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氷狼デリバリー ⑨

「それでは皆さん、出発まであと十分程ですのでその辺りで待機していて下さい。私は最終確認をリーダー達としてきますので」


山田が沙織達から離れた後、沙織達は周りを見渡す。


出発の時間が目前にせまり、陰陽師、職員共に慌ただしく動いている。


すぐ横では、整備士が先程の改造が始まっている。


その隣ではサポートドライバーが火の護符や救急バッグの確認をしている。ただその中身は普通ではない。


輸血パックや痛み止めの注射と思われる専門的な物で溢れている。


驚いた事に荷物にはテントすらある。天候が崩れないと会議で言っていたが、氷狼は氷の精霊であることを考えると、急激な天候変化を起こし、今日は帰って来れないことも考えているかもしれない。


さらに情報職員と思われる女性がパソコンを使い、GPSがちゃんと作動しているか確認している。


その中でも一番目をひくのが、陰陽師達が氷狼に力を抑えるための結界に最期の力を込めている場所だ。


凍える様な気温にも関わらず、顔から汗が噴き出している。


術を唱え終えると10人程の陰陽師がバタバタと雪の上に倒れ込んだ。おそらく倒れたのは一番隊であろう。結界に全力を込めるように命じられていた隊だ。彼等は自分の役割をやり遂げたのだ。


その彼等を他の隊員が迅速に担架で運んでいく。皆がやるべき事を完璧にこなす。改めて東九条家に驚愕するとともに、それが沙織に不安としてのし掛かってきた。そして山田が皆を集め挨拶をする。


「諸君、今日まで準備ご苦労。私が本家からこの依頼を受けて、不満を持っている者がいることは知っている。それでも自分の気持ちを押し殺し、今日この日まで命を賭けて頑張ってくれたことに感謝する。


今、氷狼の結界に己の全ての力を込め、医務室で寝ている者もいる。お前達の気合いが力になる。ありがとう。


運輸技術者諸君、スノーモービルの改造に尽力を尽くしてくれた者。氷狼による地形変化にも対応出来るように頑張ってくれた。その性能を実証するために想像を絶する悪路を走破する過程で何人も怪我人が出ていると聞いている。お前達のその勇気は氷狼に立ち向かう力となる。ありがとう。


通信技術部、お前達は試作段階まで来ていたフィルム式の火の護符を早く完成させるため、氷狼から吹き出る冷気による通信機器の故障を防ぐため、築地の使われなくなった冷凍倉庫で大型扇風機を回し、疑似氷狼の冷気を作り出してまで実験してくれた。それにより、無線やGPSが低温のために使用不可能にならない偉業を達成した。君たちの不屈の闘志が諦めない力になる。ありがとう。


事務職員達、金を湯水のように使う我々を支えてくれた。全ての作業のベースに君たちの仕事がある。やりくりした甲斐があったと証明するため我々は何度でも立ち上がる。ありがとう。


給仕職員達、朝、昼、晩だけでなく夜食まで準備してくれた。疲れている者も温かい食事を食べているその時だけは笑顔になっていた。君たちの味はまたここに帰って来たいと思わせる素晴らしい味だった。ありがとう。でも帰って来た時は豚汁以外を頼むぞ」


山田はニッコリと笑顔をみせる。支部のみんなもニッコリする。しかしそれは一瞬、山田の顔が引き締まる。


「お前達全員の血の滲むような努力を絶対無駄にはしない。我々の後ろには誰もいない。我々は絶対に抜かれてはならない。薄氷を踏むような困難なことであっても我々はやり遂げなければならないのだ。我々は必ず氷狼を封印し戻ってくる!待っていてくれ」


東九条家の者が地鳴りのような歓声と共に全員涙を流している。


山田の挨拶は沙織も全ての人の労をねぎらう素晴らしいものだった。沙織すら感動しているのだから、今まで辛いことを一緒に乗り越えてきた東九条家の者ならなおさらだ。しかし・・・


「サオリン。大丈夫か?」


沙織が少し硬くなってるのを見抜き、アダムが声を掛ける。


「うん。大丈夫。少し緊張してるだけだから」


「そうだな。アーサー探偵事務所の初仕事だからな。所長としては緊張するのが当たり前だな」


「アダムは緊張してないの?裏の所長でしょ?」


「俺はワクワクしてるぜ!こんな凄え東九条家が、褒めたたえて止まないサオリンと一緒に仕事ができるんだからな」


「もう!私が弱くなってるって知ってるじゃない。今はアダムより弱いと思うよ」


「そのために俺が一緒に行くんだろ。任せろよ。大丈夫だよ。俺もサオリンと気持ちは一緒だ。山さんが何を考えていようとここに全員で帰ってくる。そうだろ?」


アダムは拳を沙織に向けて突き出す。沙織の不安を見事に見抜き、俺に任せろというアダムを心強く思い、自然と笑顔が零れ出る。


「任せたよ。裏の所長」


沙織も拳を突き出し、アダムの拳と合わせる。


「私もいいですか?」


挨拶を終え、氷狼移送メンバー達と共に帰って来た山田が、それを見て拳を突き出してくる。他の4人もそれに合流し7人全員で拳を合わせる。沙織が全員の顔を見回し音頭をとる。


「全員無事に帰ってくるぞー!」


「「「「「「オー!」」」」」」


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