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君がいたから  作者: HRK
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side 夏木 あかり




 放課後教室デートが終わったら一緒に鏡堂のお家に帰る選択肢もあったのだけど、『家族に心配かけちゃダメ』と、言う空の言葉を素直に聞き、寝落ち通話を選んだ。でも、一秒でも長く隣にいたくて、『家まで送る』と言ってくれた空に甘え、遠回りのバスで家まで送ってもらった。

 バスの車内、帰宅ラッシュのサラリーマンに囲まれながら手を繋ぎ、小声で会話した。空が好きな歌手や私の好きな俳優さん等、知らなかったことがまた一つ知れた。普段イヤホンを使わないから、持ち歩いていなかったことを後悔。空も持っていないから、片方ずつ耳に付けて曲を聴くことができなかった。明日からは持って行って、放課後にでも実践しよう。



 「空くん、会う度に魅力が増していくわね…」

 

 別れ際、挨拶のために玄関まで出てきたママは、晩ご飯のサラダを食べながらうっとりと呟いた。


 「はじめましての時は、緊張してたのかしら?今日の空くん、すごく優しそうにふんわり微笑んでたじゃない?もう、最高〜」

 「んふふ〜…空は笑顔は世界一かっこいいんだから〜ふふ〜」

 「あの子なら安心してお嫁に出せちゃうわね〜」

 「もう、ママったら気が早い〜!」


 

 鏡堂の家でわちゃわちゃ食べるごはんもおいしいけれど、家族とのほんわかごはんも堪らない。ママと恋バナできるのも幸せ。


 

 「空ね、この人が好きなんだって」


 帰りのバスで教えてくれた曲を、スマホで検索してママに聴かせる。空は芸能人に疎いと話していたけれど、実は私も詳しくない。なんとなく名前を知っているだけで、流行りの曲以外は全く分からなかった。

 そういえば、軽音部で歌っている曲もカラオケの定番もこの人の歌だ。心なしか声まで似ている。


 「へえ〜。去年、引退しちゃったのよねぇ。喉を痛めたとかで」

 「そうなの?」

 「アカリはテレビ見ないものね〜。急な発表だったみたいで年末はこの人のニュースばかりやっていたのよ」


 全然知らなかった。この人の話をしている時、引退について一切触れていなかったけれど…空は知っているんだろうか?いや、さすがに好きなアーティストだから知ってるよね。


 





 「で、何歌うの?」

 「糸」

 「糸?中島みゆきの?」

 「うん」


 イヤホンを持参して放課後デートを楽しもうとした矢先、空を軽音部に取られてしまって計画破綻。今日は絶対帰らない。固く決意し、空の腕にしがみついている現在。斎藤とアコちゃんと、村尾も一緒に鏡堂の家へ向かっている。

 

 「ねぇ、俺だけ隣空いてるんだけどこれ何!?新種のイジメ!?」

 

 四人並んで歩く私たちと、一人ぽつんと前を行く村尾。隣に人がいなくても楽しそう。


 「本当はこっちがよかったんだけど、みんなが知ってる曲にしようって」

 「空が歌うのっていつもRAITの曲だろ?なんでまた」

 「あぁ、RAITがカバーしてるから」

 「あーね」


 文化祭ライブに向けて本格的に練習が始まるらしく、週の半分はバイトを入れられないと空は嘆く。

 幽霊部員だった人の歌が物凄く上手いから、と集められたその場限りのバンドメンバーにあれこれ質問されたようで、先が思いやられると項垂れる。空は、ぐいぐい来られるのが苦手なんだとか。


 「それって俺もアウトになるってこと?え?大丈夫だよね?嫌われてないよね?大好きだよね?俺も大好きだからね、空!!」

 

 『グイグイ来る人』の典型が側にいても、それはノーカンらしい。まるで見えていないかのようにスルーした。




 「そいつら上手いの?」


 家に着いても話を続けていたから鏡堂も会話に混ざった。


 「さぁ。アレンジしようって言うからそれは止めたけど上手いかどうかはなんとも」

 「つーかさ、手が足りないから俺たちだけじゃ組めないって言われたんだろ?」

 「うん」

 

 空は腕を怪我しているから楽器を弾けない。となると、鏡堂と藤ノ木の二人ではどう頑張っても補えない。


 「糸って別に、ドラム要らなくねえ?RAITのをパクるなら尚更」

 「パクるって言うなよ」

 「キーボードとギターでいけるだろ」

 「曲の後半でドラム叩いてるから必要なんじゃね」

 「そんなん夏木かこいつがタンバリン叩けよ」

 「お遊戯会か」


 空と鏡堂の珍しいボケツッコミがおかしくて笑ってしまう。二人とも大真面目な顔して話すから余計に。


 「軽音の奴ら黙らせて俺らでやろうぜ。変に下手な奴が演奏したら邪魔でしかない」

 「んなことないだろ。みんな同じ」

 「俺が弾く!」


 言い出したら止まらないのだとみんな諦めモード。空も頑固と言われているけれど、鏡堂はもっと頑固だ。


 

 

 「アカリちゃん…私って魅力ないのかな」


 鏡堂の家で集まったある日、盛り上がるみんなをぼんやり眺めている私にアコちゃんは深刻そうに呟いた。


 「魅力しかないよ…?」


 あまりにも唐突で驚いた。斎藤はアコちゃんを溺愛しているものだと思っていたし、アコちゃんの満更でもない表情がいつも可愛くて。


 「どうしたの?何かあった?」

 「そんな、大したことじゃないんだけど…。あいつってほら、女性関係だらしないイメージあるじゃない?」

 

 彼女さんの前で頷いていいのだろうか…。


 「いいのいいの!気にしないで。それは付き合う前から分かってたことだし。むしろ…それなのにっていうか…」

 「うん…?」

 

 私の考えていることが分かったようで、反応に困った瞬間にアコちゃんが両手を振った。

 イマイチ、アコちゃんの言いたいことが掴めない。


 「付き合って、一度も、ないの」

 「一度も浮気してないってこと?」


 引く程だらしなかった斎藤が浮気をしていないなら、喜ばしいことじゃない?と聞き返すけれど、どうやら違うみたいだ。


 「あんなにベッドフレンドがいて、その、抑えられないくらい強いってことじゃない?」

 「うん…?」

 「……それなのにまだ、一度もしたことないの。誘われもしないの」

 「えっ?」


 予想外の内容に困惑してしまう。


 「期待してるとかじゃなくてね…。私以外の人としてるのかなって考えたら…」

 「そーんな!そんなことないよ!ありえない、ないない!」


 斎藤がアコちゃんのことをとってもとても大好きでいるのは周知の事実で、アコちゃん以外の女の子と歩いている姿はめっきり見なくなった。

 みんなに隠してまで浮気しているんだとしたら私はすごく嫌いになるし、友達いなくなると思う!

 チャラくてうざくてデリカシーがない人だけど…アコちゃんには嘘つかないと思うな…。


 「前にね、性欲と恋愛は別物って言ってたこともあって…。私に求めてこないってことは、そういうことかなって」

 「んー、それについてはよく分からないけど…、アコちゃんのこと、すっごく大事にしたいんじゃない?」

 「そう…かな…?」

 「そうだよ!斎藤がアコちゃんを大好きなのはみんな知ってることだし、連絡先消したって言ってたんだよね?」

 「言ってた…けど…」


 愛されてないのかなって不安になる気持ちは痛い程分かる。でも、斎藤に限ってアコちゃんを傷付けるようなことはしないと言い切れるから、無責任ではないはず。


 「大丈夫!自信持って!」



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