11-2 もう一つの選択肢
少しだけ巻き戻った時刻にて、プルーティア帝国において第一騎士団の残存戦力を集めた会議が開かれていた。
「おや? そういえばあの軽口を叩く人と、妙に布面積が少ないあの女の人がいないようだけど」
「それについても今から話す。良いからそこに座ってじっとしていてくれ」
談話室におかれたテーブルを挟んで、稀代の呪術師であるルークと第一騎士団団長であるローガンがソファに腰を降ろし、今だ第一騎士団に所属する者の中でもそれなりの腕を持つ者がその周りに囲むように立ち、二人の対談に耳を傾けている。
「……先日、このプルーティア帝国近辺にダンジョンが発生したようだ」
「ダンジョンが? ……ふぅん、それで?」
この世界において、ダンジョンが唐突としてできることは何ら珍しいことでもなかった。
自然現象かあるいは人知の及ばぬ神か何かが引き起こした超常現象として位置づけられ、ダンジョンの奥底にあるであろう無限の財を築く秘宝を目指して、多くの冒険者が潜ることも多々ある出来事だった。
しかし今回生成されたものは、明らかに今までとは異質としか思えないものでしかなかった。
「ベルデールがその場所を突き止めたようだが、その肝心のベルデールが行ったっきり戻ってこない。それより前にエリオも行方不明となっているが、恐らくは同じダンジョンだろう」
「つまりダンジョンを舐めてかかったせいで、そこで死んだ可能性があると言いたいんだね」
他人の死など人生で飽きるほど見てきたルークにとって、今回の出来事もまたそれと同等程度の世間話とでも評するかのごとく、軽く受け流しては紅茶に手を伸ばそうとした。
しかしそれを見かねた団員の一人が、のびる腕を制するかのように剣を抜いてその幾手を遮る。
「そう簡単にエリオやベルデールが死んだと断言するか! 貴様――」
「おっと、じゃあそれ以外の可能性を挙げてみてよ。それも現実的な判断で。感情など抜きにして」
「ぐっ……」
しかし事実としてルークの論調が最も現状の正解に近いことは、その場にいる誰もがうすうす感づいていた。エリオがいなくなり、そしてベルデールまでもがいなくなって一週間以上が経過した今、生存よりも死亡していると考えた方が筋が通るのは明確と言える。
「し、しかし――」
「ではどうするか。第一騎士団からこれ以上被害を出さずに、かつダンジョンに探りを入れられて、かつ生存して戻ってくることができて、かつこちらとしては信頼に足る者であって、そして万が一いなくなったとしても、名誉の死として処理ができる捨て駒は――」
「まっ、まさか貴様――」
「その通り」
ルークはそれまで培ってきた人脈を、そしてこれまでこの国に売ってきた恩の回収でもって、この問題の解決に当たろうとしている。
「――第二騎士団を向かわせようか」
「――ッ!? 正気か貴様は!?」
それまで落ち着き払っていたローガンは、ここで初めて怒りをあらわにした。ルークの襟首を掴み上げで大声で吼え、そして顔に唾が付くほどの勢いでルークの案を真っ向から否定した。
「仮にも今の皇帝の娘がいる騎士団を犠牲にして、それで俺達の方に目が向かない訳が――」
「向かないよ。絶対に」
ローガンの腕をおろし、そして自分の顔を袖で拭い取ると、ルークはもとの余裕のある表情ではなく、本性ともいえる狡猾な狐のような禍々しい笑みを浮かべてこの裏に潜むもう一つのプランをローガンに打ち明け始める。
「実はもうこの王政を解体したいっていう声が、僕の元にいくつも届いていてね。皇帝を暗殺してもいいんだけど、今の状況だとそのまま王女が王位継承しちゃうから邪魔なんだよね」
ルークはあくまでビジネスライクに答えるが、その答えこそが帝国の騎士とは決定的に違っている。
騎士道――といったある意味礼節や常識を元にした道をはずれ、魔の道――魔道を選んだ男にとって、生贄や犠牲、そして対価といった言葉は身近なものであった。
「等価交換――今回それにあたるのが、たまたまあの王女ということだけ。それに――」
ルークはそれまで誰も訪ねて来なかった第一騎士団の談話室の扉の方へと首を傾けると、その場にまだ姿を現していない者へと声をかける。
「いいよ、入っておいで」
すると扉は静かに開き、そこからこの国の皇帝の――“もう一人の王女”が姿を現す。
「失礼します、ルーク様」
「おいおい、そんなにわざとらしくかしこまってもらったら困るんだけどなぁ」
ルークはその姿を見て苦笑するが、周りの者にとってその少女は初めて目にする人物である。傀儡のように無表情で、静かに首を垂れる様はまさに操り人形としてふさわしいであろうその少女こそが、ルークの言う替え玉なのだという。
「朦朧皇帝の隠し子、正しくは――」
――“第一王女”、かな?




