと別れたんだって?」
そんなことは露知らず。RAITは変わらぬ旧友の姿で話を進める。
「あー!もうその話はいい!生徒に散々いじられてお腹いっぱいだよ」
「はははっ。いい感じだったのにね」
いい感じも何も、プロポーズまでした。プロポーズ自体は成功した。
両家顔合わせも済んで、挙式をどうしようか、新居は、子どもは…と話すうちに、フラれた。
「親友がついに結婚かーって感極まってたのに、婚約破綻って何したの」
「何かしたわけじゃない。あの子は、…美咲は…」
「…………」
「教師の俺を好きだったってだけ」
「…………」
「熱血で、いいヤツで、話の分かるヤツで、…物分かりのいいヤツじゃなくなって、魔法が解けた。それだけ」
「まぁ辛気臭い話はいいからさ、なんかイイ子、いないの?」
そっちから始めた話を強引に切り上げられ、睨む。
「お前、昔からそーゆーとこあるよな」
「ん?分かんない。なんでもいいけど、こっちも切羽詰まってんだよね。新人育成プロジェクトしますって言ったはいいものの、全然ピンとくる子がいないの。良くも悪くも普通で、育てたところで普通にしかならない。俺が育てたいのはもっと、こう、ダイヤの原石ってありふれた言葉になっちゃうけど、そういう…」
「はいはい、頑張ってくださいRAITさん」
「お前みたいな人は絶対俺の音楽じゃ響かないんだよな。普段なに聴くの?参考にさせて」
お前は俺に洞察力があるとか言うけど、特別お前に皆無なだけだと思うよ。
こちとら大ファンだっつーの。




