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氷狼デリバリー ⑳

「ついに俺達の初報酬だな。今日はパーッと宴会しようぜ」


「アポロは久しぶりにワックが食べたいでしゅ。仕事中メロンソーダが恋しかったでしゅ」


「じゃあ私は、夜ワックメニューを初体験したいッス!」


三人は大金が手に入ると思って、もう晩ご飯の事で頭が一杯だ。


しかし沙織だけは浮かない顔をしていた。


「う~ん。宴会はしようと思う。私達の初仕事が完了したんだからお祝いしたいしね。でも・・・私は30人程病院送りにしちゃったんだよ。逆に損害賠償請求されるかも・・・」


沙織は大家に確実に怒鳴られるだろうと思い、今から気が重い。


「まっまあそうかもな。それに関しては俺も一緒に怒られるから今からそんなに凹むなよ。オッちゃんの怒りの半分は俺が受け持つよ」


「何言ってるッスか二人共!忘れたんスか?私達はガチで殺されそうになったんスよ。それにアダムが沙織さんの車を寒冷地用に魔改造してなかったら、氷狼が高速道路で暴れて何十人と死者が出たかも知れないッス!その分多めに貰っても罰は当たらないッス。だから所長、強気でいくッスよ」


沙織は二人の言葉に心強さを覚えた。


それから沙織は受付で当主との面会をお願いすると、


青森支部から話を聞いていたようで、直ぐに予定を


調整し、沙織達が面会出来るようにしてくれた。


秘書と思われる女性に当主の部屋の扉の前まで案内される。


「当主、西九条様がお見えです」


「待ってたヨ。早く入ってくだサーイ!」


秘書はそれだけ聞くと、沙織達に頭を下げて戻っていく。


以前は軽くドアを開けたものだが、怒られると思うと身体が動かない。


それでも所長としての責任を果たすため、


動かない身体に鞭打ってドアノブを掴み、一気に開ける。


「あっあの大家さん。青森支部では皆を病院送りにしてすいませんでしたー!」


沙織はドアを開けた瞬間、頭をつむじが見えるくらいまで下げて謝った。


「ちょっちょっとサオリンどうしたネ?頭を上げて下さい」


大家がそう言っても沙織は頭を上げなかった。


しょうがなく大家はアダムやサヤカに頼んで沙織の頭を上げさせ、


何故謝っているのか事情を聞いた。


「・・・なるほどなるほど。サオリン、率直に言うと私達が怒る要素なんて一つもありまセーン。病院送り?よくやってくれましたハハハッ。これで自分達の修行不足を痛感したと思うヨ。この事が将来、彼等の命を救うことになるヨ。精霊と対峙することはこんなにも危険なんだと、準備はいくらしてもしたりないんだとネ。もし青森支部から文句言われたら私に言ってくだサーイ。今度は私自ら山田達も含めて病院送りにしてあげマース。豚汁の美味しい季節デース!ハッハッハッハッハッ!」


サヤカは大家の言葉に安堵すると共に、


山田から聞いた通り、大家はドSだなと思った。


横を見ると、強気でいきましょうよと言っていたサヤカが、


大家の弟子になっていたことを思い出したのか脚が震えている。


「山田さんは、非はこちらにあると言ってたんで多分そんな事はないと思います」


「当たり前デース。逆に無事だったのが山田達師範格数人だけということに私は怒ってマース。あっ話が逸れてるネ。本題に入るヨ。今回の報酬はこちらネ」


大家は机の下からアタッシェケースを取り出し机の上に置く。


パチンッ、パチンッとロックを外し、フタを開け、


ケースを180度回転させて沙織達に中身を見せる。


「今回の依頼“氷狼の移送”の報酬は1500万円ネ。受け取ってくだサーイ」


「「「いっせんごひゃくまーーーーーん!?」」」


アポロを除く三人が顔を見合わせ叫ぶ。


沙織は「貰いすぎです。受け取れません」と


大家に向けて両手をブンブンと振る。


「サオリン。落ち着いて下サーイこれは正当な報酬デース。あと私からのお詫びの印とアーサー探偵事務所の運転資金としてのお金デース」


どういう事だと沙織が首を捻っていると、サヤカが腑に落ちたように頷く。


「沙織さん今回の移送に火の護符があれば楽に移送が出来たッスよね?でも支部の人に聞いたッスけどあれ一枚5万円するそうッス。今回それを支部で山ほど使いました。普通に考えて火の護符だけで500万円以上。それと私達全員凍死しかけたことからも分かるように精霊の移送は危険ッス。危険手当を含めて一人につき100万円。後は宿泊代、車の修理代で100万円の計約1000万円が多分当主の言う正当な報酬ッス。お詫びっていうのは、多分私達をわざと凍死させかけたことッスね。今回の旅は私達に装備の大切さを教える為に、わざと火の護符を使わなかったとサヤカは考えるッス。その為に被った苦痛の慰謝料が300万円。運転資金って言うのは、私達が東九条家から装備を買うお金ッスね。これが200万円」


サヤカの指摘に大家はニヤリッと笑う。


「良く出来ました。サヤカその通りデース」


「えっでもそれじゃあ私達は火の護符を買っていないから、その経費500万は受け取れないし、運転資金の200万円なんて尚更受け取れません」


「大丈夫です受け取って下さい。本来なら火の護符代で500万かかるところを使わなかったのですから、丸々ポケットに入れて下さい。当然です。アーサー探偵事務所に頼んで安上がりになってますから。聞いてますよ。山田達五人の命を助けて頂いた上に、氷狼が支部まで来ないように遠くに追い払ってくれたと。それを考えれば1500万円など安すぎる。西九条さん、山田達の命を救って下さってありがとうございました」


大家はヘラヘラ笑ってる顔から真剣な顔に変り、


今度は大家が深々とアーサー探偵事務所の面々に頭を下げた。


「ちょっ止めて下さい。大家さん。当たり前の事したまでですから。こんなに貰う訳には・・・」


「西九条さん!駄目です!」


大家は頭を上げ、沙織を厳しい目で見ながら言う。


次に今度はサヤカを同様に厳しい目で見る。


「サヤカ、お前がしっかり西九条さんを見てるんだぞ!西九条さん、西九条さんがなさって下さった事は当たり前ではありません、大変な事をしたんですよ。東九条陰陽師師範格を五人も育てるのにどれだけお金と時間がかかるか分かりますか?それに加え、山田クラスを育てようと思うと運も必要になります。どんなに才能があろうと、死ぬときは死ぬのがこの業界ですから。西九条さんはそれをよくご存じのはずだ。しかし西九条さんにしてみたら、山田の力など微々たるものですから、その微々たる力を得るために山田がどんなに長く厳しい修行をしてきたか理解しづらいかもしれません。だからこんな大金を貰う訳にはいかないと思うかも知れません。しかしあなたにはもう部下がいる。サヤカという部下が。あなたはサヤカを守り、育てなければいけないのです。サヤカを一人前にするためには山田と同じように莫大なお金と時間が掛かります。西九条さんが、これまで通り安い報酬で請け負えば、そのツケは装備に回ってくる。貧弱な装備での悪霊退治で死ぬのは西九条さん、あなたではありません。サヤカです。断言しましょう。西九条さん、あなたのやり方ではサヤカに成人式を迎えさすことは出来ません」


大家の厳しい言葉に沙織は目を剥く。


特に自分のせいでサヤカに成人式を迎えさすことが出来ないという言葉にショックを受けた。


「だから受け取って下さい。これは正当な報酬です。そしてそのお金をどう使えばサヤカが死なずに済むのかを考えるのです。その一端は東九条家青森支部で見たはずです。それと東九条家は陰陽師が多く所属しているため人員に困りませんが、アーサー探偵事務所は、いつか人手が足りなくて誰かを雇わざるを得ない時がくるでしょう。その時のためにもお金を貯めておかないといけないのです。あとこれが一番問題かもしれません。安すぎる報酬は同業者の恨みを買う。同業者に呪いをかけられたと東九条家に駆け込んでくる者は少なくありません。この時も狙われるのは誰か分かりますね?」


沙織は両親を無くしてからツチグモを追って全国を転々としていた時、


両親の貯金があったため、衣食住に困らなかったので無償で悪霊等を祓っていた。


それでもその全員が沙織に大金を渡してきたので、沙織の口座に一財産貯まった経験がある。


相場に無頓着だった沙織は、大家の言葉を重く受け止める。


「はい、ありがとうございます大家さん。東九条家を見習って危険がないようにします。あと運転資金ですが・・・本当にいいんですか200万も」


大家が笑顔にもどり笑って言う。


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