落とせ!難攻不落の姫路城!!85
「そっそんな馬鹿な・・・何という方法で正気に戻るんだ・・・」
沙織が阿修羅とマハルの元に帰ってきた。
「沙織、なんであんな危険な真似をした」
阿修羅は帰って来た沙織を問い詰める。
「えっ?それは今度の敵が強くて私が何とかしないと犠牲がでるから・・・」
「沙織!」
阿修羅は沙織の頬を張り飛ばす。
沙織はカウンターを越え、酒を陳列してある棚にぶつかり、酒まみれになる。
「阿修羅様!」
「黙ってろマハル!お前も同じ気持ちだろが!」
マハルは苦い顔をして黙る。
阿修羅は座り込んでいる沙織の胸ぐらを掴み強引に立たせる。
「沙織、沙織よ!お前の命も尊いのだ。お前一人の命で全てを護れると思うな。お前程度が思い上がるな。この阿修羅でさえ出来ないのだぞ。両親が何故陰陽師になれと言わなかったのか分かるか?それはお前のその甘ったれた自己犠牲の心だ。お前はたまたま運良く人を救うことが出来て気持ち良いかもしれん。だが周りの者は、お前の緩やかな自殺を見せつけられているようなものだ。いつかお前は死ぬ」
阿修羅は沙織を抱きしめる。
「沙織よ、俺にまた隆文が死んだ時のような悲しみを与えるつもりか!・・・勘弁してくれ。俺はあの時ほどこの牢に縛られている自分を後悔したことはない。隆文に続き娘のお前も見殺しにしたなどと・・・」
阿修羅は涙を流す。阿修羅の涙が沙織の頬に落ちる。阿修羅の気持ちに沙織も涙を流す。
「ごっごめんなさい阿修羅様~~~」
二人は強く抱きしめ合う。
「やれやれ一時はどうなる事かと。沙織さん、私からもお願いしますよ。あまり危ない事をしないように。その為にアダムに言いつけておいたはずなんですがね。今度会ったら説教ですね」
「いえいえとんでもないです。アダムはメチャクチャ私を助けてくれてます。今も命懸けで助けてくれましたし、探偵業が取りあえず上手くいってるのはアダムのおかげですから。私がいつもアダムに迷惑をかけてるんです。だから一杯褒めてあげて下さい」
「フフフッそうですか。では今度会ったら一杯褒めてあげましょう。でも私から褒められでもしたらアダムは気味悪がるでしょうね」
「う~~ん・・・そうだカクテル!え~っとソルティードッグ!あの時も偽物ですけど作ってくれてましたよね。それをたくさん作ってあげて下さい。アダムの蔵書にカクテルの本があるんですけどソルティードッグのページが勝手に開くぐらい見てるんですよ。マハルさんのソルティードッグが恋しいんだな~って思ってたんです」
「感心感心。アイツのメチャクチャな行動には何度も頭を悩まされましたが、カクテルの味だけは本当に良く分かっている。分かりました沙織さん。今度アダムに会った時にはアイツと沙織さんの為だけにカクテルを作る事を約束しましょう」
「ありがとうございますマハルさん。本当にいつも助けて貰ってばっかりでどうしよう・・・」
「そんな事を思う必要はありません。沙織さんに会えるだけで私は幸せですから」
「もう!マハルさんたら。口が上手いんだから」
マハルと沙織は笑う。
そんなマハルの肩を掴み、耳元で阿修羅が囁く。
「残念でしたマハルちゃ~~ん。沙織はお前の心の機微を見抜くほど勘の鋭い女の子じゃありませ~~~ん。むしろ鈍感で~~~~す」
「殺す!今ここで俺がお前を始末してやる!」
マハルはアイスピックを構えて阿修羅を追いかけ回す。阿修羅は笑いながら逃げている。
そんな二人を見て本当に仲が良いなあと思う沙織だった。
「それでは阿修羅様、また来ますね」
「ああ今度は一緒に飲もう。剣にここに来たいと願いを込めれば俺が引き込んでやるからな。そうそう、アダムという奴も連れて来たら良い。マハルが気に入っている奴だ。俺も話したいからな」
「はい分かりました。それもあるんですが私は別の用事でここに来たいと思っています」
「うん?ハハ~~ンま・さ・か・マハルに会いに来たいのか?」
マハルは顔を赤くしながら阿修羅に殺気を飛ばすが、マハルも沙織の答えが気になる。
「そっそんなんじゃ・・・私は阿修羅様、あなたを解放したいんです」
阿修羅の表情が変わる。
「父さんが残してくれたノートに書いてありました。『沙織、もしお前が陰陽師の道に進むというのであれば父さんの親友 阿修羅を解放してやってくれないか。まあ出来なかったら出来なかったで飲み友達になってやってくれ。良い奴なのは父さんが保証するから』って。あっでもそんなに期待はしないで欲しいなあ、飲み友達ならバッチリですけどね」
阿修羅は脳天に雷が落ちたかのような衝撃を受けた。
「あっでも阿修羅様を解放してもマハルさんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫も何も我が一族の悲願ですよ。まあ少しは私も阿修羅様のオーラを利用してますが・・・あっでも私がアダムに会うと喧嘩するのは阿修羅様のせいかもしれませんね。阿修羅様のせいで怒りっぽくなっているのかも」
マハルは沙織に笑いかける。
沙織も笑う。
「それに私は自身のオーラの4割程使って阿修羅監獄を作っています。もし解放できたら、その4割のオーラを自分のために使えるようになるだけです。一族に生まれ落ちてからの因縁から解放されるなんて幸せすぎて一生沙織さんに感謝しますよ」
二人は笑う。
阿修羅はまだ一人黙っている。
その姿に沙織は心配になる。
「阿修羅様、どうかしましたか?」
「いっいやっ何でも無い。沙織、助けが欲しければ俺を呼べ。呼べば必ず俺がお前の力となろう」
「ありがとうございます阿修羅様。それでは失礼します」
沙織はスッと消えて現実世界に帰っていった。
「・・・隆文よ、お前の言ってた事は本当だったのだな」
阿修羅の目から涙がこぼれ落ちる。
この空間に囚われている阿修羅を解放する方法はある。
阿修羅の100%の怒りを受け止める者が現れる時、阿修羅は解放される。
『阿修羅、もし俺の娘の沙織が陰陽師になればお前を解放できるかもしれん。まあ沙織次第だから・・・期待されても困るが待っててくれ』
「隆文よ、お前が死んで諦めていたが、いや期待などしてなかったな。そう言ってくれるお前の優しさが嬉しかったのだ。ここで親友のお前を救う事も出来なかった無力な自分を呪い、飲んだくれる日々だったが・・・。隆文よ、親友のお前の忘れ形見である沙織を俺は絶対死なせはせん」