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氷狼デリバリー ①

「寒い!寒い!寒い!死ぬー!!探偵の仕事がこんなにキツいなんて聞いてな~~~い。そもそもこんなの探偵の仕事じゃな~~~い!」


沙織は十二月の寒風吹きすさぶ中、高速道路を愛車で飛ばしながら大声で愚痴る


話は数日前に戻る。


「アーサー探偵事務所発足おめでとうございマース!早速ミーの依頼を受けてくれるようで大変助かってマース!」


「大家さん、いえ、東九条さんありがとうございます!」


「ハハハハハッ止めて下さい西九条さーん。これからも大家で結構ですよ。オッちゃんでも構いませ―ん。ミーは西九条さんのことをサオリンと呼んでも大丈夫ですか?」


「はい、どうぞ」


「おう嬉しいでーす。一時は目も合わせてくれなかったのに感激デース。ではサオリン、これは簡単な仕事デース。狼を東北地方まで運んで放して欲しいデース」


「「「狼?」」」


アポロを除く全員が首を傾げる。


「えっ?日本には狼はいないから、外国の狼ですか?・・・そんなことしていいんですか?」


沙織が常識から考えて、そんなことはしてはいけないだろうと思い、確認を取る。


「かまいまセーン。それはただの狼ではありませんからネ。氷狼デース」


沙織は皆の顔色を伺うが、全員知らないようだった。


「ハッハッハッ皆さん知りませんか。氷狼は精霊デース。雪国の自然を守ってくれてるヨ。ただ時々、人にも被害を及ぼすので、氷狼のいる周辺は、氷狼を押さえ込む封印地として東九条家が管理しているヨ。今回の依頼は、昔、保護した氷狼を故郷の青森に返すことネ。この地図に示してあるポイントは東九条家の支部デース。そこに行けば封印地を管理している東九条の者が案内してくれることになってます。何か聞きたいことはありますか?」


「オッちゃんこの仕事に危険はないんだろうな!サヤカはこういう仕事初めてだと思うんだが、サヤカにでも出来る難易度なんだろうな」


「別に問題ないと思いマース。運ぶだけですから。それにさっきも言ったように東九条の人間がついてますからネ。大丈夫ヨ」


「オッちゃん大好きッス。初めての依頼で失敗したらこの日本一の美人中卒探偵に汚点が付くとこだったッス。喜んで引き受け痛っ!」


ボコッとサヤカの脚をアダムが蹴る。


「お前が勝手に決めるんじゃねえよ。これは表の所長のサオリンと裏の所長の俺が決めるんだ。サオリン俺は受けてもいいとおもってるぜ。どうする?」


「う~ん。大家さん、本当に危険はないんですよね?」


「大丈夫ですよサオリン。私はその封印地で半年間過ごしたことがあるヨ。全然問題なかったヨ」


「わかりました。引き受けます」


「オーありがとうネ。じゃあ、一つ言い忘れましたが、公共交通機関は使用禁止です。車を使用してくダサーイ。こちらで用意してもいいですが、愛車を寒冷地用に改造するんでしたらその為の費用はこちらが持ちマース。」


「まあ精霊を新幹線なんかで運んで何かあったら最悪だしな。まあ十二月の東北だからな。エンジンとかガソリンとかオイルとか諸々不安だな。よし分かった。丁度いい。寒冷地用の改造もしたかったとこだ。そっちが金を出してくれるんだったら俺がサオリンの愛車を改造してやるよ。部品調達が必要だから一週間くらいくれよ。そしたらサヤカーンも冬休みに入るし丁度いいだろ」


「はい、今年中に届けてくれれば問題ありまセーン」


「学校はもう行く必要あんまりないけど、その方がサヤカも気兼ねなく参加できるから大々々賛成ッス」

「でも大家さん、改造なんてそんな必要があるんですか?」


「寒いからです。とてつもなく」



「普通外が寒いって思うだろがああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー!まじあのクソオヤジ、今度あったらボコボコにしてやる。サヤカーンお前はなんて仕事を持ってきたんだよ!さっ寒すぎだ!」


「サっサヤカも流石にこんなことになるなんて分からなかったからしょうが無いッスヨ!十五歳の可愛いピチピチの少女が仕事をくれって言ったら普通簡単な仕事をくれるじゃん。実際そう言ってたし、アダムも納得したじゃん!」


「馬鹿!お前はやっぱり馬鹿だ!言っとくぞ。オッちゃんは天才だ。それと全盛期のサオリンはそのオッちゃんを凌ぐ天才だ。それにお前は馬鹿だが天才だよ。天才に常識は通じねえ!基準が普通と違うからな。それにオッちゃんは全盛期のサオリンを知ってるから、弱体化してるサオリンを見てもこの程度簡単でしょってな!あとお前もいるし大丈夫だろって勝手に考えてんだよ!」


「そんなの後出しジャンケンじゃん。今ならサヤカもそれくらい分かるよ―」


アダムは助手席に座るサヤカーンの服の中に潜りこみ、抱っこされた状態でサヤカーンと喧嘩をしている。アポロも運転席の沙織の服の中に潜りこみ暖をとっている。お互いに温め合わないといけないくらい寒いのだ。


その原因は後部座席でケージに寄りかかりハッハッいっている氷狼だ。東九条家でケージに入った、まだまだ小さい子供のような寝ている氷狼を渡された時は何も問題なかったのだ。たしかに車内は、通常よりは寒かったが、この仕事の依頼内容からすれば想定の範囲内だった。氷狼に害があるかもしれないのでエアコンは使用しないでおこうと、皆で相談して決め、この日の為に防寒具も買い揃え、それを着込んでいたから寒いというより暑かったくらいだ。


途中の宿泊場所は東九条家の群馬支部を使用させて貰ったため快適だったし、氷狼も東九条家の方達が夜通し見てくれたので一日目は何事もなく過ぎていった。問題は二日目、青森県に入り、京都では滅多に見れない一粒が大きい雪が降り出してからからだ。ずっとケージの中でスヤスヤと眠っていた氷狼が目を覚ましたのだ。すると今まで眠ってるから、触っちゃ駄目よと言われ続けてきて、氷狼と遊びたい気持ちを我慢し続けてきたアポロがケージに近づいた。


「氷狼しゃん!おはようでしゅ。僕はアポロでしゅ。仲良くするでしゅよ」


氷狼はテンション爆上げでハッハッハッと興奮して、アポロに遊んで欲しそうにケージにへばり付く。


「氷狼しゃん、カワイイでしゅね。ケージから出してあげたいでしゅけど出来ないでしゅ。だからアポロと一緒にお喋り・する・・・でしゅ・・・」


その光景を、ルームミラーを通して見ていた沙織は微笑んだ。すぐにお別れの時が来るとしても、同じ精霊として友情を育むのはとても良いことだと我が子のように見つめていた。


「ねえアポロ~。どう?氷狼君は元気かな?」


「・・・・・・・・・・・」


「ねえアポロ?」


「・・・・・・・・・・・――――」


沙織は返事をしないアポロを不審に思い、ルームミラーを凝視する。


「鼻水?凍ってる・・・サっサヤカちゃん!アポロ、アポロの様子を見て!」


サヤカは急いで、膝の上で座ってるアダムと共に後部座席に移ろうとする。


「アポロ大丈―」


サヤカが声を掛けていると、いち早く後部座席に移動したアダムがアポロの頬を引っぱたく。


「おいアポロ!しっかりしろ!サオリン暖房をつけろ!カイロをありったけ持ってこい!サヤカーンお前は来るな!すぐ助手席に戻れ!」


アダムはアポロを担いで、サヤカーンの膝の上に戻ると、以前アポロが酔っ払ったときと同じように、自分のオーラをアポロに流し込み、活をいれる。


「プァッハーハーハーッありがとうでしゅアダム!氷狼しゃんと遊んでたら気持ち良くなって・・・」


「あー気にすんなアポロ。お前が無事で良かったぜ。いや正直言うと最初の犠牲者がお前でよかったよ。サヤカーンが同じ状況になってたとしたら大変なことになってた」


アダムはアポロが無事に意識を取り戻したことにホッと息をなで下ろす。


「アダム、はいこれカイロ」


沙織は車を駐車可能な路肩に止め、トランクからカイロを詰めた袋を持ってきて、アダムに渡す。


「サオリンはすぐに車を動かせ!出来るだけ早く合流ポイントに向かうんだ!サヤカーンはカイロを開けろ、開けまくれ!」


「わかった。あと100キロ位だから2時間は掛かるかもしれないけど」


「了解。ただしそこに行くまで絶対にエンジンを止めるな!二度と掛からなくなるかも知れねえ」


「アポロに何があったの?」


「アポロは凍死しそうになってた!精霊なのにだぞ!サヤカーンお前は絶対後ろを向くな!マフラーで口元を覆うんだ!この中で氷狼のオーラに当てられたら一番ヤベえのはサヤカーンお前だ。ホラッ!カイロを一杯持っとけ!」


「氷狼ちゃんマジパナくないッスか。おっきしたんでちゅか~?って喋ってたら、こっちが永遠の眠りにつかされるってマジパネェ」


「パネエよ!おい今から、昨日のテレビの話でも、これからの探偵事務所の方向性でも、今年のクリスマスにまた一人のサオリンを激励する言葉をかけるでも何でも良いから喋れよ!会話が止まったら寝たとみなして俺が殴グフッ」


アダムの頭に沙織の拳骨が落ちる。


「何だよサオリン!俺はメチャクチャ喋ってるだろ!起きてるよ!」


「何よ!今年のクリスマスは仕事が入ったんだからしょうがないじゃない!この仕事が入らなかったら、今頃は彼氏とラブラブなんだから痛ッ!」


アダムが沙織の頬を引っぱたく。


「おいサオリン!正気に戻れ!お前には彼氏はいない。そうだろ!仕事がなくても一緒にクリスマスを過ごす男なんていないんだ!」


アダムが真剣な顔で沙織に言う。確かにアダムの言ってる事は間違ってない。だが事実だけに、それは沙織をメチャクチャムカつかせた。


「何よこのデリカシーのない馬鹿コギ!アンタもどうせ一緒にクリスマスを過す相手なんかいなかったでしょうに!何私にマウント取ってんのよ!」


「あっ!言ったなサオリン!前から俺の事を非モテとか言ってるけどな。俺はモテたんだぜ!クリスマスを一緒に過そうっていう女の子が俺の足を引っ張るから、俺の御主人はチャームポイントの短足が長くなってしまうってよく心配したもんだぜ!」


「フンッ語るに落ちたわねアダム!具体的な話が出て来ない時点で非モテ確定よ!きっと御主人もアンタがモテなくてさぞ心配したでしょうね」


「何だとー!」


「何よ馬鹿コギ!」




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