アーサー探偵事務所設立&面せ 違うッス!スーパールーキーの面接ッス ⑥
「こら、サヤカ君!君はまだ未成年だから勝手にそんなことは決められない。先生は君がここで働く事は納得できない。」
「先生の言う通りだサヤカ。実はお父さんもお母さんも迷っているんだ。私達には霊感が無いから、どんなに理解しようとしてもお前を本当に理解する事は出来ない。それが原因なのかサヤカ、お前はいつも孤独を感じているように思う。でもサヤカが西九条さんと出会って、笑顔が増え、中学生らしい振る舞い・・・はしてないな。もうちょっと学校に呼び出しが少なくなると嬉しいな~お父さんからのお願い。ゴホンッ話が逸れたが、進路調査書に何も書く気がなかったサヤカが第一志望から第三希望までアーサー探偵事務所と書いてくれた時は嬉しかったんだぞ。お父さんとお母さんはサヤカがいつか・・・・・・・命を・・・絶つんじゃないかと心配していたからね。でも、だからこそ、この事務所が真っ当なものだという保証が欲しいんだ。ここに見いだしたお前の希望が失望に変った時、命を絶たれてはお父さんとお母さんも生きていく自信がない。」
両親の心の内を聞かされたサヤカは顔を伏して黙っている。泣いているのだろうか?沙織も死んでからも自分の事を心配してくれていた両親の事を思い出し、目頭が熱くなる。
「西九条さん、失礼ですが私は先生から報告を受けてから、すぐにあなたの事を調べさしてもらいました。先祖代々この地で宮司をしているものですから西九条という名字と、精霊が見えるということを考えれば、東九条家と双璧をなすあの西九条家と縁があると分かりました。ただ西九条家はこの京都にもう居を構えてないので、陰陽師ではない私では西九条家に関する噂ですら手に入らない。そこで私の知る限り一番その道に詳しく地位のある知人に西九条沙織というのはどんな人物なのですかと聞いたら・・・
『ほれ、これ見てみい。東九条家が直接持って来た警告書や。【東九条家に関わりがある者又は将来関わるつもりがある者に告ぐ。西九条沙織に関わること及びその情報を提供することは絶対に許さない。噂話をすることも禁ずる。もし破った場合、東九条家と敵対するものとみなし、当家からの協力、援助、情報提供、物品購入など全て停止する。理由に関しては一切答えない】というお達しがでてるんや。だからすまん。協力でけへん』
・・・と言われました。ただ今回のことは娘の人生がかかっていることだからと知人に泣きついて教えてくれとお願いしました。すると・・・『理由に関しては一切答えないと言うてるけど、それは嘘や。それやといくら東九条家といえども抑えられんからな。ワシのとこにわざわざあの東九条家当主が頭を下げに来おったわ。ワシにも下の者抑えるの協力してくれへんかってな。その理由を聞いてワシは納得した、喜んで協力させて貰うと約束した。だからアンタみたいに尋ねに来た者には一言こう言うとる。心配ない。悪いがこれだけしか言えん。お前が娘を大事に思う気持ちは分るが、それと同じくらいワシも西九条様に恩を感じとるからな。この件に関しては誰に聞いても無駄や。ここで止めとけ。東九条家は当然としてワシからも睨まれとうなかったならな・・・ただまあ状況は変わった。それでも東九条家当主から頭を下げてお願いされたことや、ワシが勝手に約束を反故にすることなんて出来ん。時間の問題や』・・・と言われて全くわかりませんでした・・・西九条さん、ワシは不安なんや。アンタ何したんや?東九条家から、理由も明らかにされないままこの日本で仕事をしたいなら、西九条沙織に関わるなという脅しのような事を言われつつ、知人は西九条さんに本当に恩を感じてるのに、両者の考えが全く逆やのに行動が一致してる。何なん?ホンマに分からへん。こんな事言うたら失礼なんやけど、この探偵事務所に入ったら娘も東九条家に目をつけられそうで恐いんです。そんなん幸せになれる訳あらへん」
サヤカの父親は目に涙を浮かべて訴える。そんなサヤカの父親に寄り添いながら、今度はサヤカの母親が言う。
「さっきから夫が失礼なことを言って申し訳ありません。私は東九条家も西九条さんのことを嫌っている訳ではないと思っているんですが、情報が得られないだけに推測でしかないんです。それでは大切な娘を預けるわけにはいきません。何かないですか?私達を納得させる材料が」
沙織にはサヤカの父親の発言の原因に思い当たるフシがあった。
ツチグモ討伐に失敗した際に、沙織は東九条家にしばらくの間お世話になったのだ。治療や食事の世話までしてくれた。傷の完治が無理だと分った後は、『このまま・・・命が尽きるまでこの東九条家を我が家と思いお過ごし下さい』と前東九条家当主から言われたが沙織は断った。しかし前当主は、それでは今まで東九条家の者を数多く救って頂いたご恩を返せませんと食い下がったので、沙織は『じゃあ残りの余生を静かに過ごしたいです。私に恩を感じる必要なんてないですよ。私も多分・・・いや確実に東九条家に一杯ご迷惑をかけましたからハハッハハハッ。それで・・・もし、もしですよ、私に恩を感じている人がいたとして、死ぬ前にお礼をと会いに来たら、私はその人の無事を喜んで泣いちゃうし・・・その、でも私は死んじゃうんだって・・・何か私の中の嫌な感情にも泣かされて、私の余生は泣いて終わる気がしちゃって。だから私は静かに過ごしたいです』と伝えたら、前当主は東九条家の名にかけてその願いを必ず叶えてみせますと、涙を流しながら頭を下げた。
沙織は返答に窮する。少し前なら悩むことなくサヤカのお父さんにこの事をありのまま話しただろう。しかしそれではサヤカはアーサー探偵事務所の社員になることが出来なくなる。サヤカの父親がツチグモの恐ろしさを正確に知っていたら沙織に近づくことさえ禁止されるかもしれない。沙織は両親のサヤカに対する思いと心配を聞いて、サヤカに学生時代の自分を投影していた。そして今やもうサヤカを守りたいと思っていた。
自然と零れてくる涙を拭き、沙織は必死で考えるが良い回答が思いつかない。いやそれ以前に、娘の事を心配し、そして私に全てを正直にぶつけてくれたご両親に、上辺だけ安心させるような事を言う。それが誠実な態度と言えるのかと自らに問いかけ、沙織は決心する。
「まず先生の質問ですが・・・・残念ですけど・・・申し訳ないですが・・・やっぱり精霊の存在を証明する方法は思いつきません・・・ポルターガイストとかやっても・・・恐いだけですしそれが証明になるとは思いませんし、納得してくれるとは思えません。それとご両親の質問に答える前に、まず私の方こそ謝らせて下さい。私はご両親がサヤカちゃんを私に預ける気で来てくれてたなんて知らなかったです。サヤカちゃんは良い子だし、行動力もあるし・・・ちょっと有り過ぎるかな。私としても、私の事を理解してくれるサヤカちゃんは本当に大事です。サヤカちゃんを守っていきたいと思っています。それで東九条家のことですが・・・」
沙織は両親を真っ正面から見据え答えていく。するとさっきまで俯いていたサヤカが突然顔を上げる。
「沙織さん。今、守っていきたいっていいましたよね?それってもう社員ってことですよね!」
サヤカは満面の笑顔で沙織に問い詰める。