氷狼デリバリー ⑲
「おいっサオリ・・・ン・・・」
部屋は窓から差し込む星と月明かりの乏しい光が照らしているだけで暗かった。
その部屋の中、布団の上で体育座りしている沙織がいた。
「なっ何やってんだよサオリン!まっまだ寝る時間には早えじゃねえかハハハッ・・・」
アダムは豆球から一番明るい状態に変える。
「私なんか起きてても皆の迷惑になるだけかなって思って電気消したんだけど寝れなくて・・・」
「じゃっじゃあ私達と今から話をするッス」
「そうだね。ああそうそうサヤカちゃん。サヤカちゃんが作ったビラ良いと思うよ。『ぼっちじゃないの。皆が私について来れないだけ。ホッホントなんだからね(汗)』だっけ。でもちょっと訂正して。『ぼっちだよ。私は皆を傷付けるから。ホッホントなんだからね(ガチ)』に」
サヤカは青ざめる。
「なっ何言ってるッスか沙織さん!あんなビラ、クソですよクソ!もうデータも何も残ってないッスから作れないッス。ハハッハハハッ・・・」
サヤカの乾いた笑いが部屋に響く。
「そう・・・残念だわ・・・」
沙織は興味無さそうに呟く。
アダムとサヤカは余りの沙織の落ち込みように、
話をするにもどう切り出して良いかわからず固まる。
そんな中、アポロが動く。
「サオリン、膝なんて抱いてないでアポロを抱くでしゅ」
アポロは強引に膝の前で組まれている沙織の手を外し、
膝の間に割って入り抱きつく
「サオリン。大丈夫でしゅ。サオリンにはアポロがいるでしゅ。一人じゃないでしゅよ。アポロは強くなりましゅから。サオリンがどうやっても傷付けられないくらいに。だから安心して欲しいでしゅ。それとサオリン我慢しないでいいでしゅ。陰陽師しゃん達を傷つけたサオリンが泣くのはおかしいと思ってるでしゅか?いいでしゅよ。アポロも一緒に泣きましゅから。思いっきり泣けばいいでしゅ」
アポロの沙織を思う優しい言葉を聞き、
沙織は目から大粒の涙を流す。
「ウ、ウェーーンありがとうアポロ~アーーーン。私、今まで一度だって人を傷付けたいって思ったことないのにグス、いつも体調を悪くさせたりしてしまうの。だから私、弱くなったの嬉しかったんだエグ、なのに何十人も病院送りにしちゃうなんて・・・もうどうしたらいいか分かんないの」
「グスン、アポロはサオリンの事が大好きでしゅ。だからサオリンの悩みはアポロの悩みでしゅ。アポロもミッチーから力の使い方勉強しましゅからグスン、いっ一緒に頑張るでしゅビィエ~~~~ン」
二人が抱き合って泣いてるのを見て、
アダムとサヤカも二人に抱きつく。
「サオリンごめんな。俺言い過ぎたよ。これから少しずつでも力を押さえられるように皆で頑張ろうぜ。サヤカーンはオッちゃんの所で修行するみたいだし、仕事の合間にちょくちょく行ってみようぜ。何かヒントがあるかもしれねえ」
「うん。グスン。そうだねアダム。大家さんに聞いてみよう。ありがとう」
「じゃあ沙織さん。私と一緒に頑張りませんか。一人じゃ寂しいと思ってたとこだったッス。それと沙織さんが今まで経験した事を聞かせて欲しいッス。沙織さんの経験は絶対私の命を救うと思うッスから」
「スンスンッありがとうサヤカちゃん。一緒に頑張ろう。そうだね私なんかの経験も役に立つよね。サヤカちゃんが危ない目にあわないように、私が知ってること全部教えるよ」
沙織は皆の気持ちに大いに泣いた。
そして強烈なストレスから解放された反動からかそのまま寝てしまった。
沙織が寝てしまったことに気付いた三人は、
沙織を横にして、その上にサヤカ用の掛け布団をかけ、
そして三人は沙織にくっついて寝た。
沙織が朝、目を覚ますと、
アポロが目の前で鼻提灯を作って気持ち良さそうに寝ていた。
横を見るとアダムが、反対側にはサヤカが静かに寝息を立てていた。
時刻は七時、まだ起こすのは早いかも知れないが、
沙織には起こす理由があった。
「おはようアポロ、起きてよ!」
「あっおはようでしゅサオリン」
撫でながらそういうと、目をこすりながら起きる。
「アダムおはよう!」
「う~ん、おはようサオリン。熱いコーヒーをブラックで入れてくれ」
「頼んであげるから起きてよ」
「サヤカちゃんおはよ」
「おはようございます所長。事件ですか?」
「ちっ違うわよサヤカちゃん・・・いえ事件よ!私のおなかが異常に減ってるの」
沙織の言葉にアダム、アポロ、サヤカの三人は顔を見合わせ笑顔になる。
「ヘヘッそりゃ大事件だ。じゃあ部屋に今すぐ四人前の料理を持ってきて貰わなきゃな」
「ご飯の後のデザートも忘れないで欲しいでしゅ」
「その後、温泉入りましょう!昨日みんな疲れて寝ちゃったッスからね」
沙織達はいつも通りの賑やかな朝食を楽しんだ。
昼の三時、お日様が少し沈みかけた頃、
沙織達は東九条陰陽道総本家に到着した。
そう私達は氷狼輸送の報酬を貰いに来たのだ。