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ツチグモハント ①

十二月、冬の京都の朝は寒い。


何故こんな場所に昔の人は都を置いたのかと毎年疑問に思うぐらい寒い。


ただここ京都では多くの歌人が、冬の寒さや春を待ち望む和歌を多く残している。


それらを思い起こせば、数百年の時を超え、


その思いを現代にすむ我々も共感することができ、


少し心が暖かくなる気がする。


また京都に降る雪は寺社を白く染め上げ、幻想的な風景を見せてくれる。


また春になり雪が溶けてゆく様は、数百年の歴史を持ち、


これからも歴史を重ねていく建造物にとって人間の命など数ヶ月の間ともにする


雪のように儚いものだと感じさせられる。今日はそんな雪の降る寒い日だった。





「朝でしゅよーサオリ~ン。今日も雪が降って寒いでしゅけど起きて欲しいでしゅよ~今日も雪合戦するでしゅよ~。今日こそ二人でアダムに勝つでしゅよ~」


八時半になっても沙織が起きないので、アポロが沙織の体の上に乗り、ユッサユッサと揺する。


「?・・・サオリ~ン・・・」


目を覚まさないので、アポロはいつもの最終手段である顔舐めを敢行する。


「!!!」


熱い。沙織の顔が尋常じゃなく熱い。


「たっ大変でしゅアダム。サッサオリンがおかしいでしゅよー!」


アポロは、テレビでニュースを見ているアダムに向けて叫ぶ。


「どうしたどうした。良く寝てんじゃねえか。もう少し寝かせてあげ・・・」


アダムは沙織にトテトテと近づき、顔色を確認するとアポロを突き飛ばし、


今度はアダムが体の上に乗り沙織を起こそうと体を揺する。


「おい!おいサオリン!おい!目を開けろ!」


アダムは沙織の頬を強めに叩き、覚醒を促すも何の反応もない。


「おいアポロ、サオリンのスマホ持ってこい!・・・どうしたアポロ!返事は!」


「ハッハイでしゅ」


アポロはアダムの真剣な様子に動転し、突き飛ばされたまま動けなかったが、


アダムの強い命令口調で我に返り、充電されているスマホを取りに走る。


「どうするんでしゅか?」


「オッちゃんに電話する。今すぐあいつに救急車を呼んで貰って、その後ここに来て貰う」


アダムは早速大家に電話をかける。幸いな事にすぐに繋がった。


「おはようございます西九―」


「オッちゃん、サオリンがヤベェ!今すぐ救急車だ。俺達は今からミッチーの所に行く。オッちゃんはすぐにサオリンの部屋まで来てくれ!」


それだけ言うと即座に通話を切り、アポロと共に神社に走る。


普段ならアポロの事を考えてゆっくり走るアダムだが、


今日はアポロを振り返りもせず走る。


アポロもアポロで普段ならすぐに息が上がって歩いてしまうのだが、


今はサオリンが心配で心配で自分の体が上げる悲鳴など聞こえない。


二人は一心不乱に雪の中を走る。


二人は神社に着くと、息も絶え絶えになりながらも鈴緒を掴み、


鈴が落ちてきそうな勢いでガッシャンガッシャンと振り回す。


「ゲホッ、ミッチー、ミッチーゴホッゲホッ頼むから出てきてくれ。サオリンが大変なんだよ!頼むよ、お前しかいねえんだよ!俺はサオリンを失いたくねえんだゲホッ」


「ゼーッゼーゲホッおっお願いしましゅゲーーホッ」


アダムとアポロの必死の呼びかけに応えるように、神社の拝殿がバンッと開く。


「アダムにアポロよ、よう来た。入れ」


アダムが救世主を見るような目で道真を見上げるが、


その姿はいつもの威厳に満ち、服装の乱れなど一切ない道真ではなく、


髪はボサボサで服は汚れている。しかし目の鋭さはいつも以上の道真がいた。


「どっどうしたんだミッチーその格好は?サオリンと何か関係があるのか?」


「関係があると言えばあるが、今はその説明をする時間すら勿体ない。違うか?早う入れ」


アダムとアポロは拝殿に飛び込んだ。


「ミッチーあれは何だ!サオリンのあの状態は!病気で死にかけてるなら納得出来る。でもアレは違うだろ、オーラがグチャグチャじゃねぇか!治す方法を知ってるなら教えてくれ!頼む」


アダムはミッチーに土下座をする。


アポロもアダムに習い土下座をする。


「二人とも面を上げい。さすがアダムじゃな。気付いたか、あの異常さに。では簡潔に言う。沙織は少し前まで陰陽師だったんじゃ。一年ほど前に妖怪ツチグモ討伐をしておったのじゃが、あと少しと言うところでツチグモは精霊界に逃げ込んだのじゃ。そこで沙織は精霊化して追いかけたのじゃが、罠にはめられての、魂に大きな傷を受けたのじゃ。今も魂に埋まった爪から毒素が絶え間なく出てきて命を削り続けておる」


アダムは今まで全く知らなかった沙織の過去をしって愕然とする。


「ちょっちょっと待てよ。サオリンが陰陽師?いやそれより精霊化だと?幽体離脱じゃなく?そんなことが人間に出来るのか?」


「沙織には出来るんじゃよ。ワシはあの子ほど才能に溢れた人間を見た事がない。お主達も知っておるアパートの大家も中々じゃが、沙織に比べればかわいいものよ。それで本題じゃが、沙織を助ける方法はある。精霊であるお主達しか助けられんが本当にやるか?先に言っておくが沙織はそれを望んでおらん。今のような状況になったのも、沙織は自分が危険な状況であることを知られれば、お主達が沙織を助けるために危険な橋を渡るかも知れないと思い、限界まで肉体の不調を押さえておったからじゃ。身に覚えは無いか?」


アダムは、沙織が最近、朝食の時間ギリギリまで寝ていることを思い出す。


アポロは、沙織がアポロの手作りホットケーキを少ししか食べなかった事を思い出す。


「沙織はお主達に消滅して欲しくないそうじゃ。だからもしもの時は二人を頼むと託されておる。お主達が沙織を助けに行かずともワシはお主達を非難せんし、これからもここでサヤカと楽しく遊んだらええ。それが沙織の―」


「「やるに決まって(んだろ)(るでしゅ)」」


二人は道真を、俺達を舐めるなという強い意志のこもった目で睨む。


「そうか・・・沙織は良き友、いや家族を持ったな」


ミッチーが、二人に向けていた厳しい顔が一気に笑顔になる。


「お主達の覚悟は分かった。沙織の命はあと二時間持つかどうかじゃろう。助けに行く前にこれを食べるのじゃ」


ミッチーは十段重ねのホットケーキをアダムとアポロの前に一つずつ用意した。


「これは朝からサヤカに作らせたホットケーキで、それにワシの力を込めたものじゃ。これを食べればお主達の能力は上昇するじゃろう。これを残さず食べよ。時間を心配する必要はない。お主達をツチグモの住処に送り込む準備にあと一時間はかかるじゃろうからな。ツチグモは強い。しかしお前達が力を合わせれば勝機はある」


二人は両手でホットケーキを乱暴に掴み取り、休みなく咀嚼する。


口にスペースが出来れば、そこにホットケーキをねじ込んでいく。


いつもならバター、蜂蜜、ジャムをつけて味わうそれらを、ただ作業のように食べ続ける。


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