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家出ホットケーキ ①

アポロは思う。最近、沙織の様子がおかしいと。近頃の沙織は朝の時間ボーッとする時間が長く、アポロが起きてとせがんでも、五分は布団の中で動こうとしない。


沙織は最近月曜日、水曜日、金曜日の週三日、九時に家を出て十一時に帰宅し、十三時にまた出て行き、十六時頃にまた帰宅するサイクルだ。帰って来た時のサオリンは、初めの頃よりも元気がないようにアポロは思う。


そこでアポロは、大好きな沙織のために何か出来ないかと考えた。


「そうでしゅ。サオリンを元気づけるためにホットケーキを作るでしゅよ」


善は急げと、早速アポロは椅子を使って台所に登り、沙織がいつも使っているボウルを取り出して床に置く、卵を冷蔵庫からだそうとするが、さっそく卵を落としてしまう。


「やっちゃったでしゅ。そっ掃除は後でするでしゅよ・・・」


アポロは新しい卵を冷蔵庫から取り出してボウルに割り入れる。力加減が上手くいかず、ボウルに殻が入ってしまう。


「大きい殻は取れましゅたが、小さい殻が取れないでしゅ・・・ちょっとくらいいいでしゅ」


アポロは気を取り直しドンドン次の工程にいく。ホットケーキミックスを棚から取り出し、粉をボウルに入れようとするが、新品であったので粉を出す穴がなかった。


沙織は、粉の分量はホットケーキを作る上で重要なため、ハサミを使用して袋の上部を斜めに少し切るようにすることで、一気に粉が出ないようにしているが、そんな工夫をしていると知らないアポロは、沙織がお菓子の袋を開けている情景を思い出し、それと同じようにして開けようと袋の上部を左右に引っ張る。


「ぐぬぬぬぬ・・・なんで開かないでしゅか!でも諦めないでしゅ。サオリンの為に頑張るでしゅよ~~!」


アポロは顔を真っ赤にして袋を引っ張ると、アポロの手から出てきた爪が袋を傷付け、そこから一気に破れる。顔に、床に、台所に粉が飛び散った。


「まっまたまたやってしまったでしゅよー!そっ掃除を最後にするから大丈夫でしゅしゅ。袋に残ったこの粉を全部入れるでしゅ」


粉をボウルに移した後、アポロは、今度は牛乳を冷蔵庫から取り出してボウルに流し入れようとするが、牛乳はまだ沢山残っていたので重く、その上、粉がついて滑りやすくなったアポロの小さな手では、上手く支える事が出来ず、牛乳パックごとボウルに落ちる。


ボウルは牛乳パックが落ちてきた衝撃で、大きな音を立ててひっくり返る。


「どうしたアポロ!何かあったのか?」


アダムがトイレから飛び出てくる。


「ウッ... 」


部屋の惨状を見て声を失う。


「これは・・・ホットケーキを作ろうとしたのかアポロ?」


「そうでしゅ。サオリン最近疲れているみたいでしゅから元気づけたかったでしゅ・・・でも、でもグスン、全然上手くいかなかったでしゅーーーエーーーンエンエン」


アポロは自分が情けなくなり、お尻を床にペタンとつけ、脚を放り出し、両手で目を擦りながら泣いている。


「そうか分かったよ。これで涙を拭けよ」


アダムは手に持っていたトイレットペーパーをアポロに渡す。そして諭すようにアポロに言う。


「アポロ、サオリンはお前の気持ち分かってくれるさ。俺はそんなお前の優しいところが大好きだぜ。落ち込む必要なんかねえさ。でもそんな楽しい事するなら一言俺に相談しろよ。ずるいぞアポロ!ヘヘヘッ」


アダムは、アポロの頭をクシャクシャと撫でる。


「さあ、アポロ立つんだ。今から出来るだけ掃除するぞ。やってしまった事のケツは拭かなきゃいけねえ。あれっ?そう言えば俺ケツ拭いたっけ?まあいいや。このままじゃサオリンから何回ゲンコツを喰らうかわからねえから―」


無情にもドアの開く音がする。


「ただいっー!!!!ちょっとこれ何。台所メチャクチャじゃない」


「ごっごめんでしゅ。アポロが汚してしまったでしゅ」


「アポロがやったの?台所で遊んじゃ駄目じゃない。こんなに汚してどうするの。疲れて帰ってきてるのにさらに疲れさせないで。アポロがそんな悪い子だったなんて知らなかったよ」


「えっとえっとアポロはでしゅね、サオリン―」


「言い訳しないで。アポロはオヤツ抜き、反省しなさい!」


アポロの目に涙がどんどん貯まっていき、心の中でも沙織への不満がどんどん貯まっていく。そしてそれらは同時に堰を切ったように溢れ出す。


「サオリンの馬鹿~!美魔女~!実家に帰らせていただきましゅ~~~!」


「こらアポロ待ちなさい!また昼ドラで変な言葉を覚えて」


「まぁ待てよサオリン」


アポロを追いかけようとするサオリンをアダムが呼び止める


「何よアダム!早くアポロを追いかけなくちゃ行けないんだから。また迷子になったらどうするの!」


冷蔵庫を開け、中からスポーツドリンクを二本取り出し、リュックに入れているアダムに言う。


「今追いかけても喧嘩の続きを外でやるだけだぜ」


バタンッと冷蔵庫を閉めながらアダムが言う。


「そもそもサオリン。俺じゃあるまいし、アポロがサオリンにイタズラするはずないだろ。最近サオリン疲れてるみたいだからホットケーキを作って、それをサオリンに食べさせたら元気になるはずっていう、アポロらしい可愛くて優しい発想じゃねえか。サオリンならそれぐらい分かるだろ?それともそれが分からないぐらい疲れてんのか?どうしたんだよ最近、体調悪そうだし、イライラしてるぜ」


「そうだったの・・・ごめん・・・早く、早くアポロに謝らなきゃ!」


沙織は急いで追いかけようとドアノブに手をかける。


「だから待てってサオリン。追いかけるっていってもどこに行くつもりだ?子供でも密林の王者だぜ。本気で逃げられたら簡単には捕まえられないぜ」


「じゃあどうすれば良いっていうのよ!」


沙織が目に涙をためてアダムに訴える。


「ヘヘッアイツは『実家に帰らせていただきましゅ~~~』って言って出て行ったけどよ。あいつがここ以外に頼れる所なんてあそこしかないだろ?夕飯には帰ってくるからよ。アダムの大好物の唐揚げの準備でもして待っててくれよ美魔女さん。サオリンに怒ってもババアって呼ばないところもアイツらしくてカワイイじゃねえか」


アダムはドリンクを入れたリュックを背負い、ドアから出て行く。


「アダム。お願いね!」


ドアが閉まるその間際、隙間からニュッと出したその手は、親指をピンと立てて「まかせとけ!」と語っていた。


「それにしてもいきなり出て行くなんてアポロも何してんだよ。心配すんだろうが。あいつの昼ドラ好きには一言いってやらないとな」


アダムが文句を口にしながら、トテトテと道真のいる神社に近づくと、ギャーギャーと騒がしい声が聞こえてきた。


「やっぱりここだったか。アイツが頼るとしたらここしかないからな」


「ねぇミッチー!アポロは、サオリンにホットケーキを食べて元気になって欲しかっただけなんでしゅよ!台所は汚しちゃったでしゅけどそんなに怒鳴らなくても良いと思わないでしゅかミッチー」


「アポロよ、それは気持ちのすれ違いじゃよ。相手のためを思ってしたのに上手くいかないことなんて沢山あるんじゃ。落ち着いて考えてみなさい」


アポロは、道真が何を言っても納得出来ずにいた。


「やっぱりここかアポロ。急に出て行って心配したんだぞ」


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