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氷狼デリバリー ②

二人はギャーギャーと言い争いを続けている間、サヤカはアポロを温め続ける。


「アポロ大丈夫?お手々出して。サヤカーンが握って温めてあげるッスよ!パネエ!マジ冷てえ!ちょっと二人ともストップ!」


サヤカがアポロの手を温めているのを見て、二人はしょうもない言い争いを即座にやめ、サヤカの言葉に耳を傾ける。


「もう一度車を止めてトランクに置いてある予備のコーヒーとスープをとってこようよ。もうほとんどないッスよ。あと毛布も。車内の気温がありえないくらい下がってきてるし、このままじゃあ私達もヤバいッス。2時間なんて無理ッス。毛布で氷狼のケージを覆ってしまえば、氷狼から吹き出す冷気を押さえられるんじゃないッスか?」


二人はサヤカの提案に頷く。


「新人のくせに中々良い案出すじゃねえか」


「そりゃ数時間の差ッスからね先輩」


「ヘッ口の減らねえ後輩だぜ。じゃあ今から作戦を言うぞ。サヤカーン、お前は残りのスープをアポロに飲ませろ。それから停車次第、アポロをサオリンに預けて、お前が荷物を取りに行け!サオリンはエンジンが止まらないようにアクセル踏んで噴かし続けろよ!俺は氷狼を見張る。いいな!」


「了解。次に止まれるところがあったらすぐに止まるからね準備してね」


沙織が路肩に車をとめる。サヤカがシートベルト着脱ボタンを押そうとするが、押し込めない。壊れているのでは無い。凍っていて動かないのだ。


「すまねえサオリン。コーヒーぶっ掛けるぜ」


熱々のホットコーヒーをボタンにかけるとようやく押すことが出来た。サヤカが直ぐにシートベルトを外し、ドアを開けようとするとアダムが呼び止める。


それからアダムは沙織の着脱ボタンも同じようにして外す。


「サヤカーン、作戦変更だ。俺がサオリンの代わりに下に潜って今からエンジンを吹かす役目をする。サオリンとサヤカーンは一緒にトランクに荷物を取りに行け。このボタンが凍ってるって事は、トランクも多分凍って開かねえ。サオリンが全力でトランクを開けつつ、サヤカーンがこの残り少ないコーヒーをトランクの隙間に流し込んで氷を溶かす。いいか勝負は一回だぞ!これで開かなかったらこの依頼は失敗だ。俺の火炎放射器を当てにすんじゃねえぞ。俺のオーラで氷狼を刺激したら何が起こるか分からねえ。最悪この高速道路も凍っちまってスピンする車が続出して死亡事故が起こるだろうぜ。気合い入れろよ!」


アダムの言葉に、二人は息を飲む。アダムがアクセルを吹かす役目を変ると、二人は息を合わせて、ドアに肩からぶつかる。バリバリバリバリという氷の割れる音を響かせながらドアを押し開け、トランクに向かう。沙織が力一杯トランクを引き上げようとするが、やはり開かない、動かない。


サヤカは沙織がトランクを開けようと力を入れている最中、じっと隙間を見て、聞き耳を立て、凍り付いた箇所を見極める。ミシミシと氷が砕ける音と目視で得た情報を元に、残り少ないコーヒーを効率よく隙間に流し込む。


バリッという大きな音を立てトランクが一気に開く。二人は水筒や毛布等の防寒に必要な道具を急いで車内に持って入る。沙織は流れるような動きでアダムとアクセルを吹かすのを交代するやいなや、直ぐに車を出す。サヤカは持ってきたスープをコップに移し、アポロに少しずつ飲ましていく。


その間アダムは、マフラーで口元を隠し、持ってきた毛布でケージを何重にも覆う。戻ってきたアダムは体が上手く動かないようで、サヤカはすぐにアダムにもスープを渡す。ガタガタと震える手でゆっくりとスープを飲む。


「すっすまねえなサッサヤカーン・・・ズズッヤッヤベエ・・。ぜっ絶対に後ろに行くな。じょっ冗談抜きでしっ死ぬ」


アポロがスープを飲み終えるのを確認すると、サヤカは沙織のダウンコートのチャックを降ろし直ぐにアポロを入れ、チャックを上げる。それが終わるとサヤカもチャックを下げて、アダムを自分の懐に入れチャックを上げる。


「ふうーっマジヤバかったッス!沙織さんスープ飲んでくださいね出来るだけ早く。ドリンクホルダーに置いとくッスから」


「ありがとうサヤカちゃん。それにアダムもありがとう。命懸けで毛布をかけてくれて。冷気が大分治まったよ」


「あーでもまだメチャクチャ寒いな。チクショーあと2時間はこのままか。じゃあさっきの続きだ。これから2時間は命懸けで喋れ!無礼講だ。ここで言った事は後に引きずんな。いいな!」


「「うん」」「はいでしゅ」


「こんなに寒いと、今日の晩ご飯はお鍋がいいな!」


「ナイスアイデアッス沙織さん。チャンコ鍋なんか良くないッスか?」


「そうだな最近相撲取り並にご飯を食べて太ってきているサオリンには丁度良いかグフッ」


「何だよパカパカ叩きやがって!本当の事だろうが!それにさっき無礼講って言っただろうが!ちょっとぐらい流せよ」


「無礼講はそんな意味じゃないわよ!それよりアッアンタそんな風に思ってたの最低!私が一杯食べるのを見て『大好きなホットケーキも少ししか食べられなかったサオリンがこんなに一杯食べて・・・俺は嬉しいぜ。喰え!サオリンもっと喰って元気になれ』って言ってたじゃない。私ちょっと感動してたのに!返して、私の感動を返して!」


「なんだよ。女はな、ちょっとぐらいふっくらしてた方がいいんだよ。あんまり食が細いと食事にも誘い辛いだろうが!せっかく食事にさそったのにサラダメインに食べられると男は敬遠するんだぞ!」


「えっそうなの?」


「当たり前だろうが!男も気を遣うし、そんなのが続くと一緒に生活するのは無理ってなるだろ」


「じゃあ私は食べて良いのね!」


「イヤイヤイヤ、サオリンは食べ過ぎ」


アダムは大きな手振りで否定する。


「馬鹿!アダムの馬鹿!もう知らないんだから!」


「アダムは女心が分かってないッスね。沙織さん、サヤカは一杯食べたいですから、付き合ってくださいよ~。私だけ一杯たべるなんて寂しいじゃないッスか。同じクリスマスを一人で過す仲じゃないですか~。女子会ですよ。こんないい女達をほっとく男のことを愚痴りながら食べましょう!」


「アポロもサオリンとサヤカーンと一緒に食べたいでしゅ」


「良いよ~アポロはアダムと違って意地悪じゃないからね。女子会の特別ゲストとして招待するよ。アダムは別のテーブルで食べてね」


沙織は胸元から顔を出すアポロを撫でながら言う。


「おいっおいおいおいおいちょっと待てよ。仲間外れにすんなよ。それパワハラだぞ!所長の権力を使った暴力だ!」


「何よ私の乙女心をズタズタにしたじゃない。この心の傷はそう簡単に癒せないわ!」


「ちょっと待ってくれよ。サオリン愛してるよ。この愛は氷狼でも凍らせることが出来ねえよ」


「ちょっ!私がそんな甘い言葉で許すチョロイ女だと思ってんの?」


口ではそう言いながら、まんざらではない顔をする沙織。そんな沙織をみてアダムはさらに押す。


「俺達は家族じゃねえか!俺はサオリンがどんな風になっても変わらずそばにいるさ」


「もっもう!アダムったら今回だけなんだからね!」


アダムがホッと胸をなで下ろす。サヤカも二人が仲直りするのを見てニッコリする。


「それよりアダム。これからもこうなの?」


「何がだ?」


「寒い!寒い!寒い!死ぬー!!探偵の仕事がこんなにキツいなんて聞いてな~~~い。いやそもそもこんなの探偵の仕事じゃな~~~い!」



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