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君がいたから  作者: HRK
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side 飯田 憧子




 時は過ぎ、文化祭を翌日に控えた夜。何度目かの翔也家でのお泊まり会。ふと、付き合う前の翔也を振り返る。



 入学式の直後に可愛い女の子と手を繋いで、早くもカップル誕生かと周囲を騒がせた人。一週間後にはまた別の子とイチャついて、一ヶ月も経たないうちに何人もの女の子とデートした噂が広がった。

 進学校には勤勉で堅実なエリートばかりが集まるのだと思っていたから、それは幻想だったのかと落胆した。

 いつしか、風紀を乱す斎藤翔也を目の敵にして話しかけられても、決して愛想よくはしなかった。

 それがどうだろう。いつも冷たくあしらっていたのに、ベッドフレンドの一人との会話が聞こえた時は驚いた。


 『俺の本命、アコちだから』


 どうやら相手の先輩に『付き合って』と懇願されていたらしく、断った場面をたまたま聞いてしまったのだ。

 他にも"アコ"という名前の可愛い女の子がいるのだろうと勝手に納得したのだけど、そうではなかったと知ったのはその後すぐだった。


 『どーせ、体の相性がよかっただけでしょ?すぐ飽きるんだから私で手を打っときなさいよ』


 振られたベッドフレンドの先輩が不貞腐れて悪態をつく。


 『まだなんもしてない〜。本命には軽々しく手ぇ出さないの』

 『はぁ!?何それ。ちょっと顔がいいからって馬鹿にしすぎじゃない?』

 『性欲と恋愛は別モンだろ。なっ、アコち』


 自習するフリをして目線を落としていたから、斎藤翔也が私の肩を叩いた時は物凄く驚いた。盗み聞きしていたのがバレたのかと思い、あからさまに飛び跳ねてしまった。気付いていなかったみたいだけれど…おかげで恥ずかしい思いをしたっけ。


 『アコち、デートしよ?』

 『え、わた…私!?なななななんで?先輩と付き合ったらいいじゃん。なんで私なんか。巻き込むのやめてくれないかな』

 『俺マジでアコちの顔面超好み。大好き』

 『そうやってからかわないでもらっていいかな。反応見て楽しんでるんだよね?やめなよ、趣味悪いから』

 『やめなーい』


 最初はこんな調子だった。まさか、学年一のチャラ男が私なんかを好きになるわけがないって決めつけて。

 何度も何度もごはんやお買い物に誘ってくれるから、友達として許容できることは受け入れた。付き合う気がなくても、友達としてしか見ていないことを伝えても嫌な顔をしないで、むしろニコニコしてくれたのが嬉しくて…段々と惹かれていったんだ。


 花火大会やテーマパーク、旅行なんかは全部断って。それでも誘ってくれるから油断していた。


 二年に上がってS組になった翔也は、私にそっくりな後輩と毎日のように手繋ぎデートをするようになった。

 私にも変わらずちょっかいをかけていたけれど、見せつけるようにあおちゃんとキスをすることが増えた。

 その頃だ。私の気持ちがおかしくなったのは。


 このままじゃ取られてしまう、って、柄にもなく妬いてしまって。そんな感情を認めたくなくて、必死に言い聞かせていた。

 私は斎藤翔也が嫌いだ、と。鋼のメンタルを持つ翔也でも傷付いたと思う。けど、そうしないと耐えられなかった。


 私を好きなんじゃないの?と虚しくなって、結局遊ばれていたんだと落ち込んだ。


 今でも少し、不安になる。


 だって、翔也はまだ、私を抱いてくれない。


 私に魅力がないから?顔だけが好みだから、やっぱりベッドフレンドで発散してるのかなって思わざるを得ないよね。


 鏡堂のお家で、一緒にお風呂に入られそうになったのも、みんなの前でラブラブカップルを演じるための演出。実際は別々に入った。これは私の意見を汲んでくれたのかと思ったけれど、よくよく考えたら私の体に興味がないからなのかな…と、考えてしまう。


 我慢できないから何人ものベッドフレンドがいたんでしょ?だったら、今、誰で発散してるの?


 こんなことばかり考えて、何も聞けずに勝手に悩んでいる女なんて嫌だよね。



 色気が足りないのだと、アカリちゃんと下着を買いに行ったりもしたけれど、見せる場が無ければ意味がない。服装に気を遣ってみる?翔也好みの服装ってどんなだろう。顔以外で私の好きな部分、あるのかな。


 


 来たる文化祭。書記とはいえ私は立派な生徒会役員。一般生徒より早く登校して来校者の案内についての段取りや貸出物の最終確認を行う。私は様々な生徒会の仕事があるからクラスの出し物であるチョコバナナ屋さんには参加できないけれど、合間を縫って翔也のクラスには行くつもり。空くんのいる軽音部も気になる。アカリちゃんのメイド服姿も見たいし…時間作れるだろうか。

 普段は気にしていなかったけれど、改めてみんなのクラスがバラバラなことに気付く。中学までは、クラスごとに仲の良い人がいて、進級してクラスが離れたら挨拶をする程度の仲になり、高校生にもなれば関わりが消えた人ばかり。

 嫌いになったわけではないし、その時はとても楽しく、有意義で意味のある時間を過ごしていたはずなのに。クラスが変わるというだけで…関係が希薄になるのが今までの普通だった。それなのに、アカリちゃんはクラスが離れてから距離が縮まり、翔也に至っては、離れてから付き合えた。

 私にとってクラスとは、学生生活における一年間の全てを左右するものだった。C組にも話せる子はいる。でも、プライベートで会うかと言われたら…。


 「飯田さん、今日中にこの資料を体育館倉庫に運んでもらっていい?急ぎじゃないからできる時でいいよ」

 「あっはい!」


 生徒会会計の内海先輩からダンボールを渡された。大きくないものの、ずっしりと重みがある。ガムテープで封をされているから中身は分からないけれど、今日中にということはすぐに使われるのかも。忘れないために生徒会室の入口に置いておこう。

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