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君がいたから  作者: HRK
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side 夏木 あかり




 F組の教室前で担任の先生と話す空を見てから、二週間ぶりに会えるかもしれない。そう思うと心弾むのが半分、心配なのが半分。二週間も会えなかったのは何も避けられていたからではなかった。空が『誰にも会いたくない』と鏡堂に言っていたらしい。

 空の家庭環境が複雑っぽいという噂は少なからず広まった。鏡堂が凄い形相で何かを頼み込む姿を見た人が多いのと、事情を知っているらしい斎藤や村尾が一切茶化さないのが原因として挙げられる。

 そんな状況で私にできることなんて、空の負担にならないようじっと待つだけだった。空は私には何も話さないし聞いても多分、はぐらかされる。それが今日やっと、GOサインが出たのだ。会えるかどうかは行ってみないと分からない。会えたとしても、どう接したらいいのか分からない。

 私は泣き虫だから、空が怪我をしていたら、本人の気持ちを無視して泣いてしまうかもしれない。そんな人は嫌だと振られてしまうかもしれない。鏡堂の家に向かいながらマイナスな考えが浮かび続け、ついにはなんの対策案も浮かばずに到着してしまった。


 「アカリちゃん、大丈夫?」


 家に着く少し前から鼓動が早くなるのを感じていた。アコちゃんが顔を覗き込んでくれて、初めて気が付いた。私、冷や汗をかいている。それもかなり。


 「うん、大丈夫。今日も暑いね」


 十月になり、気温は下がっているのに無理があっただろうか。着替えを入れたバッグからハンカチを取り出し汗を拭う。


 「行くぞ」


 無理に作った笑顔で『大丈夫』と伝え、すごく嫌な音を立てる心臓をおさえながら鏡堂の大豪邸に足を踏み入れた。

 



 「鏡堂ー、いる?」


 斎藤は預かっていたスペアキーをブンブン振り回して鏡堂を呼ぶが返事はない。


 「優もいない。どこ行った?」


 広すぎるリビングを見渡しても誰もいなかった。


 「空くんの部屋じゃないかな?待ってた方がいいんじゃない?」


 しんとした家に斎藤とアコちゃんの声だけが響く。広いから静けさだけが目立って、二人といるのに孤独に感じてしまう。


 「アコちと夏木はここにいて。探してくる」


 残された私たちは会話することなく大人しく待った。アコちゃんはきっと私になんて声をかけたらいいのか分からなかったんだと思う。私は自分の気持ちと向き合うことに必死でアコちゃんと会話できなかった。


 「あぁ、もう!頑固すぎんだろ」


 斎藤が空の部屋へ行った後、洗面所の方からボヤく鏡堂が姿を現した。


 「ぁ…鏡堂…」


 空、大丈夫なの?

 声に出したらどうにかなってしまいそう。


 「あれ?斎藤は?」

 「みんな空くんの部屋にいるのかなって探しに…」

 

 呑気な鏡堂は私を見ずにアコちゃんと話している。


 「おーい空なら風呂場だぞー手伝えー」

 「あーいたいた。何を手伝うの?」

 「骨折したとこに水掛かんないようにビニール巻きたいんだけどさ、『何が楽しくて男と風呂入るんだ』ってしつこくて」

 「なんだ、元気そうじゃん」

 「元気かどうかは分かんねーけどまじで頑固。うるさい」


 戻ってきた斎藤に話す空の様子は、斎藤の言う通り意外と元気そう。でも、また骨折…?前も骨折してたよね。


 「んじゃ夏木にやってもらえば?」

 「んえ?」

 「男に見られたくないなら女に見せたらいいだろ」

 「もっとキレられそう」

 「ジャストタイミングだしついでに一発抜いてもらえば機嫌も治るだろ」

 「そうか」

 「こんな時に下ネタ言うのやめなよ!!?鏡堂くんも納得しないでくれる!?」

 「すまん」

 「アコちがキレた〜怖〜」

 


 三人のテンションに追い付けないままお風呂場に派遣されてしまった。目の前にはとても不機嫌な空と、空の服を脱がせようと頑張っている藤ノ木。空には会えたけども。泣きそう。


 「あいつ、なんで…はあっ」

 

 私を見るや否やギロリと睨まれたような気もする。ネガティブな私がひょっこりしてるからそんな気がするだけかもしれない。


 ダメだ、泣く。


 だってこんな、大怪我してる空なんて。


 「うう…」


 堪えきれず声を漏らしてしまって、藤ノ木が驚いた様子で私を見た。


 「空、目付き悪いんだからもっと優しく見てあげて。可哀想」

 「いや、今のはあいつに対するあれで…ごめん、アカリに怒ったんじゃない」


 不機嫌オーラが消えて少し焦ったように弁明する姿に更に泣いてしまった。いつもの空だ。


 「アカリ、ごめん、本当にそんなつもりじゃ…」


 ビービー泣き喚く私をうざいと思うだろうか。怪我をして泣きたいのは空だろうに、私が泣いて迷惑だろうか。


 「あー、空がワガママで疲れたから紅茶飲みたくなってきたなーあー広太が淹れる美味しい紅茶が飲みたいわー」


 これ以上にない棒読みでいそいそと消えていった藤ノ木。彼なりに空気を読んでくれたのかもしれない。


 「ごめ」


 うざいかもと思うし、迷惑かもと思うけれど、ずっと会いたかった人が目の前にいる。その事実が何より私を落ち着かせてくれるの。眉を下げて何度も謝る空にギュッと抱きついて、泣き虫な私を許してほしい。


 「アカリ、ごめんね。せっかく来てくれたのに泣かせちゃって」

 「んーん、違うの。空と会えて嬉しいの。…無事に会えて、よかった、うぅ……ずっとここにいて。毎日ここで、元気でいて…」


 胸にしまっておきたかった気持ちを言ってしまった。空には空のお家があって、帰らなければいけない事情もあるはずなのに、余計なことを言ってしまった。何も知らない他人なのにって、思われるかな。私に知られたくなくて隠しているのに知ったように言われて嫌かな。


 「ごめんなさい…お節介だよね…でも…」

 「アカリは謝らないで。全部俺が悪いから」


 それって、"全部俺が悪い"って、何に対して…?

 どうしてだろう。空の声しか無いはずなのに、何かが壊れるような大きな音が聞こえた気がした。


 

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