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氷狼デリバリー ⑩


スノーモービルは大きな音を山間に響かせながら山道を登っていく。


道中は、先に出発したサポートメンバーが、偵察と共に道をスノーモービルでならしていたようで、スノーモービルが雪に埋まることもなくスムーズに進んだ。


しかし、陰陽師達の予想していた時間よりも早く氷狼の覚醒が始まった。


「クソッまだ40分しか経ってないのに、氷狼が覚醒した。チクショウやっぱり封印地まで持たなかったか」


「体も大きくなってる。御神木で組まれた箱が到着するまでに壊れるぞ。弱体化の術ももう破られたと思え」


「全員氷柱攻撃に気を付けろ」


「レベル4―Cに移行。箱が壊れ次第、炎縄での捕縛を試みる。矢野、岸、高橋、三方向から押さえこむ準備しておけ」


全員に緊張が走る。


東九条家チームは速やかに術を行使できる位置に向かい準備をする。


箱が壊れるその時まで少しでも距離を稼ごうと、エンジンが焼き付くのではないかというぐらいの轟音を鳴り響かせて封印地に向かう。


轟音にミシ、ミシと言う嫌な音が混じるようになってから5分後、遂に箱が限界に達する。


山田はチームを一時停止させ、捕縛の準備をさせる。そして一分後箱は、内側から爆ぜるように粉々になる。


「今だ!」


三人が同時に炎縄の術を行使し、氷狼を捕縛にかかる。三人の手から炎の縄が伸び、氷狼を捕らえようとする。


氷狼もそうはさせせじと、何本もの太い氷柱を放つ。


シールドに大口径の銃でもぶっ放されたかのように大きな穴が開く。


しかしシールドを抜くまではいかず、氷狼を囲む陰陽師達に当たる直前で止まる。


氷狼を載せていた平野のスノーモービルシールドは被害が一番大きく、もし二倍の厚さにしておかなければ確実に平野は氷柱に貫かれて死んでいただろう。いや追撃がされていたら確実にそうなっていた。


しかし陰陽師達が氷柱を避けながら放った炎縄は、氷狼を首、前脚、後脚の3カ所同時に締め上げ、炎縄の術の効果であるオーラ攻撃の構築阻害により、氷狼は追撃をすることが出来ず、苦しそうに呻く。


「氷狼の拘束完了」


岸が事態の収束を報告する。それを受け山田がチームを先に進ませようとすると矢野が、


「いや、リーダー待ってくれ。俺の乗るスノーモービルが氷狼の攻撃で故障!後ろのサポートメンバーを呼んでくれ。乗り換えたい」と叫ぶ。


「了解」


すぐに後ろに待機していたスノーモービル一台が矢野のもとに到着する。矢野は炎縄を維持したまま、スノーモービルを降り、乗り換えようとする。


アダムが先程提案したアクリル板につけた足場が役に立つ。


矢野はそれに足を掛けながら登って行く。


「早速アダムさんのアイデアが役に立ちましたな」


「ヘヘヘッ山さんが俺なんかのアイデアを、時間がねえのに聞いてくれたからじゃねえか。凄えのは山さ危ねえ!!」


矢野がアクリル板を跨ごうとする一番不安定な瞬間を狙い、氷狼は矢野が首に巻き付けている炎縄を、渾身の力を振り絞って振る。バランスを失った矢野は宙を舞う。そして氷狼の牙に吸い込まれそうになるその瞬間。


口縛鎖くちばくさ


沙織が、拘束の術を氷狼にかける。氷狼は隊員を嚙み殺す事が出来ず、怒りの形相で沙織を睨むが微動だに出来ない。


「矢野!早く乗れ!炎縄をもう一度だ」


雪の上に落下し、顔を青ざめさせている矢野に向かって山田が怒鳴る。九死に一生を得た矢野隊員は、我に返り、急いでスノーモービルに乗り、炎縄を再び行使する。


「西九条さん。矢野を助けて頂きありがとうございます。あと、宜しければ、そのまま術の行使をお願い出来ますか?」


「はい。このまま封印地まで行きましょう!」


一行は再びアクセル全開で走る。


「なあサオリン。言っちゃ悪いが、この術もっと早く使えば良かったんじゃねえか?」


アダムが沙織に、不満を込めて質問する。


「ううん、そんな簡単じゃ無いの。術には相性がある。


もし私が調子にのってこの術を使って、隊員さん達の術を打ち消してしまったら大変なことになる。


今、炎縄の術と縛鎖の術が打ち消し合わない関係だったことはラッキーなんだよ。


それにアダムも見てたように東九条家はスノーモービルが動かなくなった時のことまで考えてるのよ。


出しゃばるのは良くないよ」


「そうなんだな。俺も勉強しなくちゃいけねえな」


「でも私も余計な事しちゃったかな?アダムもそれ使うつもりだったんでしょ?」


沙織がアダムを見てニコッと笑う。


「俺のはサオリンのと違って上品なもんじゃねえから助かったよ」


アダムは自身のスキルで作成したマシンガンを消す。


それから十分ほど雪道を走ると山田が停止のサインを出す。


「到着。封印地だ。氷狼をスノーモービルごと五芒星陣の中心に置いて、各自星の頂点に移動しろ。特定精霊術式 氷狼縛鎖陣ひょうろうばくさじんをすぐに行使するぞ」


高橋、矢野、岸がスノーモービルから飛び降りると同時に、三人が乗っていたスノーモービルは退避する。山田と氷狼を牽引していた平野は、他の隊員と同じように炎縄の術を行使、さらに氷狼の動きを拘束する。


隊員五人は氷狼が中心から動かないように、各々が調整しあって五芒星陣の星の頂点に移動しようとする。


しかし、こうしている間も氷狼の体は徐々に大きくなっており、口付近を抑えている沙織の縛鎖はともかく、徐々に大きくなっている身体を、長時間抑えている矢野、高橋、岸の炎縄の術は限界に近い。


弱体化の術はもう完全に解けている。


時間を掛ければかけるほど氷狼が有利になっていく。


隊員達の手は、巻き付けている炎縄が、氷狼の暴力的な力により、手に食い込み血が滴る。


それでもなんとか全員が持ち場に移動出来た。


「よし、持ち場に着いたな。西九条さんありがとうございました。術を解いて下さい。皆いくぞ」


東九条の五人は術式を唱えていく。


氷狼もヤバイと分かるのか渾身の力を振り絞って暴れる。しかし五人が力を合わせた大型縛鎖陣は、完成する前でも氷狼の動きを拘束する程の大きな力を持っているようで、炎縄と合わせた拘束術に氷狼は身動きが出来ない。


術式を構築し始めて三分が経過した時、各々の星の頂点から、鎖で繋がれた首輪が出現し、隊員達がそれを手に取る。山田が合図を送る。


「よし、仕上げだ。準備はいいか!一斉に首に首輪を投げるぞ」


「「「「「氷狼縛鎖陣」」」」」


隊員達が投げた首輪は全て氷狼の首に当たり。そしてそれら氷狼に投げた五つの首輪は融合し、一つの大きな首輪となり、その首輪が五芒星陣の中心から出てきたさらに太い鎖で結ばれた。


その後、鎖は地面にジャラジャラと吸い込まれ、氷狼は頭を陣の真ん中で押さえつけられているような状態になった。


氷狼はなんとか逃げだそうとするが首輪はビクともしない。


「良くやったみんな」


山田は皆に感謝する。


「やったね山田さん、高橋さん、矢野さん、平野さん、岸さんおめでとうございます」


「一時はどうなることかと思ったが、無事成功だな」


沙織とアダムは東九条家青森支部の全員で勝ち取った成功を祝う。


「ありがとうございます。西九条さん、アダムさん。・・・それでは西九条さん。アダムさんと支部にお戻り下さい。ここまで本当にありがとうございました」


二人は不安が的中したと嫌な顔をする。


「あの・・・皆さんはどうするんですか?」


沙織が聞く。


「私達は今から、氷狼と闘います」


「何でそんな事する必要があるんですか?早く皆で帰れば良いじゃないですか!」


沙織が苛立ちを隠さず怒鳴る。


「西九条さん。この陣は、術式を完成させた五人が氷狼に恐怖を与える事で完成します。


そもそもこの陣は悪しき精霊ではない氷狼が、人間の生活領域に入ってこないようにする術です。


だからこの鎖は先程出発した支部くらいまでは伸びます。


でもそれでは今までと変りません。恐怖を与えることで、


また以前のように支部付近まで氷狼が来ても、術を行使した私達を見れば、


氷狼はこの地まで鎖に引っ張られて戻ってきます。


この陣が真に完成した回数は少ないです。ハハハッ東九条家の特徴そのままですよ。


守護結界などの技術は長けるが、退魔の力は弱い。


今回も失敗するかも知れませんが、私達はやらなきゃいかんのです」


「じゃあ私達もお手伝いします」


「でも契約ではここまでのはずですよ」


「お手伝いさせて下さい」


「いや、しかし西九条さんは弱っていると当主から聞いております。西九条さんはこの国の希望です。万が一にも失う訳には行きません。例え私達五人がここで死んでもです」


山田の言葉に全員が頷く。沙織は、出発の時に感じた違和感がハッキリと分かった。


職員が涙を流していたのは感動していただけじゃない、五人揃って帰ってくるのは無理だろう、


いや全員戻って来ることも出来ないかもしれないと知っていたからだ。


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