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君がいたから  作者: HRK
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side 夏木 あかり





 昨日、鏡堂の家で勉強会兼ゲーム対決をした。いつもの流れでお泊まりするつもりだったのだけど、両親から『たまには家でゆっくりご飯を食べよう』と言われ、渋々帰宅。本当は空とずっと一緒にいたかったけれど…愛されてるのは素晴らしいことだってみんなが口を揃えて言うから、仕方なく。

 でもそのおかげで、ついに、念願の、彼氏との寝落ち通話なるものを経験できた。無料アプリでの通話だから何時間繋いでいてもストレスフリー。むしろ幸せいっぱい。今までにない気持ちの良い朝を迎えられた。

 電話口の空の声は心なしか、対面よりも優しい声音で聞き心地が良かった。ずっと話していたい。

 深夜の話し声が、下で寝ていたママに聞こえてしまい、夜更かししすぎだとちょっぴり怒られたけれど、またお家に呼んでいいと言ってくれた。親子というだけあって好みが似ているのか、パパもママも、空を気に入ってくれている。



 「メイド喫茶やるの?」

 「そう!メイド服着るから、絶対来てね。空のために着るから」


 村尾に騙された文化祭の出し物。空が私のメイド服姿を見たいかどうかは置いといて。空のためだと言い聞かせないと恥ずかしくてできない。

 放課後の教室で抱き抱えられるように、空のお膝に座って勝手に宣言した。


 「来てくれた校内の人限定でチェキを撮るコーナーもあるけど…男の子は空としか撮らない!」

 「そんなことできるの?」


 『無理じゃない?』と苦笑して後ろから顔を覗かれる。


 「だって…、その人の手元に、私の恥ずかしいメイド服姿が一生残り続けるなんて、耐えられないよ!」

 「男の手に渡るのは確かに嫌だけど…アカリがメイド服着るのは絶対可愛いから自信持って」

 「ううん、恥ずかしいの。すっごく恥ずかしいよ。空も一緒に着てみる?」

 「俺がメイド服?通報されるよ」

 「確かに……」


 爽やかに笑う空の横顔がかっこよくてついつい見惚れてしまう。


 「空って顔小さいよねー。お肌も綺麗で羨ましい」


 空に背を向けているのがもったいなく感じて、顔が見えるように座り直した。

 頬に残る瘡蓋かさぶたにそっと触れる。


 「痛い?」

 「痛くないよ」


 腕のギプスは痛々しくて、直視することすら躊躇してしまう。


 「ね、空のクラスは何やるの?文化祭」

 「んー、なんか。展示会?」

 「展示会?」


 そういえば聞いていなかったと思い、話題を戻した。けれどよく分からない。


 「店番とかダルいから、適当にそれ用の絵描いて飾っとこうってことになった」

 「えぇ……」

 「F組って、そういう感じ」


 ハハハと笑う空と対照的に私は驚いていた。文化祭って、全高校生が楽しみにしているものだと思っていたから。


 「じゃあ、F組の人たちはずっと自由行動?」

 「そう。当日どころか、準備もクラスの何人かに押しつけてフラフラしてるのが多いかな。俺もその一人だけど」


 ポリポリと顎を掻いて空は苦笑い。怪我をしているから仕方ないということにして、敢えて触れない。


 「ってことは、軽音部のライブの時以外は空とずっと一緒にいていいってことだよね?」

 「メイド喫茶も営業して」

 「私が店番の時はずっといて!常連さんってことにするから!」

 「常連って、なんかヤバい人じゃん。彼女のこと監視するみたいで」

 「だって、そこにいてくれないと村尾が変なことを言えちゃうでしょ?」

 「俺がいてもあいつは変なこと言うから…」

 「それは、そう。だけど、お願い、ずっと一緒にいて!!」


 何が何でも理由を作らないとメイド服なんて着られない。彼氏が見てくれているという理由が必要なの。


 「いるけど、俺がメイド服が好きだから着せてるって言うのはやめてね?」

 「えっ、ダメ?」

 「ダメっていうか…。印象最悪…」

 

 自分の事ばかりで空の印象にまで想像が及んでいなかった。…確かに、メイド服姿の女の子が好きな彼氏ってだけでもインパクトが大きい。その上、今回は文化祭でソレをさせているということにもなる。うん、印象最悪だ。


 「分かった!正直に村尾に騙されてこうなったってことをチェキの落書きコーナーで、全部のチェキに書くね」

 「え、村尾に騙されたの?」

 「あっ」


 いつも、空の怖すぎる視線に殺されかけている村尾を庇って、事の顛末は語らずまいと思っていたのが全て崩れた。


 「ね、何それ。聞いてないんだけど」

 

 空の膝に乗って向かい合い、適度な距離が保たれていたはずだった。ギプスのない片腕でそっと抱き抱えられていた私はいつだって逃げ出せる状態だった。


 「あっ、えっと、それは、その…」


 腕一本と舐めていたのが悪かった。


 「まさか、騙した村尾を庇って、俺の趣味として乗り切ろうとしてたわけじゃないよね?」


 私を乗せた足を曲げて、椅子上で折りたたまれてしまえば、空の体と足のダブルガッチリガードが完成して…しかも、顔の距離がミリ単位になってしまう。

 

 「そ、なこと、ない、けど…」

 「ないよね」


 顔面が近すぎるのと、怒っているというよりもいたずらっ子みたいに笑う空がかっこよすぎて、心臓がおかしくなりそうだった。

 必死に顔を逸らしたり、手で覆ってみるけれど…。ダブルガードされた私には、腕の一本も二本も関係なく、空の大きな手によって恥じらい顔を晒された。


 「隠さないで」

 

 本人にその気があるかは分からないけれど…物凄く色気たっぷりに見つめてくるから更に照れてしまう。こんな世界知らない…!!


 「ねぇ、キスしていい?」

 「聞かないでって…」

 

 いつの間にかぎゅっと抱きしめられる形になっていて、多分心臓の音、聞こえてる。

 唇に触れるだけの軽いキスを受けた後、彼は笑った。


 「ふふ。わざと聞いてるの」

 

 今すぐ逃げたい。でも逃げたくない。ドキドキと鼓動する胸が今にも弾けてしまいそう。


 「まじで可愛い」


 赤面する私を見て何故か照れ笑いした空のお顔が尊すぎて撃沈。空の胸に全体重を預けた。


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