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ツチグモハント ⑨

「アポロがツチグモを倒しましゅ。アポロがサオリンとアダムを守りましゅ!アポロはサオリンとアダムを愛してましゅから。今ならアダムが読んでくれた人魚姫の気持ち分かりましゅよ」


そう言ってアポロはアダムに満面の笑顔を浮かべる。


「人魚姫だと?・・・お前死ぬ気か!止めろアポロ!」


アダムの必死の呼び止めにも関わらず、アポロはツチグモの前に立つ。


ツチグモはアダムに貫かれた半身の再生を完了し、自分の前に立つアポロを見る。


「なんだ今度は逃げてた猫が相手してくれるのか?いいぜ、クソ犬は近づくと何するかわかんねぇからな。あいつが死ぬまで遊んでやるよギャハハッ・・・?」


ツチグモはアポロから溢れ出る眩い光に困惑する。


アダムは見覚えのある光、力に声を失う。


「アッアポロ、この力は神様の力じゃねえか!・・・そうか、あいつがあの世界滅亡クラスの力を持った神様がうじゃうじゃいるインドの森で数百年彷徨うことが出来たのはそう言う訳か。でもこんな力にアポロが耐えられるはずがねえ。おい、やめろ!お前だけでも逃げろ!」


瀕死の重傷を負ったアダムが必死に叫ぶがもうアポロには届かない。


一度力を解放するとトラの本能が相手を八つ裂きにするか、


アポロの力が尽きるかのどちらかしか止まらない。


「アポロから大切な家族を奪おうとするお前を絶対に絶対に許さないでしゅーーー!」


アポロからさらに眩しい光が放たれ、ツチグモは前脚で目を覆う。


やがて光が治まり、目が慣れたときツチグモは驚愕する。


キーキーキーッ

キャッキャッキャッ

ガサガサガサ


「・・・どこだここは?うっ嘘だろ?嘘だよな?荒野だったじゃねえか!なんでジャングルになってんだよ!」


ツチグモは何が起こったかさっぱりわからないが、


さっきから本能が全力で危険だと警鐘をならしている。


ツチグモは本能に従い、この状況を変えるため、危険だがアダムを人質に取ろうと考えた。


ツチグモがアダムのいたであろう場所を見るが、そこにアダムの姿はなく、


それどころかオーラを垂れ流していた形跡すらない。


ツチグモの本能がさらに一段階大きな警鐘をならし始める。


ツチグモはジャングルを抜けるため走った。


「クソクソ!何だってんだここは!ジャングルを作るスキルにしても広すぎるだろが!」


いくら草をかき分け走っても、ジャングルを抜けることが出来ない。


そんなツチグモの姿を馬鹿にするように、周囲の動物達の鳴き声が大きくなる。


「黙らねぇか!雑魚共が」


ツチグモの焦ってキレる姿が、たまらなく面白いと言わんばかりに、さらに鳴き声が大きくなる。


その時、


「カロロロロ・・・」


森が一瞬にして静寂に包まれる。


その事をツチグモは不思議に思わなかった。


なぜなら体で理解してしまったからだ。


密林の王者が現れたと。


その絶対的支配者の威嚇音を聞いただけで体中に剣を突き刺されたような感覚がした。


今まで自分を笑っていた動物達は逃げたのか?いや逃げていない。


飛び立つ音さえも聞こえなかったのだから。


動物達は木の陰で息を潜めているのだ。


自分が間違っても標的になりませんようにと願いながら。





大家は神降ろしで出来た通路を、何人もの陰陽師達がオーラの使いすぎで倒れていく中、懸命に維持していた。


「ぐっアダムとアポロはまだか!もう二十五分は経過したぞ。西九条さんの寿命まであと十五分だぞ・・・」


大家の脳裏に失敗の二文字がよぎる。


それならまだいい、消滅の二文字もちらつき始めた所で大家は頭を振る。


仲間を信じて待てない自分の不甲斐なさに憤りを覚える。


そんな葛藤を演じていた大家の背後に、何者かの気配を感じ、大家は振り返る。


「なっなんであなたがここにいる・・・」





ツチグモはガサガサと音を立てる目の前の草や木から目が離せなかった。


もうすぐここに現れるであろう者は、自らが王であることを知らしめるように、


音を立てることなど微塵も気にせず、強者が弱者を踏みつぶすように草を踏み分けてくる。


その歩みは傲慢、狩人でありながら殺気を一切押さえる事をせず、


淡々とツチグモに近づいてくる。


ツチグモは動く事が出来ず、まるで王の配下であるかのように、じっと静かに王を待った。


パキッ。


地面に落ちている枝の折れる音が響くなか、


遂に王がジャングルからゆっくりと姿を現した。


出てきたのは体長五メートルを超える巨大なトラとなったアポロだった。


ツチグモはホッとした。


それはツチグモからすれば問題にならない大きさだったからだ。


これなら体格差で圧倒出来ると思ったが、草木越しでなく、


直接その血のように真っ赤に染まった瞳で殺気をぶつけられたツチグモは、


金縛りにあったように全く動く事が出来なかった。


あまりの事態に自分の脚が糸で絡め取られていないか確認するほどだった。


しかし糸などあるはずがなく、ただ自分の意思とは関係なく震える脚を見ただけだった。


『チッ何なんだよコイツは!俺の脚が震えるなんてアイツ以来じゃねぇか。クソッ嫌な事を思い出しちまったぜ。とにかく会話して、罠を仕掛ける時間を稼ぐしかねえ。コイツと準備なしで喧嘩するなんて馬鹿のやることだ』


ツチグモは会話を試みようと、固まった全身に活を入れ、アポロに近寄っていく。


「よう、立派な姿になったじゃねえか。見違えたぜ。おいおい、そんなに睨むなよ。喧嘩するにもルールがあるだろ?さあ握手だ。正々堂々やろうぜ」


ツチグモは前脚をアポロの前に差し出すが、それには赤いものが付着していた。


そうアダムの血だ。


それを見た瞬間アポロの理性は消え失せた。


「ガルゥゥゥゥウアアアーー」


耳をつんざかんばかりの怒りの咆哮がツチグモに叩き付けられ、


次の瞬間、アダムの地雷が爆発したのかと思うほどの土砂を巻き上げ、


アポロはツチグモの視界から消える。


「チッチクショウ!何だってんだ。話も出来ねえ獣になっちま―」


ザクッ、外皮を切り裂かれる感触とともにとんでもない衝撃がツチグモを襲い、


巨大なツチグモの体がいとも簡単に転がされる。


「何だ、何が起こった?」


原因を探るため、衝撃を感じた場所を振り返ると、


そこにはまた爆発音とともに大量の土砂が巻き上げられるのを見ただけだった。


「アイツは何処だ。あのクソトラ―」


ザクリッ今度はツチグモの目が切り裂かれる。


「ギャアアアアアァァァァ」


切り裂かれる刹那、ツチグモは見た。


アポロが周りに生えている巨木を落下しながら蹴り飛ばし、


その度ごとに猛烈な加速をしながら体当たりのような爪撃をしていることを。


そしてまたすぐにツチグモの目の前で爆発音と共にアポロが消え、


巻き上げられた大量の土砂がツチグモにかかる。


「あの野郎!俺をコケにしやがってーーー!」


怒りの余り再生する事も忘れ上を見る。


必死にアポロの動きを追うが、落下までに十回以上不規則に木を蹴っているようだ。


『ようだ』というのは、ツチグモにはアポロの動きが見えないのだ。


ただ、上空にこだまする木を蹴る破裂音と樹皮が花火のように飛び散る様から推測したにすぎない。


その直後、またツチグモの体に衝撃が走る。


「クソ!見えないってどんなスピードだよ!速すぎんだろが!」


ツチグモは体を丸めて防御に徹する。


ドンッザク、ドンッザク、ドンッザク・・・と、防御していようが関係なしにアポロは攻撃をし続ける。


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