4-2 揺れ動く
エニグマが地下水路にてエボニーのところを訪れている頃、エルフ族の村の集会所では矢継ぎ早に起こった出来事の収拾に追われていた。
「何が起きたの!? オークがこの村を繁殖場にするとかいって襲撃して来たかと思えば、突然ニルンの男が二人現れてオークもエルフも殺しまわったりして! 一体この村に何が起きているの!?」
「大体タイミングが良すぎるよね、あの二人組のニルンの男。男衆が完全に殺された後にやってきていきなり英雄面し始めたり。挙句脅迫まがいのことを言って――」
「止めましょうそんな事。たまたま助けてくれた人がそういう人だっただけかもしれないじゃない」
「もう終わりよ……この村もどこかの風の噂の通り、売春婦として売り飛ばされるのを待つばかりよ……」
意見は見事にバラバラで、エニグマ達に対して助けてくれただけマシだと好意的な意見を持つ者もいれば、この事態こそが仕組まれたものではないかと疑う者もいる。
中にはこの村はもはや滅亡を待つか、あの狂気を孕んだニルンの男二人に良いように植民地にされるかという悲観的な考えを持つ者すらいる。
その絶望の底近くともいえる状況の最中、一人声を挙げる者がいる。
「――皆さん、落ち着いてください」
他の者とは地位に差があることを示すかの如く首に装飾品をつけているエルフが、騒然とする集会所を静めるために声を挙げる。
「大ババ様! あの者達は一体何なのですか!?」
若いエルフから大ババ様と呼ばれたエルフ――とはいっても若いエルフとはそこまで見た目の変わらぬ、人間で老いたように見積もったとしても精々三十代後半といった位の見た目にしか見えないエルフの村の長、カルラが若いエルフ達の嘆きの声を受け止める。
「あの者達はまるで、それこそ私達を家畜の如き扱いじゃありませんか!」
「あのようなものの支配下に置かれるくらいなら、私は――」
「静かに!」
カルラは少し声を荒げてその場のざわめきを完全に鎮める。そしてもう一人、カルラの隣に立つエルフ族の女性がその場にいる全員を気つけるように語気を荒げてこう言い放った。
「お前達、自分達で言っていて情けなくは無いのか! 外界の者に文句を言うくらいなら、なぜ死を選ばなかった! 何故戦わなかった!!」
カルラの隣に立っているのは他の色白なエルフ族とは違う、褐色肌のエルフであった。村にいる者とは違って少しばかり筋肉質の体つきで、他の者とは違うと言わんばかりにうっすらと割れた腹筋を露わにしている。
「っ、誰もが貴方のように戦えるわけでは――」
「何時何処でも戦えるように、私は訓練しておくように言っておいたはずだ! それもこのような後ろ盾のない村ならば尚更のことだ!」
幸か不幸か、ゼルーダはオークの襲撃時には一人で遠征に出て行っていた。そして遠征のお土産にとあらゆる地から持ってきた野草の種や毛皮等を村へと持ち帰った時には、既にオークの襲撃には決着がつけられ、謎の男二人によって支配下に置かれる宣言を成された後のことだった。
「ゼルーダの言う通り、私達には戦えるほどの力も、決意に満ちた心も無かった。だから今回の件について何かを言えたものではありません。ましてや歪んだ形とはいえど助けてもらった身です。この救い上げた最後の幸運を、我々がどう活かしていくかが問題です」
カルラの言葉ももっともであった。過去の事をいくら振り返ってもどうにもならない。ならばこの先をどう生きていくか、どう活かしていくかを考えた方がより建設的といえるだろう。
「これから先どう転ぼうとも、私達はこのエルフの血を絶やしてはならないのです」
「そのためにもセーラとリルを逃がしたんですよね? 大ババ様」
「ええ……彼女達も、どこかで生きていてくれれば……!」
セーラとリルを逃がす際、族長であるカルラは「決して振り向くな、決して戻るな」と告げている。しかし当の本人たちは今エニグマの保護下にいることを、彼女たちは知らない。
「もしこの先何十年、否、何百年と経った後にセーラとリルが戻ってきた時にこの村がまだ存続するためにも、今は復興する方が先だ」
「その通りだ、エルフ達よ」
この場ではありえない、男の声。しかしその声は以前にやってきた謎の二人組の声ではない。そんな聞き覚えの無い声が、集会所の入り口から届けられる。
「っ、何奴!?」
「おっと、そんなに殺気立てないでくださいよ」
以前の神父服とフードの男とは違う、きちんとしたプレートの鎧を身に着けた三人の男達。ゼルーダは即座に背中の剣を抜き取って戦闘態勢を取るが、鎧を身に着けた男は一切の敵意が無いことを示すかの如く、剣を抜かずに両手を前で振って敵意が無いことを示し続ける。
「実は僕達、オークを追っているハンターなんです」
「ハンター、だと?」
「はい、その通りです」
エルフ族は新たに現れた人間に対し絶えず警戒心を持ち続けているが、男達はひたすらに張り付いたような笑みを浮かべてこういった。
「我々はプルーティア帝国の者で、エリオ=ブロンディアと言います。以後、お見知りおきを――」




