アダムとアポロとサオリンと ①
開いて頂き、ありがとうございます。ほのぼのした話が好きな方、笑いたい方、戦いが好きな方、是非読んで行って下さい
「やって来ましたインド!3月なのにメッチャ暑い!」
西九条沙織は空港から出た後、肩まである髪をかきあげながら、猛烈に照りつける太陽を見るなり、旅行先にインドを選んだことを少し後悔した。
この旅行は別に沙織がどうしても行きたいと思ったから来た訳でもない。ある事件があり、知人が私の事を心配して、気分転換に旅でもしてきたらどうだと言うものだから、あまり心配をかけるのもどうかと思い、来たまでの話だ。
旅行先を決めるときも、たまたま頭に浮かんだのが、多くの人が耳にしたことがあるだろうキャッチフレーズ
“インドに行けば人生観が変わる”
それをポロッと口にしたら知人が大いに喜んだので、それで安心してくれるならと、はるばる日本から飛行機で十時間以上かけてインドに来たのだ。
「でも来てから言うのも何だけど人生観が変わると言ってもね~・・・私の命はあと一年保たないのに意味があるのかな?」
インドは独特の雰囲気の国だ。
世界三大宗教の一つ仏教発祥の地であるが、国民の八割がヒンドゥー教徒だ。日本人にとっても馴染みが深いヨガは、ヒンドゥー教の教えを実践するための修行方法の一つである。
そのため多くのインド人はヨガをやっている・・・と思いきや、実際にはやらない。特に若者にその傾向が強いそうで、日本でもよく言われる若者の○○離れが、インドではヨガがそれに当てはまるそうだ。
インド旅行をする決め手となった“インドに行けば人生観が変わる”というキャッチフレーズは、このヒンドゥー教と深い繋がりがあるとガイドブックに書かれていたので、ヒンドゥー教の寺院を見学して回った。
そこでヨガ行者を見たのだが、日本で言う座禅をし、瞑想をしていた。ヨガと言えば木のポーズやワシのポーズをイメージしていたので、ガイドに「お釈迦様がしているポーズと似ていますね」と尋ねたところ、「釈迦はヒンドゥー教徒だから当然」と当たり前のように言われ驚いた。
そのように考えているインド人が多いらしい。現地に行ってその国の人の考え方を知ることは旅の醍醐味だなと沙織は思った。醍醐味といえば現地の料理を味わうことも旅の醍醐味の一つだ。
あと、インドと言えば絶対にこれは外せない!カレーだ。
キーマカレー、ほうれん草カレー、チキンカレー、マトンカレー、豆カレー・・・日本ではお目にかかれない食材や、スパイスの配合の違いで本当に数え切れない種類のカレーがある。ガイドお勧めの店で沙織が食べたマトンカレーは、肉の臭みを取るために多くのスパイスが使われているのだが、それが舌の上で見事なハーモニーを奏で、沙織の大好きなカレーになった。
食事中、ガイドに本当に毎日カレーを食べるのかと質問すると、月曜にキーマカレー、火曜にほうれん草カレー食べ、その他色々なカレー食べていると、月曜にまたキーマカレー食いたくなると笑って答えていたガイドの説明に、沙織は生まれて初めてのカルチャーショックを受けた。
でも毎日カレーを食べて飽きないのかと聞くと、「私からしたら、日本人は毎日同じ味の味噌汁飲んでて飽きないのか聞きたいよ」と言い返された。なるほど!日本人おかしい。日本の文化を再発見するのも旅の醍醐味だなと沙織は思った。
そんなこんなで一週間かけて都市部を回った沙織はガイドと別れ、今度は道も禄に舗装されていない地方に足を伸ばした。都市部では、スーツを着ているサラリーマンも多かったが、ここでは男性はカジュアルな服装が多く、女性はサリーという民族衣装を纏った女性が多い。
日本では着物を着る人を街中であまり見かけなくなったが、日本も着物を着る人が増えれば素敵だなと思った。あと他には、おなかに刃物が刺さった人、頭に矢が刺さっている人が沙織の目に映る。
誤解しないで欲しい。この人達は生者でない。死者だ。
そう、沙織にはいわゆる霊感というものがある。ちょっと有り過ぎる位にある。沙織の目には霊、精霊、神様が人と同じように見えている。今すれ違った人は神様だ。腕が四本あり、像に乗ってこの地域を見守っているところを見るとおそらく土地神様だろう。
こんなにハッキリ見えてしまうと当然トラブルに巻き込まれたりする。そのため旅行を勧めてくれた知人から御守を貰っている。霊的な存在が沙織を感知する事を難しくする御利益があるらしい。それでも波長がもの凄く合う場合は効果が無いみたいだが、今の土地神様は御守の力が効いているらしく沙織に全く気付いてないようだった。
しかし・・・・少し前から沙織の後をピッタリと付けてくる者がいる。
生者ではない・・・死者だ。沙織の後を一定の間隔を開けて付けてくる。勘違いかなと少し早歩きすると、それに合わせて付けてくる。間違いない。でも・・・何かおかしい。
少し早く歩いただけなのに必死でバタバタと走り一定の距離を維持しているような気がするのだ。尾行を撒こうと走ってもいないのに何故?そんな風に考えていると沙織の中に、ある一つの最悪の仮説が浮かび上がる。
「今、私を付けているのは・・・・・上半身のみの幽霊!?」
腰の辺りから切断された幽霊が、指を土に食い込ませながら這って移動しているため、爪が剥がれてしまった指を、それでもなお土に食い込ませ、ズルッズルッと上半身を引きずりながら沙織を追いかけてるのかもしれない。そしてそれが通った後には、爪から、そして千切れた胴体からドクドクと流れ出た血がべったりと土に染みこみ道路一杯赤い血の海が・・・。
「ヒイィィィ」