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アダムとアポロとサオリンと ⑥

「ほらよアダム」


さっきまで磨いていたグラスの縁に塩をまぶし、乳白色のきれいなカクテルが満たされたグラスをアダムの前にサーブする。


「待ってましたソルティードッグ! ゴクッ、プアッなっ何だこれ! しょっぱい水じゃねえか! マハルお前ふざけんじゃねえ」


「あっ?お前の方こそふざけんじゃねえ。お前は今から西九条さんの友達を探すんだろが!なに酒を飲もうとしてんだ馬鹿野郎。お前は確かに優秀だ。だが調子にのってんじゃねえよ。真面目にやれ。即興でソルティードッグに似せたミネラルウォーターを作って気分だけでも盛り上げてやろうとした俺に感謝しろ」


「分かったよ。ありがとよマハル。でもそれじゃこのグラスの縁の塩はいらなかったなあ……。で話は戻るが、俺達は情報が欲しくて来たんだ。サオリンがちょっと前に出会って一緒に旅をしている子供のトラの霊を探してんだ。知らねえか?」


マハルは手を組み長い瞬きをする。


「ああ知っている。今さっき情報が入った。『お姉しゃーん』って泣いているトラがいるってな」


「本当か!じゃあ教えてくれ」


「100万ルピー。日本円で142万円だ」


マハルはアダムを冷徹な目で見据え言う。一銭たりとも値切らせない。そんな強い決意が見える。


「たっ高すぎるだろが!」


「トラの情報料それだけだと五万ルピーだ。残りの95万ルピーはお前が滞納している店の修理代金だ」


アダムは、ぐぬぬと唸る。


「西九条さん、巻き込んで申し訳ありません。しかしこれはビジネスなんです。私もこれでメシを食っているのでまけることは出来ません。払えますか?」


「払います!」


マハルは沙織のノータイムの回答に目を剥く。


「でも、今そんな大金を持ってないから降ろして来ないと・・・日本の銀行の支店とかあるかな」


沙織はバッグからガイドブックを出して調べる。


マハルは、「このページじゃないし、ここでもないし、ここかな?」と少し前に出会っただけのトラのために一生懸命調べている沙織を見て嬉しそうに目を細める。


「分かりました西九条さん。私は今とっても気分が良い。西九条さんさえ宜しければ、手に握っている呪物、それで手を打ちましょう。どうですか?」


「えっこれですか?これは知人から貰った大事な物で・・・」


沙織は一瞬迷ったが、チビトラが今も泣いていることや、早くしないと犯罪に巻き込まれるかもしれないと思うと、天秤にかけるようなことではないとすぐさま決断し、マハルに御守を差し出す。


「西九条さん。あなたは本当に良い人だ。知人があなたを思って渡してくれた悪霊を祓う呪物を大切にしたいという思いと、トラを心配する思いが詰まったこの呪物、確かに受取りました」


マハルはメモにペンを走らせ千切る。


「西九条さんお受け取り下さい」


「ありがとうございますマハルさん。さあアダム、早くチビトラ君を探しに行こう!」


「おう。でもサオリン先に店を出て待っててくれ。すぐに俺も出るからよ。この店は入るのは大変だが出るのは簡単だ。そこにいるゲートキーパーに話しかければ出れるからよ」


「うん分かった。出来るだけ早くね」


沙織がゲートキーパーによって外に出たのを確認するとアダムはマハルに語りかける。


「マハル、お前はサオリンが霊を捕まえて売るバイヤーだと疑わなかったな。何でだ?」


「アダム、お前は俺がここに何年立ってると思ってるんだ?疑わしい奴、やましい事がある奴なんざ目をみればすぐに分かる」


「ヘヘッ流石だぜ。お前がそういうなら間違いねえ。本当にトラがこっちに逃げてくれて運が良かったぜ」


「何だ?お前、西九条さんを疑っていたのか?」


「いや、そうじゃねえよ。万が一だ、万が一サオリンがバイヤーだったなら俺はレディーを・・・」


「ハッそれでアルコールか。安心しろ、俺も万が一の時の為に西九条さんの呪物を取り上げたが、もし悪事を働こうとするなら彼女はお前が手を汚さずとも破滅さ。この呪物を持ってようが関係なくな。でもそんな心配なんてする必要ねえ。西九条さんは良い人だよ」


アダムは、言ってる意味が良く分からなかったが、それは今の自分に関係無いことだと頭の隅に追いやった。そしてソルティードッグに似せた水を一気に飲み干し言う。


「ご馳走さん美味かったぜ。マハル、今までありがとな。世話になったお前に心置きなく別れを言うことが出来て良かったよ。その呪物も100万の価値もねえのに。お前も良い奴だぜ」


マハルは、淡々とグラスを磨きながらアダムの話を聞く。


「俺はあの子に付いて日本に行く。それじゃあなマハル。元気でな」


出口に向かうアダムに今度はマハルが語りかける。


「おいアダム、西九条さんをしっかり守ってやれ。それからまた飲みに来い」


マハルは新しいグラスを取り、また磨き始める。


「ああ、またいつかお前の美味いソルティードッグを飲みに来るぜ」


アダムは外に出る前に、思い出が詰まったこの酒場の空気を胸一杯吸い込んだ。

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