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氷狼デリバリー ㉑

「ハハハハハッサオリンこれはビジネスデース!この200万円で日本全国にある支部で色々なアイテムを揃えて欲しいデース。きっとその中から気に入ったものを見つけて、300万、400万と使ってくれると信じてマース。これは顧客を逃さないための投資デース。だから遠慮しないでくだサーイ!それにミーは、アーサー探偵事務所の設立を煽った一人ですからネ。貧弱な装備が理由で死なれたら寝付きが悪くなるヨ。」


「それじゃあ早速なんですが、昔私は知らなかったとは言え、かなり除霊相場を荒らしたと思うんですよ。今の大家さんの話を聞いてたら、私は相当恨まれてるかなって思うんですよね。私やアダム、アポロは普通の呪いなんて効かないんでいいんですけど、サヤカちゃんに何か呪いを防ぐお守りっていうか、そういうのありますか?」


「ありがとうッス所長!サヤカの心配をしてくれて嬉しいッス!最高の上司ッス!」


サヤカは沙織の気遣いに感動する。


「ありますけど今はいらないネ。なぜなら今日から、サヤカに呪詛防御対策を行うヨ。サヤカは冬休みに入ってますネ。もうパパさんとママさんの許可は頂いてるから始業式までノンストップで呪詛対策をしマース」


大家の根回しにサヤカはゾッとする。


サヤカは地獄に意気揚々と、


「強気で行くッスよ!」


と足を踏み込んでしまった迂闊さに後悔する。


どうにかしてこの地獄の館から脱出する事をサヤカは決意する。


「ちょっちょっと待って下さい。明日はクリスマスッス。女子にとって大切なイベントッス。この日を修行に使うなんてちょっと無理ッス。だから26日には帰って来ますから宜しくお願いするッス」


サヤカは大家に言いながら二、三歩後ずさりしたあと、一気に振り返って走りだす。


ドアを開け開けようとドアノブに手を伸ばした時、


不意にドアが開き、サヤカの視界が宙を舞う。


「ゴホッ!」


背中を強く床に打ち付けたサヤカは、何が起こったか分からなかったが、


手首を握られている感触がしたので、そちらを見てみると、


なんとここまで案内してくれた秘書がサヤカの手を掴み投げ飛ばしたのだ。


「えっ?何で秘書さんが?」


「紹介する手間が省けて良かったヨ。その子は東九条家総本家遠隔呪術部主任 白百合しらゆりありさデース。秘書ではありまセーン。これから冬休みが終わるまで、サヤカの先生になる人ヨ。ちょっと真面目過ぎて手加減を間違えることもあるけど、優しい子デース。それじゃアリタン、連れて行ってネ」


「はい、当主了解しました。私が責任持ってこの新米の役立たずを、2週間で荷物運びぐらいには使えるように仕上げます。コラ!早く立たんかーー!」


「はい!アリタン」


サヤカは反射的に白百合の事をアリタンと呼んでしまう。


相手を早い時期からニックネームで呼ぶ。


それは相手との距離を縮めるサヤカ流のコミュニケーションである。


それと中学生という若さを駆使して青森支部では陰陽師達から


色々と教えて貰えるほど距離を縮めたが、今回は相手が悪い。


明らかに顔色が厳しいものに変る。そう実はこの白百合、鬼なのだ鬼教官なのだ。


サヤカは地獄の館から脱出しようと試みて、


運悪く最悪の地獄の住人に捕まったのだ。


白百合は自分の部下が年上だろうと、サヤカのような中学生であろうと


容赦ない厳しい修行をかすことで東九条家の中でも恐れられている。


「ほ~う!私の事をそんな風に呼ぶのは当主と部長位のものだ。面白いじゃないか!その呼び方を今日の修行が終わるまで続けることが出来たなら、特別に私をそのニックネームで呼ぶことを許してやろう。楽しみだ」


白百合はニヤリッと笑いながら、サヤカの胸ぐらを掴んで言う。


サヤカは沙織に助けを求めたが、沙織はサヤカに成人式を迎えさせたいので、


白百合の行動を黙認する。


ただ両手を胸の前で握り、ファイトだよ!


というジェスチャーをだけをサヤカに送る。


諦めたサヤカは渋々と白百合についていく。


二人の話が落ち着くと次はアダムが大家に話しかける。


「オッちゃんの気持ちは分かった。ここに来るまでは返答しだいじゃ容赦しねえと思ってたけど、俺達の事よく考えてくれてたみたいだな。ありがとなオッちゃん。でもよ、これだけは確認しとかないといけねえ!高速で俺達が凍死しそうになった時、もし最悪の事態になってたらどうするつもりだったんだ!」


アダムが机によじ登り、大家に詰め寄る。


それに応えて大家も真剣に答える。


「アダム、あなたには本当に感心します。皆さんがもう動くことが出来なかった時でも、オーラで人間のような腕と脚を作り、車を運転して合流ポイントまで辿りつきましたね。あれはスパイの特技の変装を利用したんですか?」


「!!・・・オッちゃん。何でそれを知ってんだ。誰にも言ってねえし、見られてねえはず・・・ちょっと待て・・・遠隔呪術部?部屋に来るタイミングが良すぎる・・・あいつか!白百合か!」


「さすが名探偵アダム。いやヒントを与え過ぎましたかね。皆さんは私達をまだ侮っているようだ。私達は東九条家ですよ?大事に至らないように皆さんの車を三台の車で追跡していました。そしてアダムが言ったようにアリタンによる遠視の呪術による車内の監視をさせて頂きました。皆さんが倒れたら即座に2台の車がサイドから押さえ込み、窓を割って侵入して車を停車させる手筈でした。車の一台は医師が同乗し、救急車を超える医療機器を用意していましたから治療の方も万全の体制だったと言っておきましょう」


「敵わねえなオッちゃんには。まああと一つお願いがあるんだがいいか?」


「どうぞアダム」


「サオリンの力の制御の仕方を教えてくれ」


沙織は大家が自分の力をコントロールする術を知っているのか、


興味津々で手に汗がでてきた。


しかし大家は両の手のひらを上に向け、大きな溜息をつく。


「すみません。私はその方法を知りません」


沙織も溜息をつく。


東九条家ならあるいはと思ったが、やはり制御する方法は


自分で探っていく事になりそうで気が遠くなる。


「それはやはり道真様に聞く方がいいでしょう。それとどちらかというと私の方が西九条さんに、精霊化する方法を教えて欲しいですよ」


「えっ精霊化ですか?全身にオーラを巡らせて、限界を突破するっていうかそんな感じです」


「ほんとサオリンは残念な奴だな」


「すみません分かりません」


二人は沙織の説明を聞くも、意味が分からなかった。


アダムはまだしも、大家は本当に残念そうにしている。


「アポロはサオリンの言ってる事わかりましゅよ。力をバーンって解放する感じでしゅよね」


「そうそうさすがアポロ!バーンッだよね!」


「そうでしゅバーンでしゅ!」


二人は笑顔でキャッキャと話す。


アダムは溜息をつき、大家に


「駄目だこりゃ、なあオッちゃ―」


と同意を求めようとしたが、大家は指を顎に当て考える姿勢をとり、


「神の力を持つ二人が、変化する方法に共感している。限界突破が命の危険があるオーラの暴走状態であるならば、まさかその先があるのか?・・・・」


となにやらブツブツ言っている。


アダムは何か疎外感を感じたので、話を変えようとする。


「じゃあ今度皆でミッチーの所に行こうぜ!疑問を解決してもらおうぜ。じゃあサオリン他に何かあるか?」


「いえ、もう何もない・・・あっ遠視ってまさか私のこと覗いたりしてませんよね?今までそんなの警戒してなかったから・・・」


「・・・あの、いつかバレると思うので正直に言います。昔一度試していたようです」


「キャアアアアアアアアアアアアーーーーー!」


大家の頬に、沙織のフルスイングの平手打ちが炸裂する。


「ブベラァ」


左頬にキツい一発を入れられた大家は、奇声をあげながら


部屋に備え付けてある本棚に体ごとぶつかる。


大家の巨体はそのまま静かにズルズルと床に崩れ落ちていく。


限界突破寸前の力で殴られた大家は瀕死の状態だ。


「おいっ!オッちゃん大丈夫か!」


「あっすいません大家さん。でも山田さんに依頼されてたし、丁度良かったって言うか・・・ごめんなさーーい」


「イエスイエス。あっイエス様じゃないほうだから安心してください召されてませんよ。ゴホッ防御に秀でた東九条家、その当主を一撃で・・・ちょっ、ちょっと待って下さい落ち着いて下さい。その時の当主は私じゃないですから、私にキレないで下さい!って言っても、その時私が当主でもその決断をしたと思います。というのはですね、昔の西九条さん、ツチグモに両親を殺された後の西九条さんですが、善良な人物だと東九条家も知ってましたが、今と違ってあの時の西九条さんは本当に恐かったんです。だからと言って西九条さんに何かしようとした訳ではありません。その力が万が一、東九条家に向けられた時に、速やかに避難できるように監視しようとなったそうです。結果、術者は病院送りになりました。白百合の上司の遠隔呪術部部長、藤森って言うんですが、見た瞬間、目、鼻、耳、口、肛門から血が吹き出たそうですよ。東九条家の分析では、遠視というのはテレビ中継と同じようなものですから、遠視で見た映像を受信する際に、西九条さんのオーラも受信してしまい、藤森が耐えられなかったとされています。だから先程、西九条さんが恨みを買ってるかもと言ってましたが、西九条さんは知らず知らずの内に半殺しの目に遭わせていると思うので、覗いただけで半殺しにされる相手を恨む剛の者は0じゃないですか?私なら絶対に敵対しないようにしますけどね」


沙織はまたかよと凹む。


自分から質問したことだが、これ以上聞きたくないと耳を塞ぐ。


私は無意識にどんだけ病院送りにしてるんだと、また吐きそうになる。


「ちょっちょっと私、具合が悪くなったので失礼します」


「そうですか。報酬は振り込んでおくので持って帰らなくて大丈夫ですよ。一束くらい持って帰りますか?」


「いっいえいえ結構です!それじゃあ大家さん失礼します」


「それじゃあオッちゃんまたな」


「またサヤカーンに会いにくるでしゅ~」


「どうぞ!サヤカはきっと喜びマース。それじゃあまた道真様の所に行くなら連絡くだサーイ」


東九条家を後にした三人はワックのドライブスルーで、


各々好きなものを買い事務所に帰った。


「ふ~疲れたねー初仕事!とりあえずみんなジュース持って、いくよ!カンパ~イ!」


三人は紙のコップを合わせた後、ゴクゴクと飲む。


「ぷは~メロンソーダは美味えなやっぱり!」


「メロンソーダが染みるでしゅ~」


「仕事の後に飲むジュースは最高だね」


三人は仕事の苦労をお互いに労う。


「サヤカもいれば良かったんだけどな・・・あいつ夜ワック食べたいって言ってたな。チクショー!良い奴ほど早く死にやがる」


アダムが夜空に浮かぶ星を眺めて悔しそうに言う。


「死んでない!まだ死んでないから。なに星見て言ってんの!成人式を迎えられるように今、死ぬほど頑張ってるんだからね!」


「サオリン!明日早速会いにいくでしゅ。メロンソーダ差し入れしに行くでしゅ!サヤカーン元気になるでしゅ」


「そうだね。明日はクリスマスだもんね。サヤカちゃんともお祝いしたいね」


「サオリン、クリスマスってなんでしゅか?」


その夜は遅くまでアポロにクリスマスについて教えてあげた。




狼を青森まで届ける簡単な仕事だと請け負った仕事だったが、


死にそうになりながらも、全員無事に帰ってこれたことが沙織は嬉しかった。


今度は探偵らしい仕事をと、サンタさんにお願いして沙織は目を閉じた。



アーサー探偵事務所 初仕事 氷狼デリバリー 完



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