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7-3 補填と補充

「――そして“子供部屋”に送られた三人は妖精になぶり殺しにされた挙句一人はミミックの餌になったってことか」


 エニグマは恐らくミミックが価値の無いものとして吐き出したであろう唾液に塗れた鎧一式を見て、大きくため息をついていた。


「戦闘記録を見る限り、こいつ等が帝国むこう側の最高戦力に数えられるらしいが……正直に言えば期待外れも甚だしい」


 先も述べた通り、「MAZE」では主人プレイヤーがいない間でも冒険者は侵入を繰り返し、戦闘記録を残していく。ダンジョン運営を行うプレイヤーがログインしてまず最初に行う行動といえばこの戦闘記録に目を通すことであるが、エニグマは今回の戦闘記録を見てがっかりといった様子でため息をついた。

 そしてそれまで引き連れていたアビゲイルに少し一人になりたいとだけ告げて、その場から転移テレポートして去っていく。


しゅよ、どこへ行かれるのです?」

「心配するな。ダンジョンから出たりはしない」


 これまでの蓄積された経験を一旦整理する時間が、エニグマには必要であった。それはアビスゲートの外の世界だけの話ではなく、今現在自分がいる「MAZE」のダンジョンにおけることも含まれていた――




「――ふぅ……あぁー、疲れた……」


 ここは玉座の間の裏に密かに増築したエニグマだけが知る秘密の部屋フロア。こうしてダンジョンのギミックとは全く無関係の部屋を作ったのは、こちらの世界に来てから初めてであった。

 天井の明かりとベッド以外何もない空間で一人、エニグマもとい加賀はへたり込むかのように座り込む。

 ようやく得られた息抜きの時間に、加賀はどっと疲れを感じた。


「一旦状況の整理をしよう……どうやら本当に、俺はこの「MAZE」と酷似した全く別の世界に来てしまっているらしい」


 何度目を閉じ、目を覚ましても変わらぬ天井。周囲に漫画が散らばった二十代後半ニートの部屋ではなくこの新たに増築した部屋でしか目が覚めず、そしてこれが夢だというような外部からの刺激などなく、逆にこの世界がリアルだと言わんばかりの刺激だけが加賀の五感に訴えかけてくる。


「ハハッ、こうなるって知っていたら攻略ダンジョンの方だけじゃなくて生活エリアの方の拡張も念入りに行っていたんだがな」


 周辺の環境も一変し、何よりも伽賀エニグマ自身の体質も変化した。


「以前の俺なら虫一匹にもビビって潰すのを躊躇っていたっていうのに、今じゃ人間の刺殺死体を見ても動揺一つしないなんてな」


 「MAZE」の世界において基本的に冒険者は善であり、そして世界に危機をもたらすダンジョンを生成するダンジョンマスターは悪と位置づけされている。そのためダンジョンマスターである加賀自身も悪に染まっているのか、大商人の村を焼き討ちするような本来なら悪逆非道に値する行為も眉一つ動かさずに実行できている。


「……そしてなによりも大事なのが、俺以外にもこの世界に「MAZE」のプレイヤーがいる可能性だな」


 もしそれが同業者ダンジョンマスターであるならば、お互いに協力をすることができるだろう。

 もしそれが敵対者ぼうけんしゃであるならばいずれ争うことになるであろう。

 どちらにせよ他のプレイヤーという不確定要素がある状況で、伽賀は己の今までの行動が目立ち過ぎてはいないかと考えざるを得なかった。


「ここで一番致命的なのは市場での長剣見せびらかしだろうなぁ……あれは「MAZE」プレイヤーが見れば一発で判別できちゃうだろうし」


 「MAZE」では量産型の長剣が貴重品扱いされる国で、あんなものを振りかざせば悪目立ちすることは間違いない。

 そうであるにも拘らず、あの時点で自分しかいないものと考えていた自分の甘さは認めざるを得なかった。


「全く、こうなってくるとアビスゲートにも人員増加が必要だな……」


 人員増加――それは「MAZE」の世界におけるダンジョン増強においても重要視されるものである。端的に言えばダンジョンにおける戦闘要員モンスターの追加であり、「MAZE」の真髄を味わうことが出来る要素でもある。


「こうなったら練成ガチャを引きまくって素質関係なしに育成――って、サービス終了前に馬鹿みたいに余った課金石を武具ガチャにぶっこんでしまったから不可能か……? いや、後一回分あるな!」


 ベッドに寝転がりながらメニューボードを開いたエニグマにとって一番簡単な方法が示されているが、それでも新たに一人分しか補充ができない。


「それを除いたとしても三パターンのどれかから人員補充が必要か……しばらくは中ボスに動いてもらうしかないか」


 錬成ガチャを除いた三つの補充方法として、一つはアリアスの時と同様やってきたNPCを捕縛してモンスターとして登用する方法が挙げられる。

 もう一つはアルデインの時のように、志願して来た者を登用する方法。

 そして最後が――


「――あまり期待はしないが、外部から使えそうな素質持ちを配下に置くのも手か……」


 いわゆるこちらからのスカウトであるが、これはある程度勝手な育成がなされており、望みどおりのステータス割り振りがなされていないことも多々ある。

 しかし早急な補充としては充分であり、そして今その早急な補充が必要な状況では一番の手立てにも考えることが出来る。


「かのプルーティア帝国に、俺のダンジョンに所属するにふさわしい人材がいるとは考えずらいが……ま、気長に探してみるとしよう。それより今日の段階で、ダンジョンに生活フロアを増築する必要があるだろうな。いい加減、セーラとリルも調理場で寝るのが飽きたころだろうし」


 そして明日は一番にガチャを引くことを決めて、加賀は再びダンジョンの改築へと赴くのだが――


「……そもそもガチャって引けるのか……?」

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