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ツチグモハント ⑤


さらに時が経過し、大家がついに筆を置く。


「ゼーッゼーッゼーッアダム、アポロ準備はいいですか。ツチグモに繋ぎます」


大家は最後の力を振り絞り神降ろしの祝詞を唱える。周りの陰陽師達もそれに追従する。


「―ツチグモ、絵に宿り我に力を貸したまえ!」


直後、絵の上部に円形の空間の裂け目が現れる。


本来ならそこから神が降臨し絵に宿るはずだが、


予想通りツチグモは降りてこず、ただ裂け目だけが浮かんでいる状態になっている。


「皆、この状態を四十分維持しろ!アダムにアポロ、この穴は道真様が予想された西九条さんの寿命の時間だけ維持します。というよりそれが限界です。閉じる前にはこの鈴を鳴らします。意味は分かりますね?・・・倒せない、時間がオーバーすると感じたらこの穴に逃げ込んでください。私は西九条さんの願いも叶えたいのです。アダム、アポロ、お二人は本当に良い精霊です。もし・・・いや続きは全てが終わった後で」


「至れり尽くせりだな。オッちゃんありがとよ。そうかあと四十分もあるのか、お釣りがくるぜ。まあそんな心配そうな顔すんなよオッちゃん。俺も日本に来るときにサオリンと約束したからよ。アポロの面倒を見るってな。無茶せず必ず帰ってくるよ」


「オッちゃんありがとうでしゅ。皆ありがとうでしゅ~。帰ってきたらアポロ特製ホットケーキを食べさせてあげるでしゅ~」


「ハハハッじゃあ後日、ここで宴会ですな。それじゃ二人共いきますよ」


そういうと大家は右手でアダムの頭を、左手でアポロの頭を掴む。


「うん?何してんだ?」


「痛いでしゅよオッちゃん」


「これは降ろす術ですからね。降りるのは簡単ですが、昇るのは難しい。お二人が飛ぶことが出来れば良いんですが無理でしょう?だから私が精霊界まで投げてあげますハハハッ」


二人の頭に過去の出来事が脳裏をよぎる。


「ちょっちょっと待―」


「ご武運を!またあのアパートで三人暮らせますように・・・・・でも帰る家メチャクチャだけどごめんネーーーーー!」


大家は叫びながら、アダム、アポロの順番で、


オーバースローで裂け目に向かって投げ飛ばす。


「「ギャアァァァァァーーーー」」


「サオリンといい、オッちゃんといい、陰陽師ってなんで精霊を投げんだよ!って言うかお前メチャクチャってどういうことだ!俺達の家壊しすぎだろーーーーー!」


アダムの文句が大家に届かないくらい、二人はもの凄い速さでグングンと上昇し、


そして消えた。


「・・・アダム、アポロ、後は頼みましたよ・・・グフッ皆、私は十分ほど倒れま・・・」


「「「当主!」」」


「放っておけ!今は馬鹿息子が命がけで開いた穴を維持するのが最優先。二十年ぶりに帰ってきたと思ったら親をこき使いおって。これが終わったら当主に相応しいように鍛え直してやるわ」


大家の父親は息子を見て微笑む。


子供の頃から変わらず人の幸せを願っている息子を見て。




アダムとアポロは長いトンネルをくぐり抜け、


精霊界に飛び出るとそこはまるで血でも吸ったかのような赤い荒野だった。


草など生えておらず、大小様々な石がゴロゴロしている。


常に吹く風は赤い砂を舞い上げ血飛沫のようだ。


それはまるでこれから起こる闘いを喜んでいるかのように見えた。


その荒野の30メートル先に巨大な蜘蛛がこちらにお尻を向けたまま食事をしている。


アダムはこの幸運に感謝し、アポロを抱えて二人が隠れられる大きさの岩に向かってダッシュする。


「フーッオッちゃんの言う通りツチグモは召喚に応じる気はねえようだな。ガン無視だぜ。でもそのおかげで俺達は気付かれずにすんだな。じゃあアポロ約束だ。攻撃の先手は俺だからよ。お前は俺が交代というまでここに隠れててくれよ」


「りょっ了解でしゅ。ツッツチグモ・・・けっ結構大きいでしゅね」


抱えているアポロの全身から震えが伝わってくる。


アダムはアポロの頭をポンポンしながら言う。


「そうだな大きいな。でも俺はインドでもっと大きな奴とも戦ったことがある。そいつに比べたらツチグモなんて屁でもねえぜ。だから悪いなアポロ、残念だがお前の順番は回ってきそうにねえよ。ホットケーキ一枚お前にあげるからよ。今回は俺に譲ってくれよ」


「しょっしょうがないでしゅね。アダム気を付けるでしゅ。怪我しないでね」


「了解」


アダムは、もう一度アポロの頭をポンポンしてから一人岩から出て歩き出す。


その顔は大家を彷彿とさせる真剣な顔である。


しかし唯一違うのは、アダムは集中しているのではない。ブチ切れているのだ。


汚ねぇケツを向けているあの野郎がサオリンの命を蝕んでいる張本人だと思うと、


何度冷静になろうとしても怒りが治まらない。ご主人様を失った時と同じだ。


アダムは死んでから二百年は経つというのに成長していない自分に少し笑ってしまう。


しかしアダムはそれでいいと思った。


沙織をあと数十分で失うかもしれないのに冷静になれる訳がない。


あいつを絶対に倒す。アダムの覚悟とともに体からオーラが吹き上がる。


そのオーラは次々と姿を変えていく。


アダムの体を靴、ワイシャツ、ネクタイ、スーツが包み込む、


その上にスパイ御用達のトレンチコート、さらに中折れ帽がアダムに装備される。


その後もオーラはアダムの周りで様々なものに変化しコートの中に収納されていく。


アダムとツチグモまでの距離が十メートルまで迫った時、ツチグモは振り返る。


「誰だ?」


「オイオイずいぶんとのんびりしてんなあ。ここまで接近を許すなんて油断しすぎじゃねえか?」


ゆっくりとツチグモは振り返る。


その体は黒く体高は五メートル、体長十五メートル程あり、


岩でさえ穴を開けそうな太く硬い脚が八本胴から生えている。


そして顔には血に飢えた肉食獣のような目が二個あり、


その下にある大きな口からは、長く強靱な犬歯が下顎から生えていた。


「ギャハッこの辺りの獲物は全て刈り尽くしちまって、次は何処まで狩りに行こうかと悩んでいた所にそちらから近づいて来てくれるんだからな、気付かないふりでもしないと罰があたるだろ?ギャハハハハッ」


「なんだお見通しだったのかよ。え~とツっツチいやツ・・・わりぃ名前なんだっけ?」


アダムは右手をおでこに当て必死に目の前の巨大な蜘蛛の名前を思い出そうとする。


「ギャハハッここで俺に食われるのに聞いてもしょうが無い気がするが、まあ聞いて絶望に顔を歪めろよギャハハッ。俺はツチ―」


ツチグモの目が白い煙を捉えたと思うと爆音と共に顔半分が弾け飛ぶ。


「ギャアアアアアアーーーー!」


「次は何処まで狩りに行こう?もうそんな心配なんかしなくていいぜツチグモ。俺はお前に死という罰をあてに来たんだからな」


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