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13-3 仕上げ

 今にも空を割る落雷でも起きそうな、不穏な黒い雲に包まれた王都。その下で自らの十年を奪いさった残酷な魔術師を追う一人の王女。街道に今まで見知った人々が倒れていようが構わない。目の前で一人の市民が今まさに化物に引きずられ、路地裏で引き裂かれていようが構わない。

 全ては幻想。全てはまやかし。この十年間全てが虚構となった今、一人の姫騎士にとって、国の民も何もかもが嘘でしかない。ならば同情する必要があるだろうか。


「――全部終わったら、この醜い国を燃やし尽くしてやる……!」


 たった一言の呟き。それが彼女の復讐の全てを表していた。



          ◆◆◆



「そうだ……見つけて殺せ……殺しつくせ……それがベアトリス=エーカーの、新たな産声だ……」


 幾多の死骸を踏み台にして、怪物は上を見上げる。それはまるで空を通して全てが見えているかのような、そんな風にも思える。


「“ご主人様、粗方の人間はそちらへとお送りいたしましたが……”」

「ああ。もう十分だ。下がっていいぞ」


 子蜘蛛を通してリーパーと会話をかわしつつ、エニグマは足元に散らばった死体の一部をつまみ食いしている。その姿は異様さながらであれど、話し相手に見えていなければ何の問題もない。

 エニグマがゴリゴリと音を立てて指の骨をかみ砕いていると、その音が不審と思えたのか、リーパーが不安そうな声で言葉を投げかけてくる。


「“そうですか。しかしご主人様一人で、あれだけの人間に何を――”」

「何をしようが問題ないだろう? それとも俺の采配に問題が?」

「いえっ! そんなことは無いですよ! ご主人様はいつでも一番……ですから!」


 一番の後に続く言葉は何なのかはさておき、アビゲイルによる全体魔法がかけられなかったことへの保険として仕込んでおいた計画を発動すべく、エニグマはまず余剰な味方へ撤退を命じる。


「もういい、リーパー。ヤマブキと合流してこの場から下がれ」

「“えぇっ!? それって、どういう――”」

「心配するな。仕上げの巻き添えを喰らってもらっては困るだけだ」

「“そ、そうなんですね! かしこまりました!”」


 一瞬用済みと思われたのか声を震わせるリーパーであったが、そうでは無かった事に安堵の息を漏らす。


「いいからさっさと退け。邪魔にならないうちにな」

「しょ、承知しました!!」


 その時、暗黒砲の継続効果による空の暗雲から、ポタリポタリと大粒の雫が王都へと振り始める。

 そしてそのうち一滴が偶然にもエニグマから飛び出していた触手の一つへと滴り落ちた瞬間、触手はまるで一種の興奮状態に陥ったかのようにブルンブルンと暴れまわり始める。


「ッ! ……急いだ方がいい……そろそろエルドルウがばら撒いた種が――」


 ――活性化するからな。

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