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ツチグモハント ⑧

「ヒャッ!こっちに来たでしゅ」


アポロは隠れていた岩から離れ、隠れることが出来そうな岩場を目指して精一杯走る。


しかしツチグモとの距離は縮まるばかりだ。


後ろを振り向くと遠くで見ていた時と違い、ツチグモの巨体を目の当たりにし、


恐怖したことで脚がからまり転びそうになるが、なんとか持ちこたえて走った。


三者がそれぞれ必死に走るが、逃げるアポロにツチグモが追いつきそうになる。


ツチグモはアポロが攻撃範囲に入った瞬間、アポロの脚を千切って捉えようと考えた。


ツチグモにとってアポロは交渉材料にすぎない。


オーラが体から漏れるぐらい傷ついた方が、交渉が有利に進むかもしれないぐらいにしか


アポロの存在を考えていないのだ。


ついに前脚の攻撃範囲に入ったアポロに向けて、さながら死神が鎌を振り抜くように前脚を振り抜いた。


「ヴィーーン、ウォン」


それと同時にアダムがバイクを蹴飛ばし、アポロに飛びつく。


ツチグモの前脚より一瞬早く、アダムがアポロを抱きかかえ 、


五十メートルほど地面に叩きつけられながら転がっていく。


「おいおいアポロ。まだ俺は交代って言ってねえぞ。出て来たら駄目じゃねえか」


「あっあ・・・」


「怪我はねえなアポロ?間一髪だったぜ。サオリンが良くなってもお前がいないんじゃ意味ないだろ?ちょっ何泣いてんだよ」


「だっだってアダム、背中からオーラが漏れて―」


「大丈夫だよこのぐらい。この探偵服の下に防弾チョッキ着てるからよ。見た目ほど大した怪我じゃねえよ。それより恐い思いさせて悪かったな。俺があいつをサクッと始末出来れば良かったんだけどな。映画みたいにバイク乗ったまま攻撃なんか出来なかったわ。また公園で一緒に練習しようぜ」


アポロには饒舌なアダムの態度が自分のダメージを覆い隠そうとする嘘だとすぐに分かった。


こうしてる間にもオーラが漏れて止まる気配がないのだから。


「じゃあツチグモにトドメさすから良くみてろよ」


アダムはツチグモに向けて新しい武器を創造する。



ガチャッ、引き金を引き、狙いをツチグモに向ける。


「対戦車ライフルだ。こいつでツチグモの頭からケツまで風穴をあけてやるぜ!ツチグモの核は今まで戦った感触だと中心線上にある。脚とか体の外皮を吹き飛ばしても何とも思っちゃいねえからな。あいつには超回復能力があるからかもしれねえが、それでも核の近くを攻撃されたら動揺は隠せねえはずだ。それを今まで見せたことがないっていうのが答えだ。この一撃でツチグモを消滅させてサオリンを助ける」


ツチグモはアポロを串刺しにする事だけを考え、


止まる事を考えていなかったため、前脚を振るった事によりバランスを崩し、


アダム同様地面を数十メートル転がりやっとのことで止まった。


ツチグモはアポロの串刺しに成功したと思った瞬間、


横から獲物を掠め取られたのが分かり、


一瞬悔しい表情を浮かべたが、すぐに気味の悪い笑顔に変わる。


「ギャハハハッ肉を抉る感覚だ。深ぇ、深ぇぞあいつの傷は!形勢逆転だ。後はトドメを刺すだけだ!」


ツチグモは周囲を見渡した。


すぐにアダムを発見したが百メートルは離れている。


ツチグモは一瞬迷う。


「あいつが力尽きるのを待つか?いや、あいつが回復手段を持ってないと何故言い切れる。武器が作れるんだ。傷を治療する能力の一つや二つ持っているかも知れねえ。もし持っていたら俺は終わりだ・・・チクショウがー!結局博打じゃねえか!」


さっきまでアポロ目指して走っていたツチグモは、今度はアダム目がけて走り出す。


アダムが攻撃の準備を済ます前に、今度こそ間に合うようにと願いながら。


アダムまで40メートル付近まで近づいた所で巨大なライフルがツチグモの目に映る。


「クソッたれがーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


今ここで止まる事など出来ない。


隠れる場所が何もない荒野で止まってしまえば単なる的になってしまう。


「あいつの撃つ気配を感じ取って避けるしかねえ」


ツチグモは直進しながら左右に動くことでアダムの撃つ気配を少しでも感じ取ろうとする。


しかしアダムは完璧な動きでツチグモを捕捉し撃つ気配を微塵にも感じさせない。


「チクショウ!あいつにとって俺はそこいらの雑魚を仕留めるのと変わんねえって事かよ」


自分が消滅するイメージが脳裏に浮かび始めたその時、ツチグモはアダムから違和感を覚える。


それは気配というあやふやなものを、もっとあやふやにしたもの。


気配から漏れ出た気配と言うべきものを感じ、その瞬間全力で横に飛ぶ。


ズガンッ


という音が聞こえた時には左半身が貫かれていたが、幸いにも核は貫かれていなかった。


しかし体の大部分を失ったツチグモは立つことが出来ず地面に倒れ伏す。


追撃を警戒し、顔だけはなんとか動かし前を見た。目の前に銃口はなくなっていた。


「これは・・・俺は博打に勝ったのか?・・・フフフッヒヒヒッギャハハハハハッ」


「アダム!アダムー!」


「チッチクショウ、下手打っちまった。いや撃っちまったかヘヘヘッ・・・アポロ逃げろ!今すぐオッちゃんの穴に飛び込ゴハッ」


装備していた物はすべて消滅し、アダムは仰向けに倒れ、口からもオーラを吐く。


アダムのツチグモの狙撃は完璧だった。


ただ唯一の誤算は背中の傷からオーラが漏れ出たせいで銃を維持するためのオーラが足りず、


時間制限ギリギリで撃ったことだ。


その事によりほんの、ほんの少し心が揺らいだのだ。


それでもアダムの狙撃に外見上一切の乱れはなかったが、相手が最悪だった。


今回の相手はツチグモだ。


数百年の間、敵の心の弱いところを突き、勝利を収めてきた妖怪だ。


誰も気付くはずのない心の揺らぎにツチグモは気付いたのだ。


ツチグモもこの能力を自覚していた訳ではない。


極限まで追い詰められることで、アダムにとって最悪なタイミングで才能が開花したのだ。


「でもアダムをこのままにしてなんて行けないでしゅ」


「馬鹿野郎!俺の事なんていいんだよ。俺は世界一のスパイのスパイ犬だぜ。生きてる時から死を覚悟してたさ。俺の事なんか忘れろ。お前はもう一人なんかじゃねえ。ミッチーもいる、オッちゃんもいる、サヤカーンもいる、みんなお前に寂しい思いなんかさせねえよ」


そう言ってなけなしのオーラでハンドガンを創造する。


「さあ行けアポロ!」


アダムは震える手でアポロに狙いを定めるが、アポロは泣きながら首を横に振る。


「アダムが僕を撃たないのを知ってましゅ。アダムは優しすぎてスパイにむいてないでしゅ。グスッでもアポロはそんなアダムと一緒がいいでしゅ。アダムとサオリンと一緒にいたいでしゅ。ミッチーもオッちゃんもサヤカーンも良いけど、僕はアダムとサオリンと一緒が良いでしゅ」


「だからそれが無理だって言ってんだろ!理解しろ!」


アポロは両手で涙を拭い、アダムに微笑ながら言う。


「方法はあるでしゅ。上手くいくか分からないでしゅけど。・・・アポロはアダムとサオリンと一緒にいられて幸せだったでしゅ」


「おい、待てアポロ。お前一体何をするつもりだ?」


アダムは思い出す。マハルが、道真が、大家がアポロに一目置いていたことを。


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