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夏祭りステルス ②

三人が金魚掬いの前を通ると、アポロが、「あの綺麗なお魚しゃん近くで見たいでしゅからサオリンやって欲しいでしゅ」と言うので、沙織は金魚掬いに挑戦するが、すぐにタモが破けた。


悔しそうな沙織を見てアポロは、金魚を手で掬って沙織のボウルに入れる。精霊や霊が物に触ると、それらは精霊や霊の支配下に入ったことになり、一般人には見えなくなる。探していた物が結局目の前にあったというのは、この場合と同じように、精霊や霊がイタズラしているのだ。


その事を利用して、アポロは金魚掬いのお兄さんの目をかいくぐり、金魚を掴んでは沙織のボウルに入れまくる。金魚掬いのお兄さんは、タモが破れたはずなのに、沙織のボウルの中に大量の金魚がピチピチと飛び跳ねている状況を見て、沙織を疑いの目で見る。


沙織は、『そうですお兄さん。イカサマしてます』と自首しそうになったが、


「いっいや~久しぶりにやる金魚掬いは楽しいな~お兄さんありがとう」


といってボウルをお兄さんに強引に手渡して店を足早に去る。


逃げるように歩いていると射的の夜店が見えた。今度はアダムがどうしてもやって欲しいというので、沙織はやったことがない射的に挑戦する。


初心者の沙織は何を狙って良いかわからないので、景品の中でも比較的大きな貯金箱を狙うことにした。


「パンッ」


ライフルから勢いよく飛び出たコルクは、沙織が狙っていた貯金箱を逸れて、店の奥の幕に当たって床に落ちる。沙織は次こそはと思い、また同じ貯金箱を狙う。今度は誤差を調整し、よく狙いを定め、沙織は引き金を引く。


ドンッ!


大きな音がなり、沙織の狙っていた貯金箱が粉々に砕け散る。沙織は恐る恐るゆっくりと首を銃声がした方に向けてみると、アダムが隣でライフル銃を構えていて、その銃口から煙が出ていた。


「サオリン、俺がフォローしてやるから、外れることなんて気にせずドンドン撃て」


アダムは沙織にそう言うと、ジャギッと音を鳴らし、空の薬莢を排出する。


『いや、景品粉々だし、それに外す事なんて気にせずドンドン撃てって言うけど、私はもう、アンタの銃から聞こえて来たドンの方が気になってるからね』と沙織が心のなかで思っていると、


またまた視線を感じて、ゆっくり首を戻し正面を見ると、射的の親父さんが沙織を疑いの目でガン見していた。


「嬢ちゃんアンタ何かしたかい?」


「そっそんな、わっ私は何もしてませんよ。オジサンの目の前で普通に弾込めしてたじゃないですか。もし何かあるとしたら、前の人が何か細工をしたのかも知れませんよ。アハッアハハ・・・」


乾いた笑いを無理矢理絞り出し、アダムの頭部を鷲づかみにして店を足早に去る。


「ちょっと二人ともいい加減にして!私をこの祭出禁にさせたいの!悪い事しちゃダメじゃない。それにアダム、あれは何?本物じゃないの!?」


「本物のライフル?まさかそんなこと有るわけ無いだろ。ちょっとリアルなエアガンだよ」


アダムは沙織に笑いながら答える。沙織は、『いや、音がリアル過ぎるだろ、それに最近のエアガンは薬莢やっきょうが出るの?』と思ったが、アダムの言う通り本物のライフルなんて、まさか持ってるはずがないと考え直し、アダムを信じることにした。


「アポロは、一匹も金魚がとれないサオリンが可哀想だったでしゅ。密林の王者たるもの狩りの仕方を知らない者にやり方を教えるのは当然でしゅ」


「アポロ!金魚掬いは、あのすぐ破れるタモで掬うのがルールなの。私も手で掬ったらいくらでもとれるよ!」


アポロは沙織に怒られてシュンとしてしまう。


「おいおいサオリン。そう怒んなよ。俺と違ってアポロは、サオリンを助けようと100パーセント善意でした行動なんだからよ。ホントなら一緒にタモを持ってサオリンを助けたかったんだよな?」


俯いて落ち込んでいるアポロがウンと一つ頷く。そんなアポロの姿を見て沙織の心が痛む。


「アポロ、私を助けようとしてくれたんだね。ありがとう。でもねアポロ、遊びにはルールがあるの。それは守らなきゃいけないの。お店の人が困っちゃうからね。分かった?」


アポロは先程と同じように、俯いたままウンと頷く。


「じゃあ、お説教は終わり。アポロ、私を助けようとしてくれたお礼に一杯美味しいものを食べに行こう!」


沙織はそう言って、アポロの頭をナデナデしてあげる。アポロの顔は一気に明るくなり、沙織の身体をよじ登り、沙織の顔や髪を舐めて甘える。


「へへッ。元気になったようだな。祭に喧嘩は付きものだが、アポロとサオリンがギスギスしてちゃ楽しくねえよ。さあ行こうぜ」


アダムが二人にそう言い、夜店の方に歩き出そうとする。


「ちょっと待ちなさいアダム。さっき「俺と違ってアポロはサオリンを助けようとした」とか言ってたわよね?と言うことは、アンタはやっぱり確信犯ね!わたしが困るのをわかっててやったわね!」


沙織はアダムのほっぺたを思いっきり引っ張る。


「イタタタタタ!止めてくれよサオリン。これから美味しい物たべるのに口がおかしくなっちまう」


「あら、これから美味しい物を一杯たべるんだから、一杯頬張れるように、お口の筋肉をほぐさないとね」


「ギャアアアアァァァァァァァァーーー」


沙織はギリギリとアダムのほっぺたを引っ張るのを、アダムが謝るまで続けた。




「「オオオー」」


綿飴を作る様子を見て、二人は歓声をあげる。


「この姉ちゃん、砂糖を雲状にして箸に巻き付けてるぜ。凄えアイデアだ」


「サオリン早く!早く綿飴を食べたいでしゅ!」


「フフフッちょっと待ってなさい。お姉さん、この大きな袋に入っている綿飴一つ下さい」


「はい、五百円ね。ありがとう」


沙織が袋を受け取ると、二人は袋に飛びつく。


「コ~ラ。今開けてあげるから待ちなさい」


沙織が袋を開けると、同時に二人は手を突っ込み、パクパクと競い合うように貪り付く。


「ウメエェェェェー」


「美味しいでしゅ~。フワフワで口の中に入れるとすぐ溶けるでしゅ~。いくらでも食べられるでしゅ~」


「もう!二人共。私も食べるんだからね」


二人がパクパクと食べている間に、沙織が割って入り、三人は大きな袋にパンパンに詰まっていた綿飴を一分も経たずに食べきってしまった。


「美味しかったねえ~。みんなでパクパク食べたからより美味しく感じたよ~」


「いやーこりゃ一個じゃ足りねえよ。サオリン、返りに2個位買って帰ろうぜ」


「そうだね。私も久しぶりに食べたら、もっと食べたくなっちゃった。一人に一個買って帰ろっか」


「賛成でしゅ」


アポロはよっぽど気に入ったのか、さっきから綿飴が絡み付いた手を、ペロペロと舐めている。


「綿飴がこんなに美味いとリンゴ飴も期待しちまうな。サオリン、早く次に・・・さっきから変だと思ってたんだが、何ソワソワしてんだ?」


アダムは、周りをキョロキョロしたり、髪を何度も触ったりしているサオリンに尋ねる。


「べっ別にソワソワなんてしてないよ。ただ・・・二人が褒めてくれた浴衣が皆にどう見えてるのかなって思って・・・」


「あっナンパを待ってんのか。遊んだり、食ったりしてたから忘れてたわ。どれどれ周りの反応はっと」


アダムは周りを見る。すると何故か、夜店のために道幅が狭くなり、祭に来た人達で、混雑しているはずなのに、沙織の周りだけ空間が出来ている。それでも混み合っているため、次々と沙織に近づいてくる人達がいるのだが、沙織を見つけると、男女共サッと目を伏して沙織から離れていく。



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