サンタしゃんに菓子折を ⑥
「さっさて、それじゃあ呪詛に耐える修行を行う。簡単に言えば呪詛に耐えるには、自分の身体の周りにオーラを纏わせればいい。だが、ただそれだけなら今のお前でも実は出来ている。というか全人類が出来ている。特に私達が言うオーラを纏うという事の意味は、身体から自然と漏れ出るオーラを纏うという事ではなく。自分の意思が介在するオーラを身体に纏うという事だ。オーラには自分の意思を練り込む事が出来るということを知れ」
白百合はサヤカの顔を見るが、ポカーンとしていて、明らかについて行けてないように思った。まあオーラの説明をすれば最初はこうなる事が多いので、やはり実戦が一番だなと白百合は思い。行動に移る。
「あまり理解出来てないようなので、遠隔呪術の技の一つをお前にかける。痛くないから逃げるな。私の説明を身体で感じろ」
白百合は両手で印を作る。それからブツブツと呟きその後に印を変更し、それから両手の掌をサヤカの方に向け、『縛縄』と唱える。
「グエッ!」
サヤカの身体を見えない力が、ギリギリと締め上げる。
「ちょっちょっと痛いッス。ロープでキツく縛り上げられてるみたいッス」
サヤカは拘束を解こうと頑張るもビクともしない。
「分かるか?コレがオーラに自分の意思を練り込むと言うことだ。お前の言う通り、私は自分のオーラに、ロープで縛り上げると言う意思を練り込んだ。そしてお前はそれを受けてしまったのだ。敵のオーラ攻撃に対して、ただ漫然とオーラを纏っていたのでは今のような状況になる。今はお前が全くオーラに対する防御が出来ていないから力を押さえたが、もし本気でやれば、骨の何本かは折りながらの拘束となっただろう。これが今のお前の状況だ。敵の攻撃に対して余りにも無防備で、自身のオーラで跳ね返したり、無効化したり、軽減したりのどれも出来ない。お前はせめて冬休みが終わるまでに、この程度の縛縄など軽減出来るようになって、縛縄の呪縛下でも走って逃げれるようになれ。時間さえ稼げれば、西九条様とアダム様が守ってくれるだろう」
白百合の言葉を聞き、サヤカは目の色を変える。
「なにふざけた事を言ってるッスか!私は足手まといになるためにアーサー探偵事務所に入った訳じゃないッス!」
サヤカは拘束されている手を、歯を食いしばりながらゆっくりゆっくりと身体の前に持ってきて、先程白百合がやった印の形の真似をする。次にサヤカは、現在の印の形の時の白百合のオーラの状態を思い出す。
「最初の印を組んだ時、アリタンが纏うオーラが増したッス。多分この印は自分の中のオーラを呼び出す印ッス。ならば、出て来いッス!菅原道真様の巫女たるサヤカの、世界を滅ぼす程のオーラよ!」
印を組み、重度の中二病と医者の診断書が出てもおかしくないセリフを口にしながら、一心に願うサヤカ。
「フッ形だけ真似してもどうなるものでもない。その印に対して適切な手順を踏まなければ、意味がないのだ。それは東九条家と西九条家が1000年以上の時を重ね研究してきたもので・・・」
サヤカのオーラが、普段のおよそ3倍に膨れあがる。白百合は驚愕する。
「ちょっと待て!オーラの解放は簡単ではないぞ。何故出来る!?」
サヤカは白百合の声など耳に入らない。オーラの解放が出来た事を肌で感じると、次の印を組む。
「この印は、増やしたオーラに命令を入れる印に違いないッス。ロープを切るのは刃物。刃物と言えば妖刀ムラマサッス。ムラマサよ!この身体を縛るロープをズタズタに切り裂くッス」
印を組み、中二病を全開にして、今出来る極限まで集中して念じる。するとバチンッと言う大きな音とともにサヤカの身体が自由になる。白百合は驚きを隠せず目を丸くする。
「ハハハハハハッ最高の気分だぜ~~!拘束から解放されるって最高の気分だぜ~~~!!この気分を分かち合いたいッスネ~~!さあ次はアリタンが私の攻撃を受ける番ッスよ。こいつでアリタンの服を切り裂いて、そのタイトパンツスーツで拘束されているオッパイとおしりを解放してあげるッス。それからアリタンの下着姿のエロ写真を、東九条家のエロ猿達に売りつけて、その売り上げ金を私の散々だったクリスマスのプレゼントにするッス!さあ妖刀ムラマサ、アリタンの服を切り刻むッス!デュフフフッ」
サヤカは刀として感じる自分のオーラを、白百合がやったように両手で押し出した!サヤカの刀の形をしたオーラが白百合に飛ぶ。
「フンッ」
白百合は飛んできたオーラを、新たな印を組み対応する。白百合の前に鏡のような物が現れたと思うと、サヤカの刀は鏡に吸い込まれる様に消え、消えたと同時に向きを180度変えて今度はサヤカに襲い掛かる。しかもサヤカが放った時よりもオーラが込められていて巨大になっており、スピードも速い。そんな物をサヤカに対応出来るはずがない。ザクザクザクザクザクザクッ・・・
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッス」
あわれサヤカはスポーツブラとパンツ一枚になるまで、服を切り刻まれ、床にへたり込んだ。
「サヤカ。何か面白い事を言っていたな?うん?東九条家のエロ猿たちに私の下着姿の写真を売りつけて儲けたお金を自分のクリスマスプレゼントにするって?そうだな、お互い散々なクリスマスだったもんな。私は夕方から夜まで走らされた挙句、中学生に馬鹿にされるわ、当主にお持ち帰りされたと女子達の間で噂が広まるわ、お前が叫んで五月蠅いからサンタが俺に彼女を運んでくれなかったんだから合コン設定しろとか朝から色々言われて本当に散々な日だったよ。だから私はお前に協力してやる。お前のその姿を東九条家のエロ猿達に提供して、私が責任を持ってその代金をお前に渡そうじゃないか!」
白百合はスーツの内ポケットからスマホを取り出して写真を撮ろうと構える。
「ちょっちょっと待つッス。オーラをコントロールするために気持ちが入りすぎたって言うか。ハハハッ・・・おっ大人が中学生のエロい写真なんて持つとアウトッスよ!児ポで通報してやるッス!アリタンは刑務所で臭い飯を食うことになるッス」
「おっお前最低だな!自分が撮られる時だけ、児ポを取り出して逆切れするなんて!私の裸の写真を売るのも犯罪だからな!まあ私も服を切り刻むのを分かってて、術を倍返ししたのは大人気なかったが。ほら、さっさと新しい練習着に着替えて来い!」
白百合はスマホをポケットにしまう。
「アリタンはやっぱり優しいッス。ごめんなさいッス。またやるかも知れないけどゴメンッス」
白百合が反省していないサヤカに拳骨を喰らわしてやろうと手を振り上げた時には、サヤカはもう更衣室に走っていた。振り上げた拳は行き場を無くし、白百合はゆっくりと拳を降ろしながら大きな溜息をついた。
「なんであいつの相手ってこんなに疲れるんだろ?そもそも隙あらば寝首をかこうとするなんて、最近の中学生ってこんなに元気だったっけ?」