アーサー探偵事務所設立&面せ 違うッス!スーパールーキーの面接ッス ①
部屋の中で機械音が規則正しく鳴り響く。
「クックックッこれでいいっス」
沙織達はツチグモ討伐をした次の日、東九条陰陽道総本家で宴会をした。
アポロがホットプレートでホットケーキをその小さな体で何枚も焼き、
皆に振る舞うと、そのカワイイ姿に東九条家の者はメロメロになった。
特に女子はアポロを抱っこするための行列が出来た程だ。
アダムはというと、ツチグモをどの様に倒したのかを男性陣の前で説明していた。
「だから俺はツチグモの野郎に言ってやったのさ。『お前は俺には勝てないぜ。何故って?紳士じゃねえからさ。女を泣かすような奴は、俺に勝てる訳がねえ』ってな」
アダムは精霊界での事は確認しようがないことを良いことに話を盛大に盛っていた。
いつもなら沙織がツッコんだりするのだが、沙織は沙織で忙しかった。
「西九条様、私は井野と申します。私の事覚えていらっしゃいますか?私は九州で大規模結界を構築していた時に妖怪に襲われまして、私が率いるチームの全員が最早これまでと覚悟していた時、西九条様が現れて妖怪を一瞬で退治してくれました。その際には助けて頂いた上に気絶してしまったチーム全員を保護までして下さってありがとうございます。今、命があるのは西九条様のおかげです本当にありがとうございました」
沙織の前にはアポロの前に並ぶ女子のように感謝を述べる
順番を待つ行列が出来ていた。問題なのは、沙織は誰一人として覚えていないことだ。
その当時の沙織はツチグモを追いかけて、日本全国の人の仕業ではないと
思われる失踪事件を手当たり次第潰していった。
井野が言っているのもその内の一つなのだろう。
井野としては九死に一生を得た忘れる事などできない出来事であろうが、
沙織としては「チッ、ツチグモじゃなかったか」というぐらいの感想しか持っていなかった。
他の者も 、
「精霊の怒りを買い、一歩も動けず死を待つだけの私の前に立たれ、精霊の怒りを静めて頂いたにもかかわらず、西九条様がいる安心感からか気を失ってしまい、お礼も出来ず申し訳ありません」
「私は恥ずかしながらベッドから目覚めた時に、看護師から西九条様が助けてくれたんですよと報告を受けたんですよ。いや~西九条様のご活躍を拝見出来ず、ベッドで身悶えして看護師に怒られたのは今でも覚えてますよ~」
と次々にお礼を述べるが、ただこの全員に共通する気絶は沙織のせいだ。
退治などが終わって振り返ると、沙織のオーラに当てられて
陰陽師がいつも大量に倒れていた。
倒れた者達に沙織がさらに触ると症状が悪化すると思い、
沙織はその度に救助を呼びに行った。
とは言え沙織がいなければ命を失っていたのだろうから、
気絶くらいなんだと思うだろうが、やはり原因の多くは沙織なのだ。
両親を失ってからの沙織は、強大なオーラをまき散らしながらツチグモを探していた。
そんな事情など知らない精霊や妖怪達は自分の命を狙う又はテリトリーを荒らす者が
現れたと思い、事態を少しでも好転させるため、交渉するための人質として力の弱い者を襲ったのだ。
沙織は意識をしていなかったが、自分のせいで襲われた陰陽師達を沙織が駆けつけて助けると言う、
いわゆるマッチポンプをしていたのだ。
それに気付いたのはツチグモを追い始めて一年程たった後、
位の高い山の神様に、
「君、自分では気付いてないんやと思うけど、そないな殺気を孕んだオーラをまき散らして暴れ回るんは神に殴り込みかけてるのと同じやで。ワシの傘下の神々から『精霊や妖怪が暴れてどうにもならん、何とかしてくれ』って苦情が一杯きて大変なんや。道ざゲフンゲフン。無意識やからしょうがないかもしれんけど、取りあえず山に入る前には心の中でエエから挨拶してくれ。それと出来るだけオーラを抑えてくれ、頼むで」
と言われ沙織は赤面し、そのままその神様に、怒りを抑えるために
一ヵ月瞑想させて下さいと頼みこんでやっと気持ちを落ち着けることが出来た。
それからは、東九条家の陰陽師の戦闘のサポートをする等の普通の人助けが出来るようになった。
「いっいや~皆さんが無事で良かったですハハハッ。それより私の方こそ、昨日は皆さん倒れるまで私のために頑張ってくださってありがとうございました。さあどうぞ飲んで下さい」
「ややっ、西九条様からついで頂けるなんて同僚に自慢できますぞ」
「そうだな。昨日の儀式に参加出来たのは本当に幸運だった。全国の支部から何で俺を呼ばなかったんだと本部に抗議の電話が鳴り止まないというのに、その上一緒に宴会してお酒をついで貰ったなんて言ったら呪われそうですなワハハハハ」
「東九条家で呪いなんてシャレになりませんぞワハハハハハ」
沙織はまあ皆さんが喜んでいてくれるならと一緒にお酒を飲み大いに宴会を楽しんだ。
次の日、今度は大家がこれからの話を三人としたいと言うのでまた東九条家にお邪魔した。
三人は東九条家当主の部屋に通された。
「よく来てくれたネ。ささっそこのソファに座ってヨ」
「オッス!オッちゃん昨日は世話になったな」
「おはようございます大家さん。昨日は楽しかったです」
「オッちゃん。今日アポロを呼んだのはホットケーキの件でしゅね?美味しすぎて食べたくなったんでしゅね」
「オウ!ホットケーキみんなに大好評だったヨ!特に女子は『当主!次、アポロちゃんが来るのはいつですか?』って迫られて大変だったヨ。ミーもまた食べたいからまた近いうちに作ってくれますか」
「いいでしゅよ。今ミッチーに新しいメニュー考えて貰ってましゅからお披露目しましゅ」
「ありがとうネ、アポロ!楽しみヨ。さて、今日三人を呼んだのは、これから一緒に仕事しないかっていう勧誘のためヨ」
「へ~日本屈指の陰陽道の流派と言われる東九条家から誘いがくるなんて凄えじゃねえかサオリン。どうするんだ?」
「・・・・・私なんかを誘ってくれて本当にありがとうございます。でも・・・・お断りします」
「やはり無理ですか」
「あっさり断んのかよ!?何かオッちゃんも納得してるみたいだけどどういう事だ?俺は正直どっちでも構わねえが理由は知りてえ」
「えっとねアダム。元々は東九条家と西九条家で九条陰陽道という流派だったんだけど別れたの。別に仲が悪いとかそんなんじゃないの。それは昨日の宴会でも分かるでしょ?」
「ああ、みんな笑顔でサオリンを受け入れてたし、そんな事情なんて知らず、結果的に西九条家をサポートしているアポロや俺にも一切文句を言わず、もてなしてくれたもんな。俺の武勇伝に一生懸命耳を傾ける良い奴等だったぜ」
「そっそう・・・。で、それぞれの流派には特徴があって、東九条家は防御に優れてて、逆に西九条家は攻撃に優れた流派なの。防御に優れてた東九条家は都の防衛を任されていて、西九条家は都に攻め込もうとする魔を祓う役目を任されてたの。たしかにそれが多くの人を効率良く救える方法だよ。でもそれじゃあ地方で困っている人を見捨てる事になると西九条家は考えたの。それで東九条陰陽道と西九条陰陽道に別れたんだけど、何かあったらお互いを助けるって約束した円満な別れなの。それにこれは地方で大きな魔が育つのを抑止出来る役割もあって、けして悪い考えではないの。私は両親と一緒に仕事していてそう感じたし、私はそんな父と母が大好きだった。だから私が東九条家の方と一緒に都市の守護をしていたとても、地方の人の窮状を聞けば、きっと私は助けに行ってしまう。それでは東九条家の皆に迷惑を掛けてしまうでしょ?だから私は、アダムとアポロと一緒に出来ることをしたいの。探偵事務所とかね!」