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アダムとアポロとサオリンと ④

沙織は藁をもすがる思いで声の主を見た。


そこには耳が長く、全体的に茶色だが、鼻筋、首回りが白く、短い手足に手袋を履いたように白い毛が覆われた犬が二本足で立っていた。


「ええっとあなたは・・・コーギーかな?」


「ああ、そうだぜ。俺はコーギー犬だ」


「コーギーさん。トラ、子供のトラを見なかった?私がトイレに立った間にいなくなっちゃったの!」


沙織はコーギーの肩をがっしりと掴み、鬼気迫る表情で尋ねた。


「痛ててて!コラコラお嬢ちゃん。もっと優しくしてくれよ。残念ながらトラなんて見てねえな。まあでも探す方法はあるぜ!ここは俺の庭みたいなもんだからよ。ただそれには一つお嬢ちゃんに頼みたい事がある」


「私に出来ることなら何だってするよ!」


「なに、お嬢ちゃんにとっちゃ簡単なことさ。お嬢ちゃん日本人だろ?俺を日本に連れてってくれよ。こんな俺の姿を見ても何も不思議に思わないお嬢ちゃんなら俺が精霊だって分かってんだろ?精霊を飛行機で運んだって誰も文句言わねぇよ。それと日本で少しの間だけでいいから一緒に住ませてくれよ」


「わかった!良いよ。君は悪い精霊じゃなさそうだし。私の家に住むのもオーケーだよ」


「へへっ契約成立だな。俺の名前はアダムってんだ。ヨロシク頼むぜ」


「よろしくアダム。私の名前は沙織よ」


「沙織・・・じゃあサオリンだな」


じゃあの意味が分からないが、今はこのコーギーのグイグイくる性格が頼もしい。


「サオリン、ついてきな」


沙織は迷い無くグングン歩き進んでいくアダムに付いていく。


「人探しは、この自慢の鼻でと言いたい所だが、俺はそんなに鼻が良い方じゃねえし、そいつの臭いも知らねえから無理だ。うん?何だサオリン、Tシャツ引っ張って?臭いが付いてるかもって?それは無理なんだよごめんな。言い方が悪かった、定番のやり方をしないってのを言いたかったんだ。サオリンは見える奴だからわかるだろ?ここインドは幽霊、精霊、神様が一杯いるから、俺程度の鼻じゃあ臭いが分かった所で区別がつかねえんだ。だから俺は人間と同じやり方でやる。いわゆる聞き込みってやつだ。ただ一つ違うのは精霊を探す時は聞く相手が霊、精霊、神様になるだけさ。俺はこの辺りには顔が利くからよ、順番に聞いて行くぜ。あっそれと言い忘れてたが情報料として渡す小銭が必要経費としてかかるぜ。それも人の世と同じさ。小銭はサオリンが今持っているものを全部くれ」


沙織は財布を取り出し、小銭を全部手のひらに出す。それをアダムが手で取ると、先程のアポロの食事の時と同様小銭が消えた。


「不思議かい?生者のお金が使えるのが? 死者は生者のあらゆる物を使ってるんだぜ。お金もその一つさ」


沙織は霊の世界に貨幣経済があることにビックリする。また詳しく聞こうと沙織は思った。


アダムは様々な霊にチビトラの情報を聞いていく。その中には変わった情報提供者もいた。


「サオリン、せっかくインドに来たんだ。珍しい奴がいるからそいつにも聞いてみよう」


アダムに付いていくと、沙織は土下座をしている霊を見た。アダムがその霊に近づき呼びかけている。


「ちょっちょっとアダム。この人イスラム教の人でしょう。メッカに向かって礼拝している最中なんだから邪魔しちゃダメだよ」


沙織は慌てて呼び止める。


「サオリンそう思うだろ?よく見ろよ」


沙織は礼拝している人をジロジロ見ては失礼だと思ったが、アダムに言われたとおり、足の方から背中に目線を走らし、そして頭・・・理解した。頭がない。性格に言うと頭が地面に埋まっている。


「ちょっと大丈夫ですか!?」


慌てて助けようとする沙織をアダムが止める。


「落ち着けよサオリン。こいつはヨガの行者だ。俺もサオリンと一緒で、初めて見た時に助けようとしたんだけど、逆に怒られちまった。これは修行なんだとよ。信じらんねえよな?」


「ふぇ、ふぇ~~」


アダムの言葉に、沙織は変な声しか出ない。


「おい、聞こえるかカシム。ちょっと聞きたいことがあんだけどよ」


アダムは、頭の横の地面を手でノックする。カシムという霊は、アダムの問いかけに応えて右手でオーケーサインを出す。


「トラの霊を探してるんだけどよ、お前見たか?」


頭を地面に埋めてるのに分かるはずがないじゃない。遊んでいる時間はないのにと、沙織は心の中でアダムに毒づいていると、カシムは両手でジェスチャーをし始めた。


「ふむふむ・・・10分前に・・・西の方向へ行ったか」


「分かっちゃうの!?」


沙織は思わず突っ込んでしまう。そんなびっくりしている沙織を尻目に、


アダムはカシムに情報料を払おうと頭の近くに小銭を持っていくと、カシムはしっかり右手でお金を受け取る。沙織はもう考えるのをやめた。


教えられた方角に向かって走っている最中にアダムがカシムについて教えてくれた。


「サオリン、ビックリしただろ?アイツは生前も死後もずっと修行してるんだってよ。ちょっと俺には何でそんな苦行を自分からするのか理解できないけどな。いつからか頭を地面に埋めた状態でも目で見る以上に周囲が見えるようになったんだと。俺の予想じゃアイツはもうすぐ精霊に進化するだろうぜ」


ヨガすごい!沙織はそれしか言えなかった。


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