side 飯田 憧子
中間試験最終日の放課後、ナチュラルメイクたるものを教わりにアカリちゃんのお家にお邪魔している。翔也のバイトが終わるまで、存分にガールズトークを楽しむ予定だ。
「ファンデーションは使わないんだ〜。下地とコンシーラーを少しだけ!」
鏡堂家のお泊まり会でアカリちゃんのすっぴんを見た時、普段と変わらなすぎてノーメイクなんだと思ったけれど、どうやらほんのりナチュラルで登校しているみたい。
元が可愛いってすごく羨ましい。
「アイシャドウはその日の気分で変えるんだけど…ピンク系が多いかな?オレンジとか、ブラウンもたまに使う!」
メイク道具の紹介をしながら実際に施してもらったのだけど、雰囲気だけアカリちゃんになれたみたいで心踊る。
アカリちゃんの白くて細い指が私の顔に触れる度にキラキラアイドルがゼロ距離に迫ってくるからドキドキしてしまう。
可愛い…。おめめ大きい…。お肌綺麗…。
「私はチーク使わないけどアコちゃんは似合いそう!塗ってみてもいい?」
いろんなチークと私を見比べて「これかなー?こっちかなー?」と悩む姿さえ可愛くて…。
さすが学校一のアイドルと言われるだけある。そんな子にメイクしてもらえるなんて幸せすぎる。
「うん!やっぱりチーク塗った方が可愛い!」
キャッキャとはしゃぐアカリちゃんに可愛いと言われ、心の中でテンションがぶち上がった。
「すごい!自分じゃないみたい!」
「これ、使いかけでよかったらあげる!」
「いいの!?ありがとう!」
今使ったチークと色違いのいくつかをいただいてしまった。嬉しい…!!
鏡に映る自分が自分じゃないみたいでいろんな角度で見てしまう。
「斎藤、何時に来るの?」
「今日は19時までって言ってたからあと一時間くらいかな?」
「そっか!じゃあそれまでお菓子食べよー!」
アカリちゃんはものすごく華奢なのに、その体型からは想像も付かない程のお菓子を食べる。
可愛い子とお菓子は見た目的に相性抜群で、アカリちゃんの可愛さを何倍も引き上げている気がする。
「このグミね、新作なんだけどすっごく美味しいの!食べてみて」
カラフルな小粒グミをパクパク食べる姿がすごく可愛い。もう、何をしていても可愛い。
「本当だ!果物の味がハッキリしていて美味しい」
とぅるとぅるの唇とか、サラッサラな髪の毛とか、キラキラ輝くおめめとか。同じ人間とは思えない…。おまけに少し天然で可愛さマシマシ。
全人類が惚れてしまう可愛さだよ…。
「ん、翔也着いたみたい」
「もうそんな時間か…。楽しくてあっという間」
心なしか寂しそうな表情をしたアカリちゃんは途端に笑顔を作り、小さな紙袋にコスメとお菓子を詰めて渡してくれた。
「来てくれてありがとう!すごく楽しかった!」
アカリちゃんは数日間ずっと彼氏さんに会えていない。笑っているけど、どこかぎこちない。
「私も楽しかった。明日からメイク頑張るね」
何もできない自分にヤキモキする。
家を出ると、誰かと電話で話す翔也の後ろ姿があった。
見送りに出てくれたアカリちゃんにお礼を言って翔也の前に回り込もうとしたけれど、翔也が先に振り向いた。
「分かった。連れてくわー。あーい」
電話を終えて、今にも家の中に引っ込んでしまいそうなアカリちゃんを呼び止めた。
アカリちゃんを呼びながら、私に向けられた手。翔也の特別になれた気がして嬉しい。
「夏木、鏡堂ん家、行くぞ」
「…行っていいの?」
無理に作っていた笑顔が崩れそう。
「空、引っ張り出すぞ」
「……うん…」
空くんに会えると分かっても、表情が晴れないのはあの日の騒ぎのせいだ。
F組の教室前で、鏡堂くんと空くんがやりとりしていた。
落ち着いて話す印象だった鏡堂くんがものすごく焦った様子で、一生懸命何かを頼み込む姿が脳裏に焼き付いている。
翔也も空くんの話になると真剣な顔をすることが多い。もしかすると何か訳アリなのかもしれない。
右手は翔也と。左手はアカリちゃんと繋いで鏡堂くんのお家へ歩いた。




