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君がいたから  作者: HRK
107/152

side 鏡堂 広太




 「紅茶淹れて。疲れた。びくともしない。なんで置いてくの。信じられない」


 夏木を風呂場に追いやって、優がご立腹な様子で戻ってきた。

 紅茶を淹れるのはいいけど…本当にあいつ頑固すぎる。一人でできないから手伝ってんのに。


 「夏木置いてきて大丈夫だった?クソ不機嫌だったろ」

 「広太への怒りの視線があの子に向いちゃったから目付きを注意したら機嫌治ってた」

 「うわ。クソ怖いやつじゃん」


 わざと睨んでる時もあるけど、無意識の時が一番怖いんだよな。あれは人を殺めたことのある奴の目だからな。


 「アカリちゃん、ずっと辛そうだった…大丈夫かな…」

 「今頃、イチャイチャちゅっちゅしてんだろ」


 反省しない斎藤の肩に手形が付きそうな乾いた音が響いた。



 「てか、俺たちが来なくても引っ張り出せたんだな」


 イテェ…と平手打ちされた肩を庇いながら疑問を呟いた。


 「引っ張り出したっつーか、トイレから出てきた所を引っ張った」

 「あーね」

 「いつも深夜にこっそりシャワー浴びててさ。怪我してるから色々難儀してたわけ。どっかにぶつかる音とか。誰にも会いたくないとこ悪いけど、強行突破しないとそのうち傷口が開きそうで怖かったんだよ」


 一昨日は、折れてる腕をドアにぶつけて悶えていたからな。濡らしちゃいけないギプスはびっしょりだし、こりゃだめだって思った。


 「そんで、俺以外なら素直に言うこと聞くかと思って、呼んだ」

 「んじゃあ、今日から泊まりで見張るか」

 「そうしてくれると助かる。深夜になんかされると、不機嫌モンスターが二匹に増えるから厄介だったんだよ」


 シャワー浴びるのはいいけど、心配になるくらいの物音がすると、うかうか寝ていられない。優の部屋は風呂場と正反対の玄関奥だから騒音問題は気にならないはずなのに、俺が大声で空に呼びかけちゃうから不機嫌モンスターが同時に出現してしまう。


 「鏡堂って、空の保護者みたいだよな」

 

 ふと、おふざけモードがOFFになった斎藤から核心を突かれるような気がした。今日まで誰も触れなかった空のこと。


 「空ってさ、…」

 「ピーンポーン!!入るよー!俺俺ー!みんな俺のこと忘れてなーい?」


 今にも斎藤の口から出そうだった言葉は村尾のハイテンションに掻き消された。


 「お前、口でピンポン言うか?まじでうるさい」

 「え?何?元気って?ありがとう!元気とイケメンが取り柄の村尾ですっうふ」


 シリアスな空気を壊され、全員が呆れている。


 「ねえ!みんなテストどうだった?俺、来年S組復帰ありえるかも〜!!」

 

 自己採点した問題用紙をザバザバと広げ、計算した点数を指差した。


 「見て!900点越えてんの!すごくない?ね、みんな自己採点したでしょ?何点だった?」

 「本当だ。すごい、村尾くんって本当に頭良かったんだ」

 「アコち辛辣〜」

 「え?アコちちゃんも留年組とか言うの?やめてよ、、元S組のエリートなんだからっはっはっ」

 「アコちちゃんって何〜変〜!」


 全教科の合計1000点で廊下に張り出される順位表。定期試験の名物にもなっているものだ。空はまだ一つも受けていない。そういえば担任から『カンニングの件もあるから、丹羽の試験だけ別で作るって学年主任の判断だ。対策は自由にしてくれていいけど、今回チャンスは一度だけ。不正があったら受験資格剥奪だよ』と念を押されたんだった。不正なんてするわけねーだろバカ。


 「鏡堂と優は言わなくていいけど斎藤は?何点?俺より下だよね?」

 「うぜぇ。採点してないけどお前より上だわ」

 「そんなわけないじゃん!俺様天才村尾様だよ…?」

 「真顔で言われるとぶん殴りたくなる」

 「暴力よくないよ…平和にやろ……」

 「煽ってんの?」

 「いやまじ怖いって!ねー、夏木ちゃんは?」


 話の切り替えが早すぎて斎藤の彼女が困惑している。俺らは慣れたけど、村尾のテンションは異常だよな、分かる。


 「空と混浴中。清楚なナツキチャンじゃなくなって残念だったな」

 「ねーえ!!?わざわざ言わなくて良くない!?イジメ!?」

 「煽りの仕返し」

 「俺の……アッ俺の空の夏木ちゃんが…」

 「空の、夏木だもんな?分かってんじゃん」

 「これ以上いじめないで…」


 ともかく、避けていた空の家庭の事情について触れられることがなくなってよかった。

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