氷狼デリバリー ⑭
やばい。考えを見透かされていると氷狼は思った。
あいつはもう一人が帰ってくるまで時間稼ぎをするつもりだ。
どうする?あいつの言っていたスモークグレネードとはなんだ?
毒か?毒だとしたら致死毒か?麻痺毒か?いやいや落ち着け、
あいつ自身が中にいるからそんなはずはない。
変テコな形をしているがあいつは犬だ。毒に耐性がある犬なんて聞いたことがない。
これは煙幕だ。ただの時間稼ぎだ。と氷狼は答えに辿り着く。
だとしても飛び込むのは危険だ。視界が効かないとなるとあの二人の人間も脅威になる。
ここは氷柱攻撃しかない。
さっきは無効化されたが今はあいつが作った煙幕でこちらの氷柱も見えないはず、
打ち落とすのは不可能だ。氷狼は決断すると、自分の周りに二十個の氷柱を作り、
容赦なく発射した。
ドドドドドドドドドドドドドッ・・・・!
「ぎゃああーーー」
「ぐはあーーー」
「ゴハアッ」
煙の中から悲鳴が聞こえる。
氷狼は笑みを浮かべそうになるが、氷狼の野生の本能がそうさせなかった。
おかしい。こんなに簡単に仕留められるはずがない。
それなら煙幕などしないほうが良かったではないか。
考えろ何かある。そう思い氷狼は思索にふける。
すると一つのことを思い出す。
周囲を見渡し、氷狼は確信する。
あいつ等が乗ってきた乗物が煙幕の中に一台ある!
あいつ等はそれに乗り込んで、ここに来るまでの道中同様、透明な壁で攻撃を防いだんだ。
よく思い出せばその時と同じ音がしていた。
今度こそ氷狼は笑みを浮かべる。クククッと笑い声さえ漏れ出る。
じゃあ上は無防備じゃないか。
氷狼は氷柱の準備をしながら、すぐ側のほぼ垂直の岩場を登る。
そして煙幕の中心に向かってジャンプし、全ての氷柱を発射する。
ドドドドドドドドドドドドドッ・・・・!!
今度は悲鳴すら聞こえない。
やった狩った。
氷狼はそのまま変テコな犬と陰陽師を喰い散らかしてやろうと、
ヨダレを垂らしながら落下していく。
その時、煙が晴れる。
「はい、いらっしゃい」
ズドンッ
氷狼は何が起きたのか分からず、雪原に何度も体を打ち付けながら倒れる。
「じゃあ高チー捕獲頼むぜ」
「了解」
高橋の炎縄の術により、氷狼はグルグル巻きにされ、動く事も、
そして山のオーラを吸収して回復する事も出来なくなっている。
氷狼は目だけをアダムに向けて殺気を飛ばす。
「おうおう元気そうだな!煙幕があったからショットガンで範囲攻撃をしようとしたんだが、ちょうど晴れたところにお前が突っ込んできたから、うっかり全部当てちまって心配してたんだが良かったぜ」
「なんで生きているって面だな?もう一度言ってやる。山さん達を舐めてんじゃねえよ」
その言葉を受け、氷狼は取るに足らない雑魚と思っている人間達を見る。
そして歯が砕けるのではないかと言うぐらい歯ぎしりをする。氷狼は思い出した。
あいつ等を吹っ飛ばしたときに、一人が透明な板と同じような板を使って、
もう一人の人間を守ったことを。
そうだあいつが今持っているあの板で防御したんだ。
あいつが上からの氷柱攻撃を防いだんだ。
「自分は相手の裏をかいた。だから相手は死んでいて当然なんだってか。そもそもそれが間違っている。俺はお前より強え。お前は俺を倒す事に固執していたが、尻尾まいて逃げるのが正解だったんだ。お前は俺ともう一人の人間が追いかけてきたら厄介だと思ってここで俺を倒そうと思ってたかもしれないが、逆だよ、俺達はお前が本気で雪山の中を逃げれば諦めざるをえなかったんだよ。お前は生き残る可能性が最も高い、逃げるという最善の選択肢を捨てたんだ。お前はこの山、最強の精霊なんだってな。だから一対一なら勝てるはず。そのプライドがそんな馬鹿な選択をさせたんだよ。命がかかっている時に何考えてんだ。お前は密林の王者でも何でもねえだろ。捨てるべきはそのくだらないプライドだったんだよ。そのくだらないプライドが凄腕の陰陽師達がいることを忘れさせた。そんな焦っている馬鹿狼なんて罠にかけるなんて簡単だろ」
炎神の召喚術のおかげで、今は寒さに冷気耐性があるはずなのに、陰陽師達は背筋が凍る思いをする。
右手が千切れかける大怪我を負いながら、そこまで考えていたとは。
アダムの強さは強大なオーラを持つ精霊という単純なものではなく、
恐いのはその戦闘を積み重ねて得た知識、修羅場をくぐり抜けてきた経験、
そして今知った我々の技をも利用する対応力だ。
アダムが仲間で良かったと矢野と高橋は目を合わせ、無言で頷く。
そこに沙織が帰ってくる。