ツチグモハント ⑩
「あいつは俺の核の場所を知ってんのか?チクショウ!再生がおいつかねえ」
ドンッザク、ドンッザク、ドンッザク、しかしリズム良く繰り返してきた攻撃が次第に遅くなってくるドンッ・・・ザク、ドンッ・・・・・・・ザク、ドン・・・・・・・ついにアポロの攻撃が完全に止まった。
糸に絡め取られて空中で固まってしまっている。
「ギャハハハハハハハハハッ馬鹿の相手は簡単だぜ!勝ってると思ったか?うん?もう少しで俺をやれると思ったか?ギャハハハハハハ甘えよ!この周辺全部に俺の糸を張り巡らしたのよ。気付かなかったか?少しずつ体に俺の糸が巻き付いていったのをよ。馬鹿が!突っ込むだけしか能が無い馬鹿に俺が負けるかよ」
ツチグモは上機嫌で木を登り、アポロの側までいく。
「ギャハハハハハッお前凄えな。よくこんなにギッチギチに絡まるまで動き続けられたもんだ。・・・・・俺に情けねえ悲鳴あげさせやがって!俺の百倍悲鳴あげさしてやる!!そうだなとりあえず・・・目、潰しとくか!」
ツチグモは気持ち悪い程に口角をあげ、ニタ~と笑う。
そして前脚を振り上げ一気にアポロの目を狙って突き刺す。
「ギャアァァァァァァァァァァー」
悲鳴を上げたのはツチグモだった。
突き刺したはずの前脚がちぎれ、再生したばかりの右目がまた引き裂かれた。
ツチグモは訳が分からずアポロを見た。
「テッテメェー、今さっきまで俺の糸でギチギチに拘束されてただろうが!なんで抜け出てんだよ!」
ツチグモの悲鳴にも似た絶叫が森の中にこだまする。
「キーキーキーッ」
「キャッキャッキャッ」
「ガーガーガーッ」
今まで二人の戦う音しか聞こえなかった森が、動物達の笑い声で埋め尽くされる。
ツチグモはその笑い声の中に、精霊達の声を耳にする。
「俺達の王が、おまえ程度にやられる?ちょっ止めろよ、笑いすぎて朝飯吐いちゃうだろ!」
「あの台詞聞いたか?『目、潰しとくか』格好つけたのに自分の目をまた潰されてやんのヒャヒャヒャッ。明日からこれ流行るな「目、潰しとくか」ヒャヒャヒャヒャヒャちょっわかったから、お前格好いいからこっち向くの止めろヒャヒャヒャヒャヒャ・・・」
「なんで俺達が逃げもせず、飛び立ちもしなかったのか考えなかったのか?木、草、岩なんてものは我らが王には関係ないんだよ。土地渡りの能力ですり抜けるんだよ。そして獲物までの最短距離を逃げる気力さえ失ってしまうスピードで駆けて喰らうだけさ。当然の事ながらお前の糸なんざ問題にならねぇよ。でもいつもの王最大の武器である牙を使った闘い方をしないからどうしたのかと思ったが、ハハッ王はお前の糸でちょっと遊んだだけみたいだったな。このジャングルのシンプルなルール、【王に狙われたら死ぬ、逃げても無駄。王の糧になることを光栄に思い、死を受け入れろ】お前はこのジャングルの住人じゃなさそうだが、それでも普通出会った瞬間に気付くだろ馬鹿が。まあ王に負けないようにするためには、そうだな、お前自慢の糸で首を吊るしかなかったなハハハハハッ。それじゃ楽しませて貰ったわ。お疲れさん」
ツチグモの顔が絶望に歪む。
「許してくれ。おい頼むよ。もう悪さしねえからよ。」
アポロはツチグモの頼みを意に介さず、また地面を爆発させて上空に飛び上がる。
アダムが名付けてくれたこの技、『壁紙はずし』で今度こそツチグモの息の根を止めると決めて。
ツチグモは勝算がないと悟り、防御もせず、目を閉じて命を奪う一撃をせめて苦痛がないようにと祈りながら待った。
しかし体に感じた衝撃は、ビタンッと何か柔らかい物体が体に当たるようなものだった。
ツチグモが不思議に思い目を開けると、いつもの荒野に戻っていた。
背中に当たった物体はアポロ。
ぶつかった衝撃で荒野を転々と転がり、アダムの近くで止まった。
アポロは最後の一撃を決める前に、生命の維持が難しい程までオーラが低下してしまったのだ。
そのため元の姿に強制的に戻ってしまい、それに引きずられてスキルも停止し、
元の荒野に戻ってしまった。
アダムは仰向けで瀕死のアポロの方に這って進む。
「ようアポロ無事か?・・・無事なはずねえよな。凄かったもんな。ちょっと前までは俺の方が重症だったのに、今はお前の方がヤバいな」
アポロは首だけを、手入れのされていない機械のようにギギギッとゆっくりと動かし、アダムを見る。
「ごめんなしゃいでしゅアダム。アポロはツチグモを倒せなかったでしゅ。アダムとサオリンだけでも死なないで欲しかったでしゅのに・・・」
アポロは目の毛細血管が破れてオーラの涙を流している上からさらに涙を流す。
「何言ってんだよアポロ。お前はよくやったよ。お前の“壁紙はずし”最高にクールだったぜ。それにお前一人だけ死ぬなんて馬鹿な事言ってんじゃねえよ。俺はお前の兄貴だぜ。安心しな、お前に寂しい想いなんてさせねえよ。俺も一緒に逝くよ。ただ・・・サオリンにはアポロ、一緒に謝ってくれるか?」
「もちろんでしゅよアダム」
「へへっありがとよ。アポロがいたら心強いぜ。俺一人ならまた頭割られるところだよ」
二人はあと少しで命の灯が消えるような重体でありながら笑い合った。
「おしゃべりは終わりか?いつもなら苦しめて殺すところだが、お前達は油断ならん。いますぐ確実に殺す」
ツチグモは容赦なく前脚を振り下ろす。
「縛鎖!」
透き通るような声でいて、反抗を許さない強い意志のこもった声が荒野に響く。
その一言でツチグモが動けなくなる。
「おっおまえは!なっ何でここにいるんだ!俺の爪はお前の魂を、精霊化出来ないほどズタズタにしたはずだろが!」
ツチグモが恐怖に怯えながら叫ぶ。
アダムとアポロの二人も目を疑う。
そこにいたのは病院にいるはずの沙織だったのだから。
沙織はツチグモを無視し、二人に近づく。
「な~にしてんの二人共~。私を除け者にして楽しい事してるんじゃないでしょうねぇ〜」
サオリンは満面の笑顔で二人の顔を覗き込んだ。
「ちょっと待てサオリン。なんでここにいるんだ!」
「う~ん?二人がここにいる気がしたからかな~」
沙織は答えながらアダムの体にオーラを分け与える。
「テメエ何してんだよ!」
「治療に決まってるでしょ?」
「だからそれを言ってんだよ!ただでさえ少ないオーラを分け与えてどうすんだ!」
「いやいやアダムさん、君はほっといたら死んじゃうからね。治療するのは当たり前でしょ?でもごめんね、最低限しかしてあげられない。アポロにもしなくちゃいけないから」
「シャっシャオリン、駄目でしゅ。治療いらないでしゅ」
「な~に~この沙織母さんのオーラが食べられないって言うの!好き嫌いは駄目だよアポロ」
アポロの言うことを無視してオーラを注入していく沙織。
二人は何とか命を取り留める事が出来るほどに体力が回復した。
「オッチャンがここに連れてきたんだな。あいつぶっ飛ばしてやる」
「恐いよアダム。大家さんは関係ないから。私が本当に無理言って穴を通らして貰ったの。それじゃ二人共元気に過ごすんだよ」
そう言うと沙織は二人の声を無視し、ツチグモの前に進む。