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氷狼デリバリー ⑧

山田はアポロを撫でてデレたあと、アポロを沙織に手渡し、会議室に置かれているモニターの前に行く。


「それでは予定通りここからはスノーモービルで封印地まで向かいます。モニターを使って氷狼を移送する隊列や各自が乗るスノーモービルを指示しますので、何か疑問点などありましたらすぐに言って下さい」


沙織は緊張しながら頷く。山田はパソコンを操作し、画面が隊列を示すものに切り替える。


「まず隊列から説明します。今回の作戦に参加するスノーモービルは全部で十台です。そして私がこの先頭のスノーモービルに乗って先導します。私のすぐ後ろに西九条さんには座ってもらいます。西九条さんは私と一緒に前方から何か危険が迫っていないか監視をお願いします」


「わかりました。宜しくお願いします」


「アダムさんは、西九条さんのさらに後ろに座ってもらいます。ということで私のスノーモービルには三人が乗ることになります。平野が私のすぐ後ろで、荷台に氷狼を載せたスノーモービルを運転しますので、アダムさんは前から氷狼の監視をお願いします」


「了解だぜ山さん。あいつが妙な動きをしようとしたら直ぐ知らせるよ。安心して先導してくれ」


「平野、一番危険な役回りだが頑張ってくれ」


「こんな事を今言うべきじゃないのは分っているが言わせてくれ。西九条さん達とお前達がサポートしてくれるんだ。もし何かあっても悔いはない。それだけは覚えておいてくれ」


平野は微笑を浮かべて山田に答える。山田は平野をじっと見つめ、一つ頷く。


「次に氷狼の右側を走るスノーモービルに乗るのが矢野、左側が岸、氷狼の後ろは高橋。お前達のスノーモービルは予定通りサポートメンバーが運転する。氷狼に変化が起きた時は連携して対応するように」


「「「おう」」」


「あと、不測の事態でスノーモービルが壊れた時のために、五台のスノーモービルが私達の百メートル後ろから封印地まで付いてきます。以上です。各自何か質問はありますか」


東九条家の誰も手を挙げなかった。沙織はそれもそうだろうと思った。今の説明は確実にアダムと沙織のために行ったものだ。東九条家は一月近くかけて緻密に作戦を積み上げてきたのだ。昨日も氷狼の実物を見たリーダー達と夜遅くまでトラブルが起こった時の対処方法をずっと考えていたはずだ。沙織はそう思いながら、沙織のリアクションを待っているだろう山田に小さく頷いた。


「質問がないようなので会議を終了します。それではこれから出発まで各自準備をするように。各チームリーダー達は最終確認を怠るな」


「「「おう」」」


「沙織さん達は、私について来て下さい。少し説明する事があります」


山田と一緒に外に出ると、ほぼ全ての陰陽師や職員達が出発の為の準備をしていた。ピリピリとした雰囲気が伝わってくる。そんな中を少し歩くとスノーモービルが見えた。


しかし沙織達はそれを見て戸惑う。想像していたものと大きく異なっていたからだ。


一般に我々が思い描くスノーモービルの周囲に、厚さが一センチもあるアクリル板が取り付けられていたからだ。さらに氷狼を載せる荷台をつけたスノーモービルの後方には、倍の厚さ二センチのアクリル板が取り付けられていた。


「これが俺達の乗るスノーモービルか!何か凄えな。改造しまくってるじゃねえか」


「そうなんですよアダムさん。凄いでしょ。一番目につくのはこのアクリル板ですかね。これは氷狼の氷柱攻撃を防ぐために付けているんですよ。移送中に氷狼が覚醒して攻撃されると、スノーモービルの上という不安定な場所に加え、氷狼を置いて逃げる事も出来ないですから、どんなに危険か言うまでもありません。だから少なくとも相手の初手を防ぐこのシールドが必要なんです」


沙織達はウンウンと山田の説明に頷く。しかし・・・


「皆さんのその顔、気付いていますね。私が皆さんに説明したいこととはそうです、このスノーモービルの乗り方です。見てて下さい」


そう言うと山田は右側面のアクリル板の上部を掴み、両足でジャンプすると同時に両腕を使って体を引き上げる。


次に左脚をアクリル板で囲まれた内側に移動させ、ちょうどアクリル板を跨ぐような格好になる。そして最後に右脚も内側に移動させ、座席の上に立った。


「はい。これがこのスノーモービルの乗り方です。ぶっちゃけて言えば、とにかくどんなやり方でもいいので乗って下さい。降りる時は乗るときよりも簡単ですよ、座席分の高さがありますからね」


山田はサッとアクリル板を乗り越えて降りる。


「以上で私から説明する事は終わりです。何か質問等ありますか?」


アダムが腕を組んで少し考え、発言する。


「山さん、俺はサオリンの背中に掴まって乗り降りしようと思ってるから特に問題ねえんだが、もし万が一、一人で乗り込むってことになったら俺にはあの高さはちょっと厳しいぜ。なんとかならねえか?」


山田は、その意見を受け、整備士に声を掛ける。アダムの提案に対する解決策はないかと相談する。


「それでしたら山田支部長。アクリル板に強力接着剤を使って3×5センチ幅の板を付けるのはいかかでしょう。そうすればボルダリングをする要領で乗り降りすることが可能になるかと思います。その方法でしたらこのアクリルシールドを作った時の余った部材がありますので切断に五分、取り付けに五分の十分で作業が完了します」


「どうですかアダムさん?」


「ありがとよ整備士の兄ちゃん。それで頼むよ」


「ではその意見を採用する。出発まであと二十分ある。手の空いている者を支部長命令で使ってもいいから全てのスノーモービルに取り付けるように」


整備士は了解の意をお辞儀で示し、他の整備士に伝え素早く作業に取り掛かる。


「すいません。出発前の忙しい時に仕事を増やしてしまって」


「いえいえ西九条さん。謝るのはこちらのほうですよ。封印されて本来の力が出せないとは言え、氷狼の移送は命がけの任務です。それなのに出発直前になってお伝えしてすみません。さっきの会議でも言っていたように氷狼の封印は最後までもつか分かりません。アダムさんのためにした事が結局私達のためになることも十分考えられます。ありがとうございました」


山田は深々と頭を下げる。


「ハハハッホント凄えな東九条家は。良いと思う意見はすぐ取り入れちまう。サヤカーン、気合い入れて学べよ」

「はいッス。本当に感動するッス。早く色んな事学びたいッス」


「本当に凄いね。山田さんみたいな所長になりたい」


「ねえねえサヤカーンお願いがありましゅ。山しゃんに作って貰ってるりんごパイの作り方も教わって欲しいでしゅよ~。さっきから良い匂いがしてヨダレが止まらないでしゅ。絶対美味しいでしゅ!」


「う~ん、それは難しいですね。東九条家青森支部門外不出の最大の秘密ですからね。いくらアポロちゃんの頼みでもそれは・・・」


「そんな~アポロはりんごパイを家でも食べれたら、山しゃん達の事思いだして幸せな気持ちになれると思いましゅたのに~」


アポロは山田の脚に抱きついてウルウルした瞳を山田に投げかける。


「良い子!アポロちゃんは良い子!意地悪してごめんよアポロちゅわ~ん。りんごパイに秘密なんてないでちゅよ~。サヤカさんにレシピを教えるように支部長命令で伝えるので安心してくだちゃいね~」


ついに山田の猫好きが爆発する。アポロを抱っこして頬ずりする。


アポロも嬉しいのか喉をゴロゴロと鳴らしながら山田の顔をベロベロと舐める。


沙織達はそれを見て笑う。ずっと続いていた緊張状態がほぐれる。これも山田の作戦?かもしれないと思うと心底凄いと沙織はさらに尊敬した。


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