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ツチグモハント ④

アダム達が進んでいくと、でかい建物の前に一人の男が立っていた。


その男の両隣には雪が積もった玉砂利の上に、正座させられている男女が並んでいる。


「ハーイよく来たネ!アダム、アポロ」


立っていた男は大家だった。


「オッちゃんじゃねえか・・・いやオッちゃんか?」


「気をつけるでしゅアダム!何かおかしいでしゅ。密林の王者の勘がオッチャンだけどオッチャンじゃないって言ってるでしゅ」


「アダムにアポロ、間違ってないヨ。オッちゃんだヨ。ただ沙織さんの部屋の壁画を壊して魂が肉体に戻ったので違和感があるかもしれないネ」


「壁画を壊した?まあいいや。驚かすなよオッちゃん。しかし・・・前にオッちゃんが言ってた『子供の時に祓う対象として二人に会わなくてラッキーだった。確実に死んでた』ってそりゃ謙遜しすぎだぜ。敵意を向けられていない今でもゾッとするぜ」


「オウ!それは最高の褒め言葉デース。こいつ等を全員ぶっ飛ばした時よりも嬉しいデース」


アダムは正座している者達をよく見る・・・全員痣と傷だらけだ。


「おいおいどうしたんだよオッちゃん。暴力振るうなんてらしくねえよ」


「いやっミーも暴力は嫌いヨ。でも『何年も家を離れておいて今更力を貸してくれなどと調子が良すぎるわ。それとも当家に伝わる全員一斉組み手で当主の証を立ててみるか?』って言われたから、ちょうど今さっき全員しばき終わって当主になったところヨ」


「ハハハッ無茶苦茶だなオッちゃん。じゃあ一緒に戦ってくれんだな?心強いぜ」


「ノーノーアダム。ミーは一緒に行けないヨ。ミーは西九条さんとは違いマース。精霊化して精霊界に入る事なんて出来まセーン。一緒に戦えなくてスミマセーン。私に出来ることは道案内だけデース」


「そうか、そうだったな、残念だ。まあ始めからアポロと二人でやるつもりだったから気にすんなよ。そういやクモ野郎の居場所どこか聞いてなかったけどそうか、精霊界に引きこもってんのか。じゃあどうやって俺達をそこまで連れて行くんだ?」


「フフーンッ。ミーがなんで魂を回収しなければならなかったか?答えは出てると思いますけどネ」


「まさかオッちゃん!」


「そうデース!ツチグモを神降ろししマース」




アダムとアポロはこの計画が上手くいくのか急に不安になってきた。


「・・・要するにツチグモを神降ろしするけどあいつは拒否るから、逆に神降ろしの際に出来た穴に飛び込めばツチグモの近くに行けるってことか」


「さすがアダムでーす。その通りデース」


「おいおい大丈夫なのか?オッちゃんはさっき魂を回収したばかりだから実験なんかしてないだろ?」


「実を言うとミーもちょっと不安デース。ただ道真様は何度か神降ろしで呼ばれた経験があるらしいデース。全部シカトしたらしいですけど、自分の十から三十メートル前くらいに穴が現れるらしいデース。だからその穴通れば行けるだろ、楽勝だろ?って軽い感じで言ってたヨ」


「あの野郎!時間があれば戻ってサヤカーンに全速力で拝殿に突っ込んでもらうのによ。まあグダグダ言ってる時間もねえ。早速頼むわ」


「了解ネ。今準備させてるけど、あと五分待ってて欲しいヨ、二人ももうすぐ自分の命だけじゃなく、西九条さんの命までもかけた戦いが待ってるヨ。気持ちを整えていて欲しいヨ・・・それと、あーっうんゴホン。アダムにアポロ、西九条さんは日本全国で、私達では大きな犠牲が出るような凶悪な魔と一人闘い続けてくれました。この中にも助けて貰った者がいるでしょう。そんな西九条さんがこのまま死んでいくなんてあっていい訳がない。あんな優しい良い子が死んでいい訳がない。私はそんな運命なんて認めない。我々が全力でお二人をツチグモの元まで送ります。どうか西九条さんの命を救ってください」


大家はアダムとアポロに涙混じりの声で頼みながら頭を下げる。


「オッちゃん頭を上げろよ。オッちゃんの覚悟はよ、あの絵をぶっ壊した事を聞いた時にすでに俺の胸に届いてるぜ。辛かっただろ。サオリンのためにありがとな。帰ってきたら一杯おごらせてくれ。サオリンを朝まで説教しようぜ」


「アポロも一緒に説教するでしゅ」


大家は涙を拭いながら二人に頷き、準備に向かう。


東九条家の陰陽師達も沙織の命が掛かっていると知り、誰もが走り回って準備を急ぐ。


中には泣きながら準備をしている者もいる。


大家が言ったように沙織に助けられた者かもしれない。


アダムはふと思った。こんなにも一生懸命準備してくれるのだから、


最初から丁寧に説明すれば、百人余りをしばかなくて良かったんじゃないかと。


しかし、今は自分達の最終準備をしなければと余計な考えを打ち払う。


アダムはアポロにツチグモと戦うにあたっての作戦を伝える。


「いいかアポロ、お前は向こうに行ったらすぐに隠れろ。一緒に付いて来てくれるだけで十分だ。」


「えっアポロも戦うでしゅ!サオリンを苦しめてる悪い奴でしゅから、この王者の右手で誰の家族に手を出したのか思い知らせてやるでしゅ。八本の手、全てをひねり潰すまでアポロは止まれる気がしないでしゅ!」


「ハハハッ頼もしいな。八本あるのは脚だけどな。お前のその家族を思う気持ち大好きだぜ。じゃあこうしよう!俺が最初に攻撃するからよ、交代って言うまでアポロは隠れて待っててくれよ。俺の攻撃がアポロに当たると悪いからさ。頼むよ」


「わかりましゅた順番でしゅね。先手はアダムに譲りましゅ」


「ありがとよアポロ」


二人が作戦を決めている間に、儀式を行う祭壇の準備が出来たようだ。


「アダム、アポロこちらに来て下さい。今から神降ろしの儀式を始めます。私が今からツチグモの絵を描きますからいつでも行けるように待っててください」


「了解。頼むぜオッちゃん」


「オッちゃんの絵、楽しみでしゅ」


大家は二人に微笑み、そして祭壇に向き直り歩き出す。


その顔にはさっきまで見せていた笑顔はなく、極限まで集中している大家がいた。


そしてそれは祭壇を取り囲む陰陽師達も同様だ。


祭壇には、中心に大家が絵を描くであろう一辺が20メートル程ある和紙と


数種類の墨と筆が置かれ、それを取り囲むよう四隅にかがり火が準備されている。


そしてさらにその外側を陰陽師達が取り囲んでいる。


ドンッと和太鼓が建物内に大きな音を響かせ、一斉にかがり火が焚かれる。


それを合図に陰陽師達は一斉に祝詞を唱え出す。


大家も祝詞を数分間唱えた後、ついに動き出す。


大きな筆に墨を大胆に漬け、迷い無く一気に筆を滑らしていく。


墨の濃淡を駆使して鮮やかにツチグモを表現していく。


二十四歳で筆を折り、それから二十余年絵を描いていないのが嘘のようだ。


二人は次第に形をなし詳細になっていく絵を目に焼き付かせようと凝視する。


『こいつがツチグモか』、『コイツを倒せば』そんな思いが二人だけで無く、


陰陽師達からも伝わり、祭壇は異様な雰囲気に包まれ、


日常と切り離された異空間の様相を呈し始めていた。


大家が筆をとってから五分程度しか経過していないが、


かがり火による熱とオーラを絵に大量に込めながら書いているせいであろう、


大家の服がすでに汗でビショビショに濡れ、額からは大量の汗が滝のように流れている。


大家ほどの力を持ってしても神降ろしは綱渡り的な儀式なのだ。


しかも今回呼び出す相手は友好的な神様ではない、敵だ。


絶対に召喚に応えないであろうツチグモである。


大家は道真の案内任務についての説明が、あっさりしたものだったのは


大家に対するメッセージ、絶対成功させろ、お前がしくじれば全てが終わるのだという


意味だと理解している。大家は道真の信頼に応える為、今限界を超えて筆を振るう。


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