10-4 ルーク=アレクサンダーソン
――その日、遂にベルデールすら帰らぬ人となった第一騎士団に、重く暗い影がのしかかっていた。
「団長……」
「…………」
エルフ族に関連していた三人組最後の一人、ローガンは自らが行なってきたこれまでの行いを棚に上げて、今起こっている現状の整理に追われている状況であった。
「これは異常事態としか言いようがありません。エリオも、ベルデールも遠征に行ったきり帰ってきていないんですよ!?」
談話室にて、同じ団員から問いただされる者がそこにいる。
――プルーティア帝国第一騎士団団長、ローガン=ロドリゲス。それが今の彼の肩書であり、“団長”として振る舞う人間の名であった。
「……チッ」
奴隷売買をしていた三人組の仲間としてではなく、“団長”としての警告を振り切った結果、ベルデールまでもが行方不明となった。このことは表家業である団長としての責任問題までもが発生してくる。ローガンがあの時注意を促していたのは、まさにこれを怖れていたからだった。
「……仕方ない、癪だがあの賢者に頼むしかないだろう」
「なっ、我々騎士団があのような“異端者”に頭を下げるなど――」
「違う、そうじゃない」
あの二人がエルフ族の村に行ったきり帰ってこないなど、今となっては誰も知る由もない。それは騎士団としてではなく、裏稼業をしていた三人組だけが知る情報であり、悲報であるからだ。
ローガンはこれ以上騎士団から有力者を失わないためにも、帝国でもごく一部の者としか通じていない者を利用して今回の騒ぎを納めようと考えていた。
「これが化け物退治のような実態を伴うもの、原因が分かっているものなら騎士団の出番だ。しかし今回は、原因が分からない怪奇そのもの。ゆえに呪い事にも対抗できる祈祷師に頼むしかない」
「ぐっ……我々は、どうすれば……」
団員が悔しがる中、ローガンは自ら恥を忍んで談話室の壁に貼り付けてある魔法陣が描かれた羊皮紙を一枚手に取る。
それは騎士団としてはある意味、敗北したことを意味する。己が剣ではなく、かといって協力するといった双方的なものでもなく、単に他の持つ力に頼るなどと、騎士として恥でしかなかった。
しかしローガン=ロドリゲスは騎士では無かった。いかにも筋骨隆々であろうと、この国で一番という意味の第一騎士団、その更に団長に立ったとしても、彼は決して自分のことを誇り高き騎士などとは欠片も思わないだろう。
そして騎士でもない男は、周りのプライド等気にもかける事無く魔法陣を発動させ、そして皆の言う“異端者”との連絡を取り始める。
「ルーク=アレクサンダーソン。これは伝言だ」
――王都へと戻って来い。今すぐにだ。




