サンタしゃんに菓子折を ⑬
「なっ何スかこれは!痛いッスーーー!」
「サヤカちゃん、ごめんね。連れて帰ってあげられないの。白百合さんは良い人よ。しっかり修行してね。私から一つだけ指導しておくね。サヤカちゃんの先生は白百合さんだから出しゃばりたくないんだけど、どう?縛縄と違って拘束を解こうとする気もなくなるような拘束力でしょ。これが縛縄の上級術、縛鎖よ。精霊を捕らえるには最低でもこの術を行使できなくちゃいけないの。絶対に覚えておいて。でも例外はあるの。青森支部で山田さん達は普通の縛縄に炎の術式を組み込んだ炎縄っていう術で氷狼を拘束してたんだけど、それが出来たのは冷気系の精霊に対して強力に作用する炎系の縄術だったからなの。縛鎖は確かに強力なんだけど、オーラの消費が激しいの。だから山田さん達は、氷狼に対しては縛鎖と同じ効用をもつ炎縄を使って、オーラの消費を抑えながら、氷狼と戦ったの。もし、氷狼がもう一体別の冷気系ではない精霊といたなら山田さん達は炎縄を使わなかったはずよ。そのもう一体に簡単に引き千切られてしまうから。サヤカちゃんは白百合さんからそういう東九条家の戦略も勉強してね。あとは・・・」
沙織は床で縛鎖をとこうと床でジタバタしているアダムを見る。
「アダムを見てサヤカちゃん。縛鎖をかけられて、必死でとこうとしてるけど抜けられないでしょ。私だからとか、私がオーラを大量に込めてるとか特別な事をしてるわけじゃないの。丁寧に丁寧に術をかけているだけ。それだけでアダムでも抜けられないの。サヤカちゃんの縛縄も同じよ。丁寧に術をかけ、そしてそれを磨きあげれば、白百合さんにも通用するようになるわ。そしてこの状態から力を入れると・・・」
「ギャーーーーーーーーーッ」
アダムはギリギリと締め上げられ、激痛に悲鳴をあげる。
「あらアダム、ごめんなさい。お相撲さんみたいに、力持ちになっちゃったみたいで力の加減間違えちゃった。でも聞きたいのは悲鳴じゃないの、ごめんなさいなのフフフッ」
「サオリン!不意打ちなんかしやがって卑怯だぞ!」
「なっ!不意打ちしたのはアダムでしょ!私の知らない内に恥ずかしい写真をホームページに載せるなんて許せない」
ギリギリと縛鎖を締め上げていく沙織に遂にアダムはついにギブアップする。
「ギャーーーッ分かった、分かった、サオリンが真の所長だーーーー!」
「それはアンタで良いわよ!でも何かやるなら相談しなさい。問題が起こったとき対処しなきゃいけないのは表の所長の私なんだからね!」
沙織はサヤカにかけた縛鎖をとく。サヤカは自分の縛縄が全く通じなかったアダムが、いまだ床で動く事すら出来ず、グッタリしているのを見て驚愕する。
「わかったでしょサヤカちゃん。縄術は攻撃にもサポートにも使えるの。サヤカちゃん次第だけど防御にも使えるわ。私は超一流の縄術使いの人を知ってるんだけど、その人は縄術で敵の攻撃を全てたたき落としていたわ」
「凄いッスね。沙織さん、その人を紹介して欲しいッス」
「駄目ッ!」
沙織から強い口調で拒絶されたサヤカはビクッとする。
「あっごめんねサヤカちゃん。サヤカちゃんの師匠は白百合さんだし、今のサヤカちゃんがその人に教わっても何が凄いか理解出来ないと思うし、多分・・・死んじゃうから・・・」
またかと、この業界のブラックさにサヤカは顔を引きつらせる。
「わっ悪い人じゃないのよ。でも西九条家の人だから加減を知らないっていうか。“西九条家に弱卒なし“が口癖の人で平気で一線を越えてくるの。ある程度の強さを、たとえば白百合さんくらいに強くならなきゃ会わせられない」
「西九条様、まさかその方は西九条弘様ですか?」
「そうです白百合さん。知ってました?」
「当然ですよ!弘様は最上位の五芒星位をお持ちの陰陽師であるとともに、“弘のヒロシは広死のヒロシ”って呼ばれるくらい一度戦えば“広”範囲に“死”を撒き散らすことで伝説的な人物じゃないですか」
何だその最悪な二つ名は。サヤカは心の中の、人生で会ってはいけない人物メモに朱書きする。
「まあそんな人だからサヤカちゃんが会うのはまだ早いから、今は白百合さんに基本を教えて貰ってね。いつか紹介するから」
「ハッハハハッ沙織さん全然いいですよ。サヤカはアリタンからまだまだまだまだ学ぶ事があるッスからハハハハハッ」
サヤカの乾いた笑いが食堂に響く。
「さあそれじゃあ、私達はそろそろ失礼しますね。白百合さん、今日は修行の邪魔をしてしまってごめんなさい。サヤカちゃんを宜しくお願いします」
「すっすまねえな邪魔してよ。それじゃあサヤカーン、また来るからよ」
アダムは沙織に縛鎖で引っ張られ、捕虜のように足取り重く帰って行く。
「サヤカーン!一緒に初依頼達成パーティー出来て良かったでしゅー。また帰って来たらサヤカーンの食べたがってた夜ワックでお祝いするでしゅよー」
「ありがとうッスみんな。早くアリタンから呪詛防御教わって帰るッスから。アポロに青森支部秘伝りんごパイを作ってあげるッスからね、楽しみにしてて欲しいッス」
アポロはサヤカに飛びついて「絶対でしゅよ。早く帰って来るでしゅよ」と甘えて離れそうになかったので、沙織は縛縄を使って優しくアダムを拘束し、アダムと同じように引っ張って食堂を後にする。