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君がいたから  作者: HRK
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side 鏡堂 広太





 「で、明日あすには試験を受けられるって?」

 「んー。来れるけど放課後にしてほしいって」

 「なるべく人に会いたくないなら授業中の方が良さそうだけど」


 昨夜、夏木と風呂入ってご飯食べて一緒に寝た空は「元気になったから試験を受けたい」と言った。立ち直るにはまだ早いような気もするが、やれる時にやるのが良い。


 教師陣の中で割とまともなS組の担任、杉田先生を経由して試験の段取りを組む。 


 「普段使わない空き教室で実施して、授業が終わる前に帰宅とか。放課後だと部活動の生徒がそこら中にいるだろう」

 「…確かに。帰ってから話してみる」

 

 F組の担任は空に寄り添うどころか、自分のクラスの生徒全員を見下しているような態度を取る。その点、杉田先生は他クラスの生徒である空の面倒を見ようとしてくれていた。


 「丹羽と話す時、これも提出するように言っておいてくれ。担任に渡しづらかったら俺でも良いし、鏡堂に渡すでも良いし」

 

 そう言って手渡されたのは進路希望調査用紙だった。俺たちはとっくの昔に提出している。高校二年の十月、進路に向けて動き出すには少し遅い。空にやりたいことがあるようには見えないけれど、何をするにしても早いに越したことはないから進路希望が最優先だな。


 「そういえば、丹羽は携帯を持っていないのか?」

 「持ってない」

 「そうか」

 「あのさ」


 携帯の話で思い出した。誰も本人に触れられなかったあの件について。


 「ん?」

 「空って前のバイト、クビになったの?なんで?」

 

 自分の中で考察してそれっぽい答えを導いたものの、真相は誰も知らない。給料が未払いだったのか、親に取られたのか。わざわざ掘り返す必要は無いのかもしれないが、知っておいた方が気持ちを汲める。


 「ふぅ、知らないのか」


 問いかけに対し軽くため息を吐いた杉田は、話すか話さないかを躊躇っているよう。


 「空にはなんも言わないから教えて」

 「ん。その場にいたわけじゃないから、多少の認識の違いはあると思うが…俺はこう聞いた」


 杉田の口から語られた話は俺をイラつかせるには十分過ぎた。空の親は、親である以前に人として存在していることさえ許せない程にクズだ。


 帰りが遅い日が続き、バイトをしていると勘付いた母親が空を問い詰め、『校則違反』と責め立て、『親不孝者が金を自由に使える思うな』などの心理的攻撃を毎日繰り返していたらしい。バイト先に執拗に電話して給料日を聞き出したり校則違反と親の承諾を得ていないことを主張し、空を連れて給料を手渡しで支払わせその日付で辞めさせられた。もちろん給料は母親の手元。

 この上ない迷惑行為にバイト先が学校へ連絡。学校への無断バイトの件と親への態度を学年主任からうるさく言われ、一週間誰とも会わず引きこもっていたんだそう。

 バイト先側も学校側も、親を怒らせたなら自業自得だと誰一人として空を擁護しなかったらしい。親に対しての怒りは言うまでもなく当然感じているが、こういうことを誰にも話さず一人で抱える空にも腹が立つ。話したところで何の解決にもならないと諦めているんだとしても、愚痴として吐き出せば少しは痛みが軽減されたかもしれない。どうしていつもいつも、全部一人で抱え込むのか。


 「その給料で携帯買うはずだったんだよ」

 「そうか…。でもなぁ、前も話した通り、高校生は親の許可がないと、できることが限られてくる。他の教員が言うように自業自得とは思わないけれど、せめて担任か、他の誰か一人にでも相談していれば違ったかもしれないと思うと、うーん」


 煮え切らないような唸り声を上げて、こちら側に寄り添おうとしてくれる。それだけで心強く感じてしまうから、俺はきっと単純だ。空も俺みたいに簡単に心を動かしてほしい。

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