side 鏡堂 広太
「辛いっ!!無理!もう食べれない!!」
悩みに悩んだ激辛料理は麻婆豆腐にして、肉はシンプルにステーキとして出した。
一味唐辛子もいいけど、ウチには激辛高級ラー油があったことを思い出したのだ。鏡堂家は誰も辛いものを好んで食べなかったからずっとしまわれていた。完成の時点でかなり辛かったのに、空は瓶が空っぽになる勢いで足している。
「これおいしい。アカリのもらっていい?」
頭を思い切り縦に振る夏木の食べ残しと、その他、村尾や巌、優の残りも綺麗に平らげた空は満足そうに微笑んだ。こんなにたくさんの量を食べることができたのか。てっきり少食なんだと思っていた。
「ラー油なんて油だから味なくなるだろ。そんなにかけたら」
水を飲み、ヤジを飛ばす。ただでさえ辛さで味が分かりにくいのに、とんでもないかけ方をしていた。
俺の額から大粒の汗が吹き出している。まさに、滝汗。
「おいしかったよ」
「舌イカれてる」
「うーー、辛いー。甘い物食べたい」
舌を出し、手でパタパタと仰ぐ夏木と水をがぶ飲みする男子陣。その隣で涼しい顔をしているのは空だけではなかった。
「意外と食べられるね。あんまり辛いの食べたことなかったけど、おいしい」
「空と唐辛子かじり対決してたからちょっと耐性ついたかも。いや、辛いけどな」
散々空の味覚をイジっていた斎藤も大概イカれていたらしい。
「食後のデザートドリンクってことでラッシーでも作ろうかな。さすがに辛すぎる」
「作って!!甘いの!!お願い!」
いくら水を飲んでも辛さが引くことはなく、牛乳よりおいしく飲めるラッシーを思い浮かべた。作り方は確か、簡単だったはず。
レモン汁に砂糖に牛乳、はちみつ、ヨーグルトを適当に混ぜて…。
夏木に懇願され、大急ぎで作ってみたが結構おいしい。ちょうどいい甘さで作れたと思ったのだが、空には甘すぎたらしい。麻婆豆腐と反対に夏木に渡していた。
麻婆豆腐の時もそうだったけれど村尾がいちいち『間接キス…』と言いながら撃沈していたのは全員、見事にスルー。みんなが空気に馴染んだということだろう。
「お口直しの豆腐ちょうだい」
「甘いの飲んだ後に豆腐食べんの?」
「うん。その方が味が分かる」
まるでデザートかのように冷奴を注文する優も割と変な人だとこの時初めて感じた。
「鏡堂って本当に何でも作れるんだね。お母さん譲り?」
ただの冷奴を見て飯田が感心している。豆腐なんてパックから出して皿に乗っけるだけじゃん。と思いっきり顔に出してしまった。
「料理が苦手な人からするとね、大根をすりおろすだけでも、指を切ったり辛味成分たっぷりになっちゃったりで塩梅が難しいのよっ」
得意気に料理ができないことをアピールしてきたが、何の自慢にもなっていない。というところまで全て表情に出た。すまん。
「アコちのたまご焼きは超うまいから。なめんなよ」
「たまごは火加減だからまだなんとか…」
「不器用なの?」
「んー、折り紙は得意なんだけど…料理ってなるとなんかね」
「教えようか?」
三人で食事の後片付けをしながら提案すると、二人の動きが止まった。
「え?何?」
「いや、なんか意外っつーか」
「何が?」
"ね?"と顔を見合わせるカップル。何か意外に思われることを言っただろうか。考えたが、分からない。
「鏡堂って頼まれないとやらないタイプなのかと思ってた。自分が損するの嫌そう」
「そうそう。偏見だけど、ちょっと理屈っぽい人だと思ってたから意外と親切でびっくりしちゃった」
「そう?料理なんて覚えて損な事ないし、できる人が教えたらWin-Winじゃん」
少し悪口も混ざっている気がしたけれど特に気にせず会話を続けた。
「めっちゃいい奴じゃん。普通に」
「別にいい奴ではないけど。やるなら教えるよ」
「アカリちゃんも誘う!」
この際、全員で料理教室を開こうかという話になったけれど、即辞退したのが二人。
『腹が減ったら生で食べるよ。料理するまでもない』
『めんどくさい。全部広太が作って』
幼馴染は揃って変人だった。




