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家出ホットケーキ ⑦

アポロは沙織に少し遅れて意気揚々と立ち上がり椅子の準備を始める。


「ほんと家を飛び出すほどの大喧嘩をしたとは思えねえな」


最後にアダムが微笑みながら立ち上がり、椅子を用意する。二人が沙織の横に立ち、手伝いをするとしても、実際にはもう肉を揚げるだけで手伝うような作業は残っていない。


油も適温に近づきアポロが尋ねる。


「なあサオリン。俺達がすることなんかねえんじゃねえか?」


「・・・汗」


「「えっ?」」


アダムとアポロは同時にサオリンの顔を見る。何か顔が赤い。


「あ~せ~!」


「オッオウ」


アダムは慌ててアポロにしたように沙織の汗を拭う。すると沙織はニコニコ顔で唐揚げを揚げ始めた。


確かにアポロの汗を拭いてあげたときサオリンが羨ましそうに見てたけど


そんなにやりたかったのかとアダムは思った。


「汗!」


さっき拭いてから一分も経たない内に沙織が指示する。


「はいでしゅ」


今度はアポロが目の前にあったキッチンペーパーを使って沙織の顔を拭う。


「これは汗拭き大臣の称号も手に入りそうでしゅ」


「バッ馬鹿野郎アポロ。お前はもう二つも持ってんじゃねえか。汗拭き大臣の称号は俺のもんだ」


二人は競うように沙織の顔を拭く。


「アポロは汗拭きだけじゃ無く、グルーミングもしてあげられるでしゅ」


アポロは沙織の頭に飛びつき、汗を拭きながらグルーミングをする。


「はいブーー!アポロ、今は油を使ってんだ。そんな危ない事をして良い訳ないだろ!」


「ハハハッそうだね。アダムの言う通りだよアポロ。グルーミングは嬉しいけど、油を使っている時はやめようね。それに汗拭き大臣はアダムが良いと私は思うなあ。だってアポロの顔を拭くのは汗拭き大臣が相応しいと思うから」


「そうでしゅね!サオリンの言う通りでしゅ。汗拭き大臣の称号はアダムに譲るでしゅ。明日もアポロの汗拭きヨロシク頼むでしゅ」


そう言うとアポロは納得したのか、沙織の頭から降りる。


「・・・称号欲しかったけど、なんか納得いかねえな・・・」


「アダム、汗!」


無事称号を手に入れたアダムが沙織の汗を拭う。


『まあサオリンがこんなに喜んでくれるなら良いかヘヘッ』


アダムの汗拭きは、唐揚げが揚がるまで何度も何度も続いた。


三人で力を合わせて作った晩ご飯はとっても美味しかった。


しばらくして沙織は、お腹いっぱいになって、へそ天で寝ている二人に提案する。


「ねえ、今日は泣いたり、汗一杯かいたりしたから皆でお風呂に入らない?今日の悪い事は今日の内に洗い流すってことで皆で洗いっこしようよ。もう準備はしてるんだけどね」


「嫌だ。俺は入らねえ。風呂なんか嫌いだ。いつも通りサオリンとアポロだけで入ってくれ。お風呂の強要はセクハラだからな!」


「何よ!むしろ感謝しなさい。こんな美少女に洗って貰えることなんてないわよ!」


「・・・ほうれい線気にする美少女がいてたまるか」


ガンッ


「イッテ~~!何すんだよ!」


「こっちの台詞よ!何覗いてんのよ。それこそセクハラよ!このセクハラコーギー!もう怒った。今日こそ、その汚れきった性格を泡だらけにして真っ白にしてやるんだから」


アダムを脇に抱えて強制的にお風呂に連れて行き、シャワーを浴びせる。


「ブワッこら止めろよサオリン!分かった、風呂入るからシャワーを当てるの止めてくれ」


沙織は、アダムが諦めたのを見てニンマリ笑う。


「サオリン、アポロにもシャワー当てて欲しいでしゅ」


「アポロはお利口さんだね。でもちょっと待っててね。服を脱いでくるからね」


沙織は急いで服を脱いで浴室に戻る。そしてアダムが大人しくしている今を逃してはならないと思い、お風呂を嫌がるアダムのために買っておいたシャンプーハットを被せる。


「なっ何だこれはサオリン!」


「へへーんっ!これはシャンプーハットって言うの。お風呂が唯でさえ嫌いなアダムの頭を洗ったときに、泡が目に入って痛い思いしたら、アダムはもっとお風呂が嫌いになっちゃうでしょ?そんなの嫌だから買っておいたんだ~。子供も最初はこれを使って慣れるのよ」


そういって沙織は手早くアダムの頭をワシャワシャと洗う。


「馬鹿野郎サオリン!世の中のダンディーを集めて固めたらアダムになったと言われてる俺にそんな子供が使うような物を使うんじゃねえ!取れ!俺は逃げも隠れもしねえよ」


「本当に大丈夫?あっ目は閉じてたほうが良いよ」


「うるせえ!苦手なもんから目を逸らしたり、閉じたりするのは弱え奴がする事だ!」


「いや、そんな精神的なもんじゃなくてね・・・」


「ハッ心配無用だぜ。俺はスパイだぜ!これでも痛みに耐える訓練をギャアアアアアアアアアアアアアーーー」


浴室にアダムの悲鳴が反響する。沙織は慌ててアダムの顔にシャワーをかける。


「目が、目があああーーどこだ?俺のシャンプーハットをどこへやったーー!」


アダムは、まだ目が痛いのか眉間に皺が出来るほど目を閉じながら、


手探りでシャンプーハットを探す。


「もう、だから言ったじゃない」


沙織は再びアダムの頭にシャンプーハットを被せてやる。


「すぐに洗い終えるからじっとしててね」


アダムは沙織になすがままにされながら全身を洗われていく。





「ふ~っやっと落ち着いたぜ」


アダムはお風呂のお湯で顔を洗いながら気持ち良さそうに言う。


「まったくアダムのせいでとんだ近所迷惑よ。泡がちょっと目に入ったくらいで悲鳴を上げて。本当にスパイだったのかしら?」


「アダム、シャンプーハット似合ってたでしゅよ」


二人も体を洗い終え、沙織はアポロを抱っこしながらお風呂に入る。


「ちょっ待て待てサオリン、さっきの反応こそ俺がスパイの証拠だよ。さっきのは擬態なんだよ。確かに泡が目に入って痛かったよ、だけど耐えられないものじゃなかったさ!でも痛がってる真似しないと痛みに対する訓練をつんでると見抜かれて、拷問官にスパイだってバレちまうだろ?だから一般人と同じリアクションしたまでよ。ちっ嫌な昔の癖が出ちまったぜ」


アダムは遠くを見て葉巻を吹かす真似をする。


「ダンディーを固めたらアダムになったって言うけど、嘘つきを固めてもアダムになるんじゃない?」


「あーっ言ったな。オッパイを押し固めて貧乳にしたらサオリンになるんじゃないですかー」


バシャッ


「ぷあっ何すんだよ!」


「こっちの台詞よ!アンタさっき洗ったばっかりなのに、性格の汚れは全然落ちてないみたいね!お湯を掛けたら少しは落ちるんじゃない?」


沙織は続けてアダムにお湯をバシャバシャと掛ける。それを見たアポロも真似してアダムにお湯を掛ける。


「二人共やったな」


アダムは二人にお湯を掛け返す。三人は笑いながらお湯をバシャバシャ掛け合った。



「「「ふぅーーーー」」」


「気持ちいいね!」


「気持ちいいでしゅ~」


「あー気持ちいいな。よしアポロ!俺が面白いものを見せてやる」


すると何かが浮かんできた。アポロは反射的にそれに飛びつく。


「ねぇアダム。今の何?」


「うんこだ」


バキッ


「あんた何してんの!体洗ったのに台無しじゃない。」


「サオリン待て。これは本当にわざとじゃないんだ。つい出ちゃったんだ。今日実は、アポロが最初のホットケーキ作ってる時、トイレにいたんだ。でもウンコの途中に台所で大きな音がしたから飛び出して最後まで出してなかったんだ。それで今お風呂が気持ち良くて気を抜いちゃったら・・・スルッと」


「・・・まぁ悪気がないってのなら・・まあね」


「本当に悪気はなかったさ。サオリンが出た後、一人で処理しようと思ったけど世話になってるから自首したんだよ。こんな美少女をうんこ風呂に入れさせちゃ駄目だって」


言われた沙織はまんざらでもなく照れている。


「もう!アダムったら。この正直もの!」


そう言ってアダムの鼻を指で押そうとした。


「あっ臭いのでやめてもらっていいですか」


「お前のうんこじゃろがい!」


アダムの頭を湯船に沈める。うんこと知らずアポロが飛びつき遊んだせいで、お湯は茶色く濁っていた。


「ホント酷い目にあったぜ」


「こっちの台詞よ。ホントに」


沙織は散々な目にあったが、顔は笑っている。今日は本当に色々な事があった一日だった。ケンカしたり、アポロが私の為を思って料理をしてくれたり、ダンディーなアダムが、私達をいつも見守ってくれているのを再確認したり、うんこ風呂に入らされたりと喜怒哀楽全てがあった一日だった。


沙織はベッドに入る。右にはアポロ、左には珍しくアダムがいる。二人はもう寝息をたてている。


「フフフッまた明日も一緒に遊ぼうね♪」


沙織は小さく呟き布団を被る。アダムとアポロの耳はピクピクと可愛く動いていた。



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