未来を変える番
私はいつも通り学校に登校していた。学校ではよくクラスに馴染めて、友人関係にも恵まれ特に問題は無かった。
ただ一つを除いて。
「わっ!」
急に、後ろから私を驚かす大声が聞こえてきた。
誰から押されたかと振り返ってみると、やはりだ。よく私の邪魔をしてくる同じクラスの早見拓也だった。
「やめてくれない!」
そう怒鳴って私は足早に早見から離れた。
正直言って私は彼が嫌いだ。彼とは今年から同じクラスになった。別に彼とは仲が良いわけではない、なんなら喋った事もない。それなのに彼は必ず、1日1回は必ず私の邪魔をするのだ。
そんな日々が数ヶ月続いているわけだから、私は彼にうんざりしていた。
調理実習で班でそれぞれでスープを作っていた。違う班にいた彼がいきなり私たちの班のスープをこぼした。
ふざけんな。
階段を降りていると急にわざわざ前に出てきて自ら階段から落ちた。私は彼が怖くてその階段を下りるのを辞めた。
意味不明だ。
雨の降っている日、傘をさして帰ろうとしていると傘がなくなっていた。何故かと思い辺りを見回すと彼が私の傘をさして帰っていた。私は仕方なく車で帰った。
クズが。
毎日一回、色んな邪魔をされた。あからさまに通せん坊されたり、酷い時には鞄を隠したりと。
次第に私の周りにいる友達も心配するようになった。
「今日も邪魔されたの?」
「うん。今日は登校中に、急に後ろから大声で驚かされた。」
「そんなことするの!」
「最低だね」
「本当だよ、あ〜あ、面倒くさい。どうすれば良いのかな?」
1人が思いついたように言った。
「そうだ、わたし達が明日彼を近づけさせないようにして、1日過ごしてみようよ」
次の日、私が登校するために家を出ようとすると、
「おはよー!」
「今日は一緒に登校しよ!」
玄関前にはいつもよく喋っている女子友達4人がいた。
どうやら、彼を私に近づけさせないのはみんな本気らしい。今日は彼に邪魔される事はない。それ以上に、私はみんなに救ってもらってる。そう思うだけで嬉しくなった。
「うん!」
彼に邪魔をされないようにみんなで力を合わせて過ごした。何度か接近されそうになったものの、「変態!」とか「クソインキャ!」とかみんなで罵声を浴びせた。
そしてなんとか、彼を振り払い下校する時間となった。
「みんな、今日はありがとうね」
私はみんなに感謝の気持ちを伝えた。
「いいよいいよ。困った時はお互い様でしょ?」
「そうだ、せっかくならこのまま一緒にショッピングモールでも行かない?」
「いいね、行こう行こう!」
「いいよ!」
私は流れに任せてショッピングモールへ行くことにした。
そんなこんなで、みんなでショッピングモールに行こうとしていると
「行っちゃ駄目だ!」
後ろから声が聞こえた。
みんなで振り返ると、やはりその声の主は早見だった。
みんなの形相が一瞬にして、まるでゴミを見るような目に変わった。
「追いかけてくんなよ!変態!」
「ストーカー!」
罵声を浴びせた。
「・・・行っちゃ、駄目なんだ」
低い声色で悔しみながら下を向いた。
「早く行こ、あんなストーカーなんて置いてさ」
「うん」
そう言って私達は彼から走って逃げた。
そのショッピングモールに行っている途中私は車に轢かれた。
彼女は重体で病院に運ばれたが命に別状は無いと言う。ただ、意識はまだ戻らない。
僕が止めていれば。
私は夢を見ていた。
それは誰かにまるで憑依でもしているかのような目線なのだが、体を動かす事は出来ない。誰かの目線でどこかに隠れながら道行く人を見ていた。
するととある女子高校生が視界に入ってきた。瞬間、気づいた。私だ。
だけどよく見ると顔に何か数字が書かれている。そしてその数字は少なくなってきている。
5s、4s、3s
すると私の視点は急に動き出した。そして私に目掛けて
「わっ!」
と言って背中を押した。
私は驚いた顔をして立ち止まる。その瞬間、私の後ろでトラックが猛スピードで通り過ぎた。そんな事に気づかず私は
「やめてくれない!」
と言って足早に離れていった。その顔にはさっきまであった数字は無くなっていた。
「・・・良かった、今日も生きれた」
私の視点はそう言った。
直後、暗転そして、今度は調理実習でスープを作っていた。その視点は常に私を視界に入れている。
10s、9s、8s
どうやら私の顔の数字は一秒事に減っているらしい。
6s、5s、4s
視点は忙しなく動いていた
3s、2s
作っているスープに目がいった。
するとそのスープに立ち寄り、そして力一杯ひっくり返した。
体にはスープが付いている。今まで熱せられていたものだ、火傷しているに違いない。
「何してくれんだよ!」
私の班、みんなで彼を罵倒した。
その後ろで何か金属音がした。それは、さっきまで机に置かれていた包丁だった。包丁が地面に落ちていた。みんなそんな事には気づかず罵声を上げている。私も上げていた。
私の顔からは数字が消えていた。
私、包丁当たってたじゃん。
暗転。前に階段を降りている自分がいた。よく見ると私の下りる前にプリントが落ちている。視点はそれに向かって進んだ。私を無理やり追い越しそのプリントを自ら踏んで、滑り、そして転げ落ちた。
私は痛みは感じないが、きっとこの体は悲鳴を上げる様な痛みに襲われているはずだ。
私は意味がわからないような顔をして。その階段を下りるのを止めて、逃げるように去った。
私の視点はつぶやいた
「良かった。今日も生きれる」
どうして。
暗転。外は土砂降りだった。視点は傘置き場に近づいた。そして私の傘を取り、それをさして雨の中に出た。
振り返ると傘を探している私がいた。私の顔には10m48sという数字があったのだか、その数字はすっと消えていった。
それを確認すると、安心したかのように歩き出した。
数分歩いたころか、視点はまた来た道を折り返して戻っていく。学校に着いた。そして傘を元あった場所に置いた。
・・・
暗転。暗転。暗転。暗転。
何度も私は私を彼の視点で見た。そのどれもが、彼は自分を犠牲にしている。そのおかげで私は死なずに済んでいた。
ごめんなさい。心の中で何度もそう唱えた。泣きたかった。見たく無かった。だけど視点から動く事も何もできなくて、ただ現実を見るだけだ。
暗転。
5h25m15s
私の顔にはそう書かれている。何度も見てきてわかっている。要するに私は5時間25分15秒後に死ぬのだ。
近づいて私の邪魔をするとその秒数は止まるか消えるのだ。邪魔すればするほど、消える可能性は高い。
だからその視点は私に近づいた。
「変態!」
「クソインキャ!」
そんな罵声が聞こえてくる。周りを見ると私の友達が罵声していた。
まさか、今回は。
その視点は私に何度も接近を試みた。が、私の友達によって邪魔する事が阻害された。
そして結局、下校の時間となってしまった。
視点は私達の後を追っていた。
止めて。
無理だと分かっているのに心の中でそう唱えた。
「行っちゃ駄目だ!」
視点がそう叫んだ。
そうだ。行ったちゃ駄目なんだ。
「追いかけてくんなよ!変態!」
「ストーカー!」
罵声を浴びせた。
「・・・行っちゃ、駄目なんだ」
私達は走り出して行ってしまった。
よく見ると、私の顔には1m30sという数字があった。
視点は下を向き、地面に水滴を垂らしていた。
ごめんなさい。
暗転。
その視点は上を見るようにして私の友達の4人を写している。どうやら、壁を背に床に座っている。場所は放課後の教室だろうか。
「お前のせいで、車に轢かれたんだ」
彼女の言っている言葉の意味が全く分からなかった。
「お前のせいなんだ」
みんなで罵声を浴びせまくりそして、持っていた筆箱や教科書を投げつけてきた。暴力は更にエスカレートする。ホウキで叩いたり、蹴ったり、踏みつけたり。
私は痛みは感じなかったけど、きっと早見の身体は悲鳴をあげているだろう。
そして、その視点はそっと目を閉じた。
ずっと暗闇の中を見ていた。深く黒く気持ちが悪くなるような気分になる。そんな暗闇を見続けた。
目が開いた。彼女達はいなくなっていた。代わりに自分の周りに物が投げ捨てられていて、ぐちゃぐちゃに荒らされていた。それがオレンジ色に照らされていた。
視点は立ち上がり、廊下に出た。そして、廊下にある鏡をその視点は見た。
15m10sと早見の顔には書かれていた。
「死ぬか」
その一言を聞いた瞬間。私は目を覚ました。
僕は屋上へと歩いていた。その道は普段なら遠いと感じるはずなのに、なんだかすぐ着けそうな気がした。
僕の顔にはさっき見た通り15m10sと書かれている。そう、僕はこれから死ぬのだ。
屋上のドアを開けた。
空は気持ち悪いくらいに晴れていて、世界をオレンジ色に照らしていた。まるで世界が僕の死を祝福しているようだった。それもそうだ、必ず死ぬ彼女を未来を変えて生かしていたのだから。
フェンスをよじ登り、生徒が立ち入ってはならない所にきて、屋上の縁に立った。
彼女に嫌われようと、体がぼろぼろになろうと彼女を生かす為に頑張った。
そうだ、僕は頑張ったんだ。
滴が遥か下へと落ちていっているのに気づいた。
気づいたら自分は涙を流していた。
「嫌われたくなかった」
気づけば心の中の感情を叫んでいた。
「彼女と普通に喋りたかった」
「彼女と一緒に笑いたかった」
「彼女と一緒に普通の高校生活が送りたかった」
未来は決まっている。
今から僕が死ぬ。ただそれを決まった通り、世界が望む通り実行する。それだけの事。
僕は体を斜めに倒していき、屋上から飛び降りた。
直後、右腕が引きちぎれるぐらいに引っ張られ、体が宙に浮く。
上を見る。
「次は、私が君の未来を変える番だよ」
オレンジ色に照らされた笑顔で彼女が言った。