アーサー探偵事務所設立&面せ 違うッス!スーパールーキーの面接ッス ③
アダムとアポロが沙織の体をよじ登り、テーブルの上に飛び移って注文をしようとすると、今まで接客していたバイトの女の子と交代し、四十代だと思われる男性が対応してくれた。
「いらっしゃいませ西九条様、アダム様、アポロ様。店長の藤森です。当主から話は聞いております。この度は探偵事務所設立おめでとうございます。何でもご注文ください」
店長は沙織達にお祝いの言葉と共に爽やかな笑顔を投げかける。
「これだよこれ!サオリンに足りないのはこの爽快感だよ。このスマイルと比べると言っちゃ悪いがサオリンのスマイルは炭酸の抜けたメロンソーダだよ」
アダムは店長の肩に肘を乗せながら沙織を指差してディスる。
「アンタはハンバーガーの肉みたいに薄っぺらい嘘話しか出来ないくせにうるさいわよ」
「なんだと!薄っぺらいのはサオリンの胸じゃないですか~。ミルクを注文して牛にあやかったほうがいいんじゃないですか~」
「本当に頭にきた。アンタを今すぐフライヤーに浸けてカラッと揚げてやりたいわ」
「やってみろってんだ。そしたら俺はサオリンを、肉を焼く器械に挟んでさらにペッタンコにしてやんからよ!」
「アンタなんか揚げ終わったら20個くらいにバラバラにしてそこの鴨川に流して魚の餌にしてあげるわ」
沙織はアダムと口論になる。
「グフゥ、にっ西九条様。申し訳ありません。そろそろご注文を・・・」
沙織が熱くなって回りが見えなくなっていたことに気付き、恐る恐るゆっくり視線を厨房に向けると、
「おいおい、何か店長の話の中身はハンバーガーの肉みたいに薄いらしいぞwww」
「それないのと同じだろwww」
「あの客のキレ方、あれ絶対に闇金よね」
「多分嘘ってのは来週には絶対金返すとか言ってたんじゃね」
「最近店長の休み多かったのは金策に走ってたのかもな。ハ~ッ店長はもうバラバラにされて鴨川に流されるんか」
「おいお前ホンマにやめろや。店長が流れる川と思ったらもうあそこで彼女と座ってイチャつけへんやろが!」
「私、店長はカッコイイのに、それを鼻に掛けないし誠実で素敵だなと思ってたのに、プライベートはお金にだらしないなんてがっかり」
などとアダムが見えない店員達は、沙織の文句が店長に言われているものだと思い、店長の評価が大暴落中だった。
「ワリィな店長って、おい!大丈夫か?メロンソーダみたいに顔青くなってんじゃねえか」
沙織は大変な事をしてしまったと慌てて誤解を解こうとする。
「ちょっとみんな違うの。今言ったのは・・・えっと・・・そう、電話中だったの店長は関係ないのハハハハッ・・・。すいません店長さん!売り言葉に買い言葉っていうか。私そんなの全然思って無くて。ワックの新商品が出るのをいつも楽しみにしてて。あっ見てください、財布にはいつもワックの紙クーポンを入れてて―」
店長は沙織のワック愛を聞くと一気に顔色が戻る。
「いえいえ全然構いませんよ。こちらこそ大事なお電話中失礼致しました。西九条様がワックをこんなに好きでいて下さって、私は本当に嬉しいです。それでは改めてどうぞお選びください。私のお勧めはこれです。このグランワックバーガーは、ボリュームがありますが、トマトとレタスが入っていてヘルシーでペロッと食べれてしまいます。それに使用されている肉はハンバーガーより分厚くて美味しいんです」
そう言ってまた爽やかなスマイルを見せる。
店長とのやり取りを聞いていたアルバイト達は、
「なんだハンズフリーかよ?まああのハンバーガーバカの店長が闇金から金借りる訳ねえか。どっちかと言うとパン屋からバンズのパン種くすねて追い込みかけられる方が納得できるわ」
「まあでも中身が薄いってのとは違うけど、ハンバーガー以外の話題に乏しいのはあるよな」
「そうそう俺この前、冬用タイヤの話してたら、「丸いと言えばさ」っつってハンバーガーの話になって恐なったわ。いやお前、検便で異常なしでも病院で頭見て貰えよって思ったで」
「良かった。ハンバーガーバカの店長で♪」
「まあでも良い人だからな。店長のために美味しいハンバーガーを作るぞ!ワックのバーガーは世界一ィィィィ」
今までヒソヒソと店長のことで盛り上がっていた店員達が、アダムとアポロが無料なのを良いことにアレもコレもと大量にオーダーした商品を手早く作り始めた。
商品が全部出来るまで、十分程かかるらしく、店長に席に座ってお待ち下さいと言われた三人は、出入り口付近の席に座って待つことにした。お昼の時間が近づいた事もあり、客が次々とお店に入ってくる。しかし何故か入ってくる客から沙織は奇妙な視線をぶつけられる。
「なんだろ私の勘違いかな?見られてる気がするんだけど?さっきのやり取りを見られてたのなら分るけど、今入って来た人が何でだろ?」
「サオリンがカワイイからに決まってるでしゅ!」
「ありがとう~アポロ!誰かさんは大違いね!」
沙織はどや顔でアダムに言う。
「ぐぬぬぬ・・・いやでもよサオリン。ちょっと見られ過ぎじゃねえか?あいつらに俺達が見えてるわけねえし、店長が用意してくれた水はストロー付きの紙コップだから、よほど注意深く見ないことには『誰も触ってないのに中身が減っていってるぞ』っていう事になるわけねえし、カップを俺とアポロの前に置いてるのだって、普通の奴からすれば、席取りくらいにしか思わねえはずだぜ。ただ気になるのは・・・そいつ等に共通しているのが、何かのビラを持ってることだ」
「ううーアダムの意地悪~。もうちょっと良い気分でいさせてくれてもいいのに~って本当の事言うと、この視線は日頃からよく感じる異質な者を見る目だわ。正直あんまり気分は良くないの」
「よし!サオリンちょっと待ってろ。俺ビラ覗いてくるわ」
アダムは沙織をチラチラ見ているカップルが手にしているビラをのぞきに行く!
「!!!!!!!」
アダムの顔色が青ざめる。
直ぐに沙織の元に戻ってきて沙織に告げる。
「サっサオリンやべえ!直ぐにあのビラを見せて貰え!」
あまりのアダムの剣幕に沙織は恐くなる。
こんなに老若男女、皆に悪い事が広まるなんて芸能人がネットで何かやらかして、
炎上するとかしか知らない沙織は、以前エイプリルフールにアダムが自分の事を
ネットに何か書いてたのを思い出し、もしかしてそれが何か悪かったの?と不安になる。
カップルが持ってるのは私の指名手配書ではないかとブルブルと震えた。
沙織は意を決して、カップルに近づく。
「あっあの~すみません。ぜっ全然怪しいものじゃないんです。お邪魔してすいません。あのもし宜しければお二人が持ってるビラを見せて欲しいんですけど・・・」
二人は明らかに動揺している。沙織と目線が合うと、サッと直ぐに逸らす。
「あっこっこれですか。いや今僕たちは探偵さんのお世話になるようなことはないんです。申し訳ないですけど」
沙織は頭を捻る。会話が噛み合わない。
いや、そもそも何故、私が探偵業を始めようとしていることを知っているのか、沙織はアダムと同じように顔色が青くなる。しかしそれはまだまだ可愛いレベルだったとすぐに知ることになる。
「すみません。ちょっといいですか」
沙織は二人からビラを取り上げ見る。
「!!!!!!!!!」
沙織の顔色は店長のメロンソーダのような顔色を通りこし、ゾンビメイクの時に白塗りしたぐらい血の気のない顔になっていた。
「どっどこでこれを・・・・」
「ヒッ!この店を出て右に真っ直ぐ行った所の交差点で貰ったんです。すいません依頼なくてすいません」
沙織は、頭を下げて謝る二人を置いて、さらに荷物も置いたままダッシュで交差点に走る。
アダムとアポロも急いで沙織の後を追いかける。
沙織は人並みをかき分け進むその時も、ワックで感じたのと同じ異質な者を見る視線を
ぶつけられながらも交差点に急ぐ。