アーサー探偵事務所設立&面せ 違うッス!スーパールーキーの面接ッス ②
「よく言った。サオリン」
「尾行はこの密林の王者に任せるでしゅ」
「非情に残念ですが、サオリンはやっぱり素晴らしい子ネ。それでは善は急げヨ。今、探偵事務所を作るヨ。門下生に司法書士がいますので設立登記してしまうヨ」
「えっいや大家さん。そんな急に」
「若者の特権は、失敗しても何度でも立ち上がれるチャンスがあることヨ。駄目ならまた何かを一から始めればいいネ」
「よし。やろうぜサオリン。本当は俺が所長になりてぇところだが、精霊を所長にする探偵事務所なんて申請が通るわけないからサオリンが所長でいいぜ」
「え~~~!大丈夫かな~」
「大丈夫大丈夫!何でもトライすることが大事ヨ。ミーが西九条さんの年齢の時には、画家の家で必死に勉強していたヨ。あの時の時間は何者にも代えがたいネ。それに西九条さんにはアダムとアポロがいるヨ。きっと成功するし、素晴らしい時間になること間違いなしヨ!」
「サオリンがんばるでしゅ」
「じゃあやるか!アポロ一杯助けてね!期待してるからね!」
「まかせるでしゅ!尾行は得意でしゅ!」
「また迷子になるんじゃねえぞ」
「そっそれはもう言わないで欲しいでしゅ~」
頬を膨らませて怒るアポロ。みんなが笑う。
それから事務所を設立するための事務作業を行った。
「事務所の場所は、アパートの今住んでいる部屋の上の空き部屋を半額でお貸し出来ますけどどうネ?それで今住んでる部屋にあけた穴の件を許して欲しいネ」
「えっ良いんですか。ありがとうございます」
「えっと本社はアパートの203号室っと。これで設立に必要な情報の収集は完了しました。後日清書して西九条様の所にお伺いしますので、設立登記を委任する委任状に押す実印と印鑑証明書、それに先程説明した設立費用をご用意しておいてください」
司法書士である門下生が手続きの終了を告げる。
「何かトントン拍子に決まっていってるけど大丈夫かな~」
「まあ事務所開いていきなり仕事なんか入ることなんてねえから。これから皆で何をメインの探偵事務所にするかゆっくり決めようぜ。でだ、今更だが正直サオリンの貯金はいくらぐらいあるんだ?」
「・・・・それ、言わなくちゃ駄目?」
「まあ俺等はサオリンにずっとお世話になってるからよ。サオリンの貯金が少ないなら、俺達がオッちゃんの所でバイトするなりしてサオリンを助けたいんだよ」
「嬉しい!さすがアダム。その・・・私の貯金ね・・・あの・・・・数億円あるらしいの。っていうかよく知らないハハハッ」
「おい司法書士の兄ちゃん!起業は中止だ!今日はメロンソーダ祭りだ。俺達は一生ぐーたらして過すんだ」
ゴチン!
「痛えな!」
「だから言いたくなかったのよ!お金があると皆そういう反応する。本当に嫌!壁紙の時だって貯金を使えば問題なかったよ。数億円からすれば10万、20万のお金なんて大した額じゃないかもしれない。でもね、その額はアルバイトやパート、フリーターの人が一ヶ月一生懸命働いて稼ぐお金とほぼ同じよ。そんな額のお金を『払えばいいんでしょ』って言う感覚なんて私は受け入れられない。まして一生ぐーたら過ごすなんて!」
「冗談だよサオリン。そんな馬鹿な事しねえよ。俺達はパパリン、ママリンに直接サオリンの事をお願いされてんだぜ。そんな馬鹿な使い方、紳士として断じてしねえよ。そのお金は二人が命を賭して必死でサオリンに残したお金だ。だからサオリンが探偵として自立出来るように探偵事務所のために使いてえ。例えば車を寒冷地でもしっかり動くようにするとかな」
「・・・殴ってごめん。そう、二人が残してくれたお金。それを無闇に使いたくないの。二人はそんなこと望んでないと思うし、二人に私は元気に生きてるよ!って胸を張れるように生きたいの」
「メロンソーダ祭はなしでしゅか?」
アポロが悲しそうな表情をしながら沙織に言う。
「へへへっそれはしよっか!でも食べたり飲んだりしてばかりだと太っちゃうぞ!大丈夫?」
「大丈夫でしゅ。明日から尾行頑張りましゅから!」
「ハハハッまだ早いよアポロ。誰を尾行する気?今度は一緒にやるから一人でしちゃだめよ。それじゃワックにメロンソーダを買いに行こうか。大家さん、司法書士さん本当に色々とありがとうございました。」
「いえいえ若者が社会に出る手助けが出来ることは大人の喜びヨ。そうだ!ワックに行くのでしたネ。何もかもが目まぐるしく変化するこの時代、東九条家も例外じゃないネ。我々はワックのフランチャイズ経営をしていマース。皆さんがよく行く道真様の神社の近くにワックがあるでしょ。そこヨ。ドライブスルーがないお店だけど、そこで良かったら今回の起業のお祝いに全て無料にするように連絡しておくネ。店長はアダムとアポロが見えるからサオリンが何も言わなくても無料にしてくれるヨ」
「オッちゃん気前がいいなありがとよ」
「ありがとうでしゅオッちゃん」
「何から何までありがとうございます。いただきます」
沙織は東九条家を後にし、ワックまで車を走らせ、あらかじめ大家に聞いていた従業員専用駐車場に車を止める。
「ねぇ二人共、私ワックで働いても良いかなぁって思ってたんだ~。ほら、制服もカワイイし、リア充って感じがするでしょ」
「おうそうだな!中の下スマイルも披露出来るしな」
「この馬鹿コギ!ヨイショしなさいよ!アンタ絶対モテなかったでしょ!そういうとこだぞアダム。そんなだから生前モテなかったんだからね!」
「こっこらサオリン勝手に俺を非モテにすんじゃねえ!かっ彼女の一人や二人いてだな―」
「さっアポロ。アダムなんかほっといて早くワックに入りましょうね~!」
「サオリンの笑顔でメロンソーダ三杯はいけましゅ!」
「なんて良い子なんだろアポロは。あの嘘つきコーギーとは大違いだわ」
アダムをほっといて足早にワックに向かうサオリン。
「ちょっ誰が嘘つきだって!待てよ俺の話が終わってねえ!」
ギャーギャー言いながらアダムは二人を追っかける。