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サンタしゃんに菓子折を ⑩

その時風が吹き、白百合が集めていた写真のピースがバラバラに散っていく。アポロを沙織に預け、すぐに写真の欠片を泣きそうな顔をしながら追いかける。


「おいサオリン。写真を一緒に撮ってやれよ。さっきの事もあるし、それにあいつは俺達が一番やりたくない事をサヤカーンにやってくれてる。感謝すべきだぜ。それに俺達にとっちゃ今日はまだクリスマスだ」


「そうだね。私、ちょっと行ってくる」


這いつくばって写真の欠片を集めている白百合に沙織は声を掛ける。


「あのっ白百合さん。サヤカちゃんの事、色々とありがとうございます。それでですね、写真なんですが・・・別のじゃ駄目ですかね?」


「えっ!」


「私的には、あの写真が恥ずかしいだけなんで、別の写真ならオーケーなんですけど・・・」


「写真・・・撮らせてくれるんですか・・・」


「あっはい。私でよければ・・・」


白百合は勢いよく立ち上がりスーツの内ポケットからカード上の無線を取り出し、それに向けて大声で叫ぶ。


「緊急警報、緊急警報!コード西九条5―A!繰り返すコード西九条5―A。場所はE―11、E―11」


東九条家に配備されているスピーカーから白百合の声が大音量で響き渡る。するとすぐに東九条家の陰陽師、職員が地鳴りような音を轟かせながら集まってくる。


「何?何?レベル5って一体どう言う事?山田さんがレベル5は最高警戒レベルって言ってなかった?」


沙織は何が起こっているか分からず、呆然としていると、集まってきた陰陽師達や職員がテキパキと準備をしていく。


その中心となって指示しているのが当主、東九条武臣だ。集合写真を撮るためのひな段、ツーショットを撮るためのパネル、照明、レフ板が用意されていく。さらに沙織は、スタイリスト、美容師、メイクさんに、簡易に作られた更衣室に連れていかれ、強引に着替えやセットをされてしまう。


「サオリン、写真を撮らせてくれるそうで感謝感激デース。東九条家写真撮影希望者306名集合したヨ。まず集合写真を撮るから真ん中に座って欲しいヨ」


沙織が座ると、すぐにひな段に希望者が並び、そしてパシャ、パシャと写真を撮っていく。沙織がただただ驚いていると、


「部門別に整列させているから、一枚十五秒もかからないヨ。あっちなみにさっきメイクとかされたと思うけど、投票で一番多かったナチュラルメイクにしてるよ。ホットパンツは私の趣味ネ!私が買ってきたよハッハッハッハッハッ」


投票?沙織は東九条家が、自分と写真を撮る時のために、そんな準備までしていたと思うと、東九条家が少し気持ち悪くなってきた。


さらに気持ち悪いのは、私にホットパンツを履かせた上、それがサイズピッタリということだ。当主を今日もビンタしたくなったが、その間もひな段上では人が入れ替わり立ち替わりしているので、沙織は出来なかった。


そんな事を思っているうちに集合写真撮影が終了した。するとすぐに大家が、沙織をツーショットパネルの前に連れて行く。


今までは座っていたから、脚があまり見えなかったが、立つと太腿まで露わになったことに沙織は顔を真っ赤にして恥ずかしがる。そもそもの発端は、白百合が持っていた写真が恥ずかしいからというものだったが、どう考えても今から撮られる写真の方が恥ずかしい。


目の前にはもう306名の行列が出来ていて、その途中には2時間待ちのプラカードも挙げられている。これはもう半分馬鹿にされていると思った沙織が断ろうとすると、

「にっ西九条様。わっ私、西九条様の大ファンで、東九条家に入ったのも昔、西九条様とご両親が私の田舎を、牛鬼から救って頂いたからです。その節はありがとうございました!グスッ」

と昨日の宴会に参加出来なかった女性職員が涙を流しながら、沙織と写真を撮る。


その次の職員も

「西九条様、私の実家が霊の通り道になっており、困っていたところをご両親に霊道をずらして貰いました。あのままだったら私の家族は気が狂ってたかも知れません。もう一度お礼を言いたいと思っていた所、ご両親の訃報をお聞きしました。西九条様、もし何かあれば東九条家にご連絡ください。恩返しをどうかさせてください」

・・・これガチのやつだ。沙織は早まって「私を使って遊ぶのは止めてください」と言わなくて良かったと心底ホッとした。


東九条家の方々の写真撮影に対する想いを知り、恥ずかしさで頭がいっぱいの状況が少し緩和されたからか、沙織の耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。その方向に目を向けると、5メートル程前に、長机が用意されており、そこにアポロと先程まで死にかけてグッタリと倒れていたはずのサヤカがパイプイスに座っている。


「サオリンと写真をとるには千円いりましゅ~。今持っていない人はこの紙にサインして欲しいでしゅ~。少し高くなって二千円になりましゅがごめんなさいでしゅ~」


「ウチの看板娘と写真を撮りたいって言いはるのに、手ぶらとは・・・アンタはん、えらい男前ですな~(訳:はっ?えっ?ちょっちょっと待って!?ちょっと頭痛がしてきたわ~。まさか、ただでツーショット写真を撮れると思ってるの?これだから田舎者は嫌なのよ~。今時、売れないアイドルでも、ただで写真を撮らせてくれないっていうのに。まったくアンタは誰と写真を撮ると思ってるの?沙織さんよ!?さ・お・り・さ・ん!有名人でもないあんたが写真をお願いするなら、それ相応のものがいるのはわかりますよね?あっ違う違う。ここ笑うところじゃないから)」


とアポロは写真撮影希望者から金を巻き上げ、サヤカは満面の笑顔を崩さず、お金の持ち合わせがない写真希望者達に普段は使わない京都弁でいけずな事をぶちかましている。それを受けて京都出身、または京都住みが長い者達は、サヤカの言葉を自分なりに解釈して、他の者達はそれに倣い、急いで借用書にサインしている。


これには沙織もさすがに注意をしに行こうとするが、次々と押し寄せてくる希望者の対応に精一杯で注意しにいけない。希望者の中には、沙織や沙織の両親に対する感謝が止まらない者がいるが、5秒以上沙織と話す者はアダムが引き剥がしていく。


「東九条家は今更だけど、あんた達はいつそんな訓練したの!?」とアダムの後ろ姿に向けて言う。


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