アーサー探偵事務所設立&面せ 違うッス!スーパールーキーの面接ッス ⑤
「所長、もうすぐ2時ですけど面接始めますか」
「えっえ~っとそうね。でもその前にサヤカちゃんに聞きたいことあるんだけどいい?」
「どうぞ所長!」
「まだ早い。まだサヤカちゃんの上司じゃないから。昨日みたいに沙織さんでいいから。いいね?ここ大事なとこだから。それでサヤカちゃん・・・なんで両親と進路指導の先生が来てるのかな?」
「私にも分からないッスよ。何か先生が、サヤカの作ったビラを見て勝手に両親に電話したんッスよ。精霊とか書いてるけどこの探偵事務所大丈夫なんですかって。そしたら何か両親は、そんなことは初耳だって学校まで乗り込んで来たんッスよ!初耳ってサヤカは言ってないからそんなの当たり前じゃんって話ッスよ。それから何か進路指導室でどんな奴がやってるどんな事務所なんだって話になって、「お父さんとお母さんは見た事あると思うよ。よく神社にお参りに来てくれてるこの人」ってスマホの写真見せたら、沙織さんが頻繁に神社に来るようになってから、道真様とホットケーキ焼いたとか、道真様や皆でツチグモと戦ったって異常な言動が増えたって言うんッスよ。そしたら先生が、「それって洗脳じゃないですか?」って両親に言うもんだからもう指導室がカオスになっちゃって。だからもう面倒くさいし、面接に遅れるから一緒に沙織さんに会いに行こうってなったんッスよ」
いや、最後よ。最後の一言よ。分かんないじゃないでしょ。言ってんじゃん。自分で確実に言ってんじゃん。会いに行こうって!しかも洗脳疑惑のおまけ付きで。ねえ何で?私今日何か仕事したっけ?ワック行っただけだよ?それが何で探偵から霊界探偵や洗脳探偵に進化してんのよ。沙織は再び意識を失いそうになる。
「おいおいサオリン大丈夫か!気をしっかり持て!ここでしっかりしねえとヤバイ事になるぜ。俺も手伝うからしっかりしろ。でもサオリン、俺は勘違いしてたかもしれねえ。サヤカーンは馬鹿だと思ってたけど天才かもな。ミッチーを見ることが出来るのだって偶然じゃねえのかもしれねえ。俺達がこれ以上ないくらい断り辛い状況をビラ一枚で作り上げやがった。ここで俺達の事務所が霊感商法や洗脳をするなんて噂が立ったらメチャクチャ不味い。残念だがサオリンもう勝負はついてる。俺達はこの事務所が真っ当なものだと証明して、サヤカーンを誘ったのは誰でも良い訳じゃなく、サヤカーンに才能を感じたからスカウトした、出来れば雇いたいと言うしかない。その結果、それでも両親と教師から反対されてサヤカーンが就職出来ねえのは俺達の知ったことじゃねえ。大事なのはメチャクチャ怪しまれている今の状況で適当に不採用なんかしたら「生徒を洗脳されかけてたが、私が生徒をギリギリの所で守った。あの探偵事務所は危険だ。あの事務所の近くを生徒が通らないように周知させましょう」とかあの進路指導の奴が喚くだろうさ。すると保護者連中から睨まれて炎上、サオリンはこの辺りに住めなくなるだろうぜ。勝負は準備が8割とはよく言ったもんだ。サオリン、俺達は今からサヤカーンが用意している滑走路に上手く着陸するんだ。失敗したら爆発大炎上だ。いいか!これは既にサヤカーンの面接じゃない。俺達の生死をかけた、いや俺とアポロは死んでるから、サオリンの生死と事務所の存亡をかけた面接だ!」
あの・・・私ちょっと前に命拾いしたばかりなんだけど・・・。えっ京都ってそんなにヤバイとこだったっけ?以前にアダムとアポロに日本は治安がいいから安心してと言った自分を殴りたい。それと事務所の存亡かけるの早くね?今日の朝だよ事務所作ったの。いや正確にはまだ出来てすらいないよ!等と心の中でブツブツと沙織が文句をいっているとサヤカが発言する。
「ねえ沙織さん。両親と先生を黙らせるために精霊を見せてあげてください。アダムとアポロをバーンッと見せつけてあげちゃって下さい!」
アダムの言う通りだ。面接官は私のはずなのに、主導権はあっちが持ってて、しかも圧迫面接なんか目じゃない無茶振り面接を私に仕掛けてきた。
「サオリンごめん。やっぱりあいつ馬鹿だわ。精霊を見せてやれってそんなこと出来る訳がねえ」
「そっか、アダムレベルの精霊でも、姿を見せることは出来ないんだ」
「人間の世界じゃ第六感って言うらしいが、その感覚が目覚めてないと無理だ。人間の目は俺達精霊を見るように出来てねえからな。サオリンが俺達を見ることが出来るのは第六感が覚醒してるからだ。目から得たオーラの情報を第六感のフィルターを通すことによって俺達が見えてるんだ。ちなみに犬の精霊の俺は、目より嗅覚で得た情報を第六感のフィルターを通すほうが、より霊とかオーラを感じる事が出来る。ほらっ、アポロが迷子になった時、俺は嗅覚を頼ったろ」
「そうなんだ。でも漫画とかで、霊感ある人が、霊感のない人に触ったら見ることが出来るみたいな描写があるけど、それも無理なの?」
「サオリン。俺が言った『出来る訳がねえ』って意味は、一時的に幽霊や精霊を見ることが出来るようにする事が可能だとしても、それは危険だから出来る訳がねえって言う意味も含んでるんだ。確かにサオリンを通してコイツ等の第六感を無理矢理こじ開ければ、俺達が見えるかもしれないぜ。ただその後はどうするんだ?霊が見えてると分かったら、助けを求める霊に襲われるかもしれねえぞ。サオリンは両親が守ってくれたが、コイツ等に守ってくれる奴はいねえぞ。まあサヤカーンの両親はミッチーが第六感を閉じ直すとかしてくれるかもしれねえが、進路指導のこいつは相当ヤベえ事になるぜ」
「何を一人でブツブツ誰もいない壁の方を見て喋っているんですか?まさか洗脳が始まってるんですか?お父さん、お母さん。危険ですから気をしっかりもってくださいね」
指導指導の教師は、沙織が洗脳を始めたと妄言を吐き始める。
「一体誰の心配をしてると思ってるの。日常生活をお化け屋敷にしてあげましょうか」と沙織は心の中で毒づく。
「西九条さん。私は霊感こそないが一応、天満宮の宮司だ。霊や神様の存在を信じている。娘のサヤカは小さい頃から道真様と一緒に遊んだとか言ってましたから霊感はあるんだろうと思っています。しかしサヤカはまだ幼い。思春期の多感な心の隙をついて何かまずい事になってるんじゃないかと心配しているんです」
サヤカの両親はそこまでまだ沙織に嫌悪感を抱いてないようだった。
「あのですね、精霊を見せるってのは・・・無理ですね。でも確かにいるんです。サヤカちゃんがビラに書いてるようにここにコーギーとトラの精霊が・・・」
アポロは密林の王者らしく胸を張って紹介に応える。
「どこにいるんですか?私には全く見えませんが?それになんでトラなんですか?日本にトラなんているはずないでしょうが」
「そっそれはインド旅行した時に仲良くなって一緒に帰ってきたからで・・・」
「勝手に連れ帰って来ちゃったんですか?私には精霊の事は分かりませんが、誘拐なんじゃないんですか」
サオリンを責められて、怒ったアポロは壁から少し出っ張ってる柱をヨジヨジと登っていく。
「頭にきたでしゅ!アポロの必殺技“壁紙剥がし”で目を覚ませてやるでしゅよ!」
「やめろ馬鹿!アポロ、お前はサオリンと俺の会話聞いてなかったのか?覚ましたら駄目なんだよ」
アダムはアポロの背中のお肉を掴み、引きずり降ろす。
サヤカはアダムとアポロのやり取りを見て笑う。
「ハハハハハハッアダムもアポロもやっぱり面白い。大好き!私やっぱりここで働きたい!」