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君がいたから  作者: HRK
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side 鏡堂 広太




 つい先日まで猛暑が続いていたのに、今ではすっかり過ごしやすい季節になった。半袖では肌寒く、四季の中で最も短い。食欲の秋だ。


 先週の土曜日には空の携帯を買いに、初めて一緒にショッピングをした。翔也や村尾のお下がりだけでは賄えない衣類や、生活を豊かにする雑貨を購入。まるで新しい息子が生まれたかのように喜ぶ父さんが、アレもコレもとどんどん買っていた。空は買い物が終わる頃には、断ることに疲れ、放心状態になっていた。

 おまけで来ていた優にも色々買っていたし、なんなら二人に小遣いを渡していた。死んだ目をキラキラと輝かせる優とは対照的な空を見るのは愉快だった。

 空の携帯ももちろん、父さんが一括で支払った。けれど空は頑固だ。必ず返すから口座番号を教えろと若干凄んでいた。空の目付きに父さんが怯んだとは思えないが、とりあえずは月々の使用料金とともに分割で返していくことに決まった。


 空と優をメロメロに甘やかしてくれる父さんは、友達がたくさん来るなら…という理由で75インチの馬鹿デカいテレビを買ってくれたらしく、空がバイトでいない隙を狙って家に来た。避けている訳では無くて、気を遣われていると思わせない為だ。ただでさえ、土曜日の買い物で疲れさせているから、しばらくは顔を合わせない方がいいと考えてのこと。忘れた頃に会いに来るらしい。

 テレビだけではつまらないからと、ブルーレイレコーダーや流行りの入手困難な最新ゲーム機を置いて、元々あったテレビを回収して行った。

 またしても、優にたんまり小遣いを渡して…。


 「広太のお父さんが本当のお父さんだったら良かったのに…」


 切なげに親を蔑ろにしたけれど、気持ちが分かってしまうから何も言わない。


 「こんなに良くしてくれて…お小遣いもくれるなんて…大好き」


 優の親は、毒親とまでは言わなくても、家族としては終わっていると勝手に思っている。家族の形なんてのは家族の数だけたくさんあると分かってはいる。しかし、学歴にしか興味を持たない親兄弟に囲まれて、食生活や素行に無干渉なのは家族というより他人。会話もほぼないと言う。

 優の家では質素な食事しか出されないらしく、ごはんと納豆、ごはんと生玉子、ごはんと漬物。そんなんで小遣いもないから俺の家に有り余っている食料を見る度に、よだれを垂らす勢いで腹の虫が鳴いている。それが普通だったから不満はなかったそうだけど。

 兄貴や父親にも同じような食事を出しているのかと聞いたら、『みんながご飯を食べている時、俺は部屋で勉強してるからあの人たちが何を食べているのかは知らない』と話した。もうそれ、虐待じゃん。とデリカシーに欠ける一言を放った。『お父さんはたまに夜食を持って来てくれる。多分、夕飯の残り物とかだけど。普通の、ここで食べる晩ご飯って感じのやつ。俺が思うに、広太の家も普通じゃないけど俺の家も異常だと思う』そんなことを、何ともないように話すから、俺は何も言わない。


 「広太が哀れな目で見るから、自分は哀れなのかと思ってお父さんに聞いた」

 「え?俺って哀れなの?って聞いたの?」

 「家に帰らなくても何も言ってこないのは興味がないからなのかって」


 相変わらず会話が下手くそすぎて心配になる。

 もらった小遣い入りの封筒を両手で大事そうに持ちながらもすっかり目が死んでいる。家族の話をする時はいつもこうだ。


 「そしたら?」

 「……」


 ほんの少し、目の色を変えて黙る様子に首を傾げる。


 「『優は友達がいないから、行くなら広太くんだろうと思ってのことだ。広太くんから何の連絡もないってことは事件性もないってことだろう』」


 渾身のモノマネで渋めの親父さんを表現しているらしいが、全然似てない。悪いけどまじで似てない。


 「疑問を投げかけたら墓穴を掘った。友達がいないから無事だって。無関心も良いとこだよ。友達の一人や二人…」


 珍しくぶすくれている優がみるみる意気消沈していった。それにしても、話を省略しすぎて意味が全然違うものになっているじゃないか。


 「紅茶淹れて。飲み比べパーティー」


 悲しくなったのか、ヤケになったのか。雑に頼まれた。紅茶淹れるのはいいけど、俺の周り、家族仲悪い人ばっかで困惑しちゃうな。


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